第465話口が滑っただけなのにーーーー!!
パンッパンッパンッと、断続的に鳴り響く手拍子の音。
そんな音が鳴り響く中、私とおばあちゃんは互いに向き合って手を握りあい、お互いの息を合わせステップをシンクロさせる。
「はい。そこでターン、サイドチェンジ、スピンターン、リバースターン、ウィスク、シャッセ、ターンで決め」
テアの言葉に従いビシッと止まる。
それを見ていたシーナとムニが拍手を鳴らす。
ふぅ、決まった。
「じゃ、ねえわ!?」
「あらあら元気ねハクアちゃん」
「なんで私はこんな所まで来て社交ダンスなんぞ踊ってるんだぁーーー!! もう本当に今回の修行パート入ってから、予測不能過ぎてツッコミが追いつかないんだよぉ!!」
「いつツッコミが来るかと思っていましたが、律儀に最後までやるとは、なかなか長いノリツッコミでしたね」
なんなん! なんで私は異世界で社交ダンス……いや、ワルツ踊っとるん!?
そしてなんでドラゴンがワルツ? 人間の貴族とかなら社交界とかであるかもだけど、なんでドラゴンも知ってんの!?
そしてそもそもダンス踊るのになんの意味があるんだよぉ!
昨日、スキルの確認が終わった後、少し話をしてすぐに私の意識は糸が切れたようになくなった。
相当、そ・う・と・う! 疲れていたのだろう。
そして今日はと言えば、朝ご飯をモリっと食べてそのすぐ後にこの状況だ。
気が付けばもう日も高くなっているし、どうやら四時間くらいはぶっ続けでやってたみたいだ。
「ちゃんと意味はあるわよ」
「マジでか!?」
「こうやって手を握る事で物理的に同調を促し、ドラゴンコアを共鳴させるの。そうする事で強制的に覚醒を促せるのよ」
「だったら手を握るだけで良くね?」
「同時に動きもシンクロさせる事で更に効果が上がるのよ」
なんだろう。言いくるめられてる気がする……。だってその割になんも起きないもん!
▶継承個体がドラゴンコアとの同調率を深めた為、継承が再開します。
……25.3%……26.45%……28.77%…………31%継承個体が未熟な為、継承が中断されました。
継承個体が成長する事で継承が再開されます。
継承個体の継承が30%を超えた為、継承個体がスキル【竜眼】を獲得したしました。
【竜眼】
霊龍を観る事が出来る特別な眼。
こ……この野郎。こっちが文句言ってから出てきやがった。
昨日だって結局、最後の最後、怪しいスキルを睨んでいたら、予想外に【暴喰】が出張ってきて【暴喰獣】と【ドラゴンコア】を合体させ【貪食竜】なんてものを作り出しやがった。
しかもその事を皆に言ったら、おばあちゃん達から何言ってんだこいつ。みたいな目で見られるし……。
私だって……私だって被害者なんだからそんな目で見るなよぉ……。
因みに【貪食竜】のスキルは、合体したものから分かる通り【暴喰獣】で作り出せる蝿が、竜の姿へと変わったものだった。
効果としてはMPタンクとしての性能が上がった他、【貪食竜】自体が意志を持っているようで、一応私の使役獣や使い魔のような扱いだ。意識レベルでは繋がってるから細かい指示も出せる。
しかも【貪食竜】自体にもレベルが存在して、ステータスも存在する。スキルというよりも一個体、本当にただのドラゴンとなった感じだ。
だってステータスにもちゃんと稚竜とかって称号あったし。
そして貪食の名に恥じない効果としては、魔法系の攻撃を吸収する事も出来る。姿は真っ黒な小型のドラゴン。というか、私の精神世界で会ったコアそのものだ。
召喚してすぐ私の事を認識したコアは、さっきぶり。とでも言うように挨拶もしてきた。
あの時の感情といったらもう、やはりか貴様という感じだった。
しかしどんな風に魔法を吸収するのだろう? と、思って試したら、なんと胴体部分が縦にバカっと割れ、歪な歯並びの口が現れ、そのまま魔法を呑み込んだ時は若干引いたよ。
どうやら口は顔ではなく胴体らしい……なんでなん?
そして更にびっくりしたのは、コア自体が私の意志とは関係無く【貪食竜】のスキルを使い、使い魔を召喚出来る事だ。
しかもそれは私のMPとは別換算、コアの分体扱いらしく、感覚としてはクイーンスライムのヌルと同じような生物になったみたいだ。
更に恐ろしいのは、ヌルとは違いスキルのコアは、私が死なない限りは本体も何もなく、何度でもMPのある限り復活が可能な事だろう。
これはもしかしなくても怒られ案件なのではないだろうか? ……未来の事は未来の私に任せよう。
昨日の事を思い出し、再び私のスキル様方にイラッとしていると、テアが私に近づいて来る。
「白亜さん。眼の力を使って下を見てみて下さい」
「下? うおっ!?」
テアの言葉に従い下を見ると、そこには全てを透過して遥か下の方に流れる光の川が見えた。
「これは霊脈? そうか龍脈! 霊龍ってのは──」
「そうですね。霊脈や龍脈と呼ばれるものです。そしてマナとは星の力」
「つまりは目に見えないマナを観る力って事か……」
「その通りです」
「そして観る事が出来るという事は、使う事も出来るという事よ。まあ、今のハクアちゃんだとまだまだ先の事だけれどね」
だとしても、いつかの日かあの雄大な力の一端に触れる事が出来るのならば、それは大きな力となる事が分かる。
まあ、そんな事出来るとは思わないけど。
「ドラゴンとは龍を従え、龍に至るのよ。龍に至る為に必要な要素の一つがその【竜眼】」
なるほど、龍王とは龍脈の力をも扱える奴の事をいうのか。そりゃこんなモノを使えればあんだけ強くもならあな。
そういえば昨日の会話であの後、仮説ではあるが私の鬼の力になかなか体が適応しなかったり、鬼と竜の力だけ育っていったりした理由がわかった。
簡単に言えば、鬼は力に対して肉体が弱いと体が壊れる。その為、上がり続ける力に対し、体が壊れる度に筋肉の超回復のように肉体が強化される。
そして竜の力は、鬼のように力が上がり続ける事は無いが、本人が力に対する資格を得るまで成長が止まるのだ。
そして私は鬼であり竜である。
ただでさえ早い鬼の力の育つスピードが、更に進化のスピードまでプラスされ、肉体の成長だけ間に合わなくなった。しかしそれでも鬼の力だけなら、その内肉体も適応していくはずだった。
それなのに途中で竜の力が加わった事で事情が変わった。
結果、鬼の素養で二つの力は上がり続け、竜の素養で力に対して資格がない為、本来なら進化もレベルアップも関係無く、肉体が力に適応していくはずが、これまでの私のような結果になったのだ。
つまり……ダメな所が重なり、いい所の成長するという部分までマイナスに働いた結果が、これまで歪な成長をし続けた原因なのだ。
まあ、これには進化のスピードも関係してるが、大きな要因としてはこれが正解なのだと思う。
「しかし……こんな踊りで継承率が本当に上がるとは……ドラゴンって馬鹿なの?」
「あらあら、聞こえてるわよハクアちゃん」
しまった罠か!?
「いえ、ただの自爆です」
「ギニャーーーー!?」
あらあらうふふとヘッドロックを食らった私は、暴れても暴れても全然逃げられない。
あ、頭が割れるーーーー!!
「あー、割れるかと思った」
数分後、ようやく解放された。
しかしせっかく体も骨も丈夫になったはずなのに、全く痛みが軽減されてない件。まあ、それだけおばあちゃんの力が強いんだろうけど。
「ハクアはよく水龍王様相手にボケられるの。やりたくないけど尊敬はするの」
「ホントっすね」
ボケたくてボケた訳ではないのよ? ちょっと口が滑っただけなのだよ?
「でもハクアちゃん。この踊りは前に言った源龍術の初歩段階なのよ」
「マジで!? これが秘術の初歩段階とかやっぱ馬鹿なんじゃ。って……ギニャーーーー!?」
「懲りませんね」
「懲りないっすね」
「懲りないの」
口が滑っただけなのにーーーー!!
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