第198話良かった。私だけじゃないみたいです

 


 ──彼女の言った事は本当だった。



 ──その炎は私の全てを焼き尽くした。まるで神経を直接炙られる。そんな形容詞しか思い付かないような地獄の様な時間だった。



 ──どれ位の時間がたったのだろう? 一瞬が一生にも思えるような神経を炙る熱の中、私は過ぎた熱さは痛みに変わるのだと思い知る。しかし、その地獄の様な時間は唐突に終わる。


(まさか、本当に私を従えるとはね……。良いわ、認めてあげる。よく聴きなさい。私の力を使うには──)


 ▶称号【繋ぐ者(リンカー)】獲得しました。

【繋ぐ者】の称号によりスキル【精霊融合】を習得しました。

 ▶【精霊強化】を習得しました。

 ▶【属性強化、小】を習得しました。

 ▶【火属性吸収】を習得しました。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 突然苦しみから解放されたと思ったら、目の前には今正にエレオノに向かって攻撃しようとしている自分。


 急展開過ぎます!


 そんな私の心の悲鳴など知った事かと言わんばかりに、私の周りに浮かんでいた石槍がエレオノに向かっていく。


 どどど、どうすれば! あぁ、そうです!


 私は何とか射出した石槍に干渉して、エレオノを縛り付ける鞭を切り裂きそのままカーチスカを狙う。そして──。


「お待たせしましたエレオノ。さあ、カーチスカを倒しましょう」


 高らかに宣言してみました。


 ご主人様の様に言った積りですけど、これちょっと恥ずかしいですね。でも、これを普通に出来るご主人様はやっぱり凄いです!


 私はエレオノに近付きアイテムを渡して回復させながら、勿論カーチスカへの注意も怠らない。


「アリシア良かった~。元に戻ったんだね!」

「すいませんエレオノ。一人で頑張らせてしまいました。それに……その力」

「ううん。アリシアが戻って来たんだから良いよ。種族が吸血鬼に成ったって私は私だしね?」


 やっぱり、強いですねエレオノは。


「あ、貴女……どうやって……」

「どう? どうとは随分な言い方ですね。せっかく貴女の支配を上回って契約したのに?」

「ば、バカなこと言わないで! 私ですら道具とガダル様のお力をお借りしてやっと従えたのに!」

「なら……貴女より私の方が優秀だった。と言うだけの事でしょう? 私の友達を傷付けた罪は重いですよ」


(うわ、アリシアがマジギレしてる。でも友達とか言って貰えて嬉しいかも。って、そんな場合じゃ無い! 集中、集中)


「調子に乗って! 殺してやる!」


 不思議ですね。先までは敵うかどうか分からなかったのに今はもう大丈夫な気がします。それに、エレオノはもう大丈夫そうですね。


「行けますかエレオノ」

「うん」


 なら、行きますよ! あなたも準備は良いですね?


(良いわよマスター。さあ、唱えなさい! そうすれば私の力の全てを使わせて上げる! そして、あの魔族を私の炎で焼き尽くしなさい)


「我が呼び声に応えその力を我に与えよ! 強きもの! 燃え上がるもの! その真名はセクメト!」


 私は精霊セクメトから教わった呪文を唱え【精霊融合】を発動する。


 【精霊融合】は力ある精霊をその身に卸ろし、精霊の力を術者が扱える様にするスキル。

 今回は勿論セクメトです。


 スキルを発動した瞬間、契約していたセクメトの力が私の内に溢れ、その力が私の魔力と混ざり合い私自身の姿を変化させていく。


 でも、そうは言っても容姿や体型が変わる訳では無く。私の装いが二人の力が混ざった物が形となり、防具として身に纏った状態に成ったのだった。


 しかし、魔力や各種ステータスも上り。更には、私の体から火の粉が舞い落ちている様から分かる通り、今の私には火属性の攻撃は効かず、寧ろ吸収する事で回復する状態に在ります。


 そんな変化を遂げた私がふと視線に気が付き横を見ると、エレオノが驚愕に染まった顔で私の事を見ていました。


 あれ? 私何かやらかしましたか? ご主人様じゃ無いから何もしていないと思いますが?


「な、何それ! カッコいい! えっ! どうしたのアリシア!?」


 あっ? そう言う事ですか。何となく納得です。エレオノのこういう所はご主人様と似てますね。


「後で話します。それよりも──」


 凄い勢いで詰めよって来たエレオノを諭そうとすると、カーチスカから魔力球が飛んで来た。私はエレオノを抱え、ご主人様の様に足裏で爆発を起こし飛び上がる。そして──。


「フレイムレイン」


 私が放ったのは、通常数本のフレイムランスを頭上から数十本雨の様に降らせるオリジナル技だった。


 私の放った炎の槍の雨は私達を追ってきた魔力球を打ち消しカーチスカに降り注ぐ。それと同時に私から離れたエレオノは、黒い霧の様なオーラを纏い、翼を広げ炎の槍を目隠しに一気にカーチスカの死角へと回り込む。


 ……えっ!? 翼!? えっ? 何で!? エレオノ貴女何時の間にそんな翼なんて生えたんですか!? それに何ですかその黒い霧の様な物!? それ出してからいきなり動きが良くなりましたよね!?


 私は自分の事は棚に上げ、仲間の急激な変化に聞いてない。と、戸惑いを隠せずプチパニックを起こす。すると下からその隙を狙い、槍の雨を凌ぎきったカーチスカが魔力砲を放ってきた。


 うわっ! 危なかったです。集中、集中。


 その攻撃をヘルさんの武装の様に炎を推進力にする事で回避する。下を見ると死角から攻撃を仕掛けたエレオノがカーチスカに斬りかかっていた。


 上、下、左、右と、縦横無尽に迫る刃を捌くのは流石と言える。そして、カーチスカはエレオノの攻撃を捌きながらも、またしても新たな魔物を呼び出そうとしていた。


 私はエレオノに【念話】を使い足止めを頼み魔力を集中する。恐らく今の私達でも普通に戦うとカーチスカは倒せない。だからこそ一撃に全てを掛ける必要があった。


 魔力を集中する私の前では、完全な吸血鬼に成ったエレオノの嵐の様な激しい攻撃が続く。

 しかし、カーチスカも負けてはいない。時に魔力で時に剣や鞭を使い、エレオノの攻撃を捌き反撃を加える。それでもエレオノは危険を承知で張り付き続ける。


 カーチスカの鞭が少し距離が出来たエレオノの体を絡め取ろうとする。それを、剣でいなしながら地上を掛け距離を詰める。

 しかし、そんなエレオノにカーチスカの剣が襲い掛かり横凪ぎの一撃で首を狙う、だがエレオノは身を屈める事でその一撃を潜り抜け、逆に体を起こす反動で突き技を放ち顔を狙う。

 その攻撃を首を傾け避けると同時、起き上がったエレオノの腹にカーチスカの膝が突き刺さり体が浮いた。

 その瞬間、魔力球がエレオノに向かうが、それを空を飛ぶ事で回避して、ダークボールで誘爆させ爆風の中を突き抜けまたも接近戦に挑む。しかし、カーチスカもその一瞬で魔物を召喚する。


 そんな光景をもどかしい気持ちで見ていると、必要な魔力がやっと溜まり私は呪文を唱える。


「──罪火の炎、復讐の炎、全てを焼き尽くす業火よ。我が難敵に罪火の鉄槌を与えん!」


 私の魔法の完成を察知したエレオノはカーチスカの攻撃を弾くと同時に、コロから貰った短剣でカーチスカの足の甲を刺し地面に縫い止め、自分は空へと退避する。



 それを確認した私は最後の言葉を唱えた。


「フレアノヴァ!」


 私が呪文を唱えた瞬間、カーチスカと魔物は私が作り出した炎の光球に飲まれ爆発と共に盛大な十メートル程の火柱が立ち上る。そして、十数秒の時と共に火柱は消え去ろうとしていた。


 その時、細くなっていく火柱の中から全身炭の様に成ったカーチスカが飛び出してきた。その手には私の事を殺せる程の魔力を込め私の命を狙う。


 うっ、体が、動かない。


 私は大威力攻撃の代償で体が動かない。しかも【精霊融合】も解けてしまっていた。

 しかし、「キュウー!」と言う鳴き声と共にキュールが飛び出し【ルビーの護り】で私とカーチスカの間に結界を張る。でも、その努力も虚しく結界は直ぐに壊れてしまう。


「キュールナイス!」


 その僅かに稼がれた時間でエレオノが私の元に駆け付ける。


「なっ!」


「これで終わり! ブラッティークロス!」


 エレオノの剣と恐らくエレオノの血で出来た深紅の剣が、二刀となりカーチスカを切り裂く。そして、私達の見ている前でカーチスカのHPは全て無くなった。


「く~、やったねアリシア! リベンジ成功」

「そうですねエレオノォッ──」


 抱き付いて来たエレオノを抱き止めようとすると、体のあちこちに痛みが走る。


 へ、変な声が、いえ、それよりも腰が、脚が、う、腕まで? ま、まさか、歳……とか? そ、そんな訳在りません。私何てエルフの中ではまだまだ子供です! 子供ですよ!?


「どうしたのアリシアァッ!? えぅ、な、何か身体中が……な、何でいきなり~」


 あっ、良かった。私だけじゃないみたいです。


 そんなエレオノの姿を見て少しホッとしていると。


「そっちも終わったようじゃな?」

「クー? コロに背負われてどうしたんですか?」

「それ、二人も言えないんじゃ無いかな?」

「じ、実は、無理な事をしたお陰で身体中が痛いのじゃ~」


 あっ、ここにも仲間が居ますね。


「どうやらお主達も似たりよったりの様じゃな」

「はい。恥ずかしながら」

「うぅ~。痛いよ~」

「皆さん無事の様ですね」

「あっ、ヘルさん。って腕が! それにアクアもボロボロ」

「私の腕は何とでも、アクアは見ての通り動けませんね。フロスト達からは連絡が有り、追い詰めた所前方のあの集団に紛れて逃げられた為、結衣と共に前線の加勢に行ったようです」

「そうですか」

「それにしても、二人は大分変わった様じゃな」

「変わったってどういう事かな?」

「気が付かんのか? エレオノは完全な吸血鬼に成ってるし、アリシアも先程【精霊融合】を使っていたのじゃ」

「さっきの凄いの【精霊融合】っていうのっ、ぉ~」


 あぁ、エレオノが急に動いたからまたへたりこんでますね。


「うむ。力在る精霊をその身に宿す技じゃな」

「それも大事だけど、それよりもエレオノが完全な吸血鬼に成ったってどういう事かな!?」

「えっと、いろいろ在って。取り敢えずハクア達と合流して全部終わってからでも良い? ミオの事も在るしゆっくりしてらんないからさ?」

「はぁ、分かったかな」


 エレオノの言葉に多少納得いかないみたいですけどコロは諦めたみたいですね。でも実は私も気になってるんですよね。


 しかし、私はこの時もっとエレオノが吸血鬼に成ったという事を、ちゃんと考えるべきでした。まさか、あんな羨ま──では無く、妬ま──でも無い! そう! あんな事をエレオノがするなんて!


 そんな事になるなどまだ知らない私は、アクアに回復薬を使いつつ、ご主人様と合流する為に皆と移動するのでした。

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