第456話裏切れないこの笑顔

 くそー。まさか腕に引き続き、目まで殺られるとは思わなんだ。【痛覚耐性】が通じない分、腕よりも辛かったかも……。


 そんなある意味どうかと思う事を思いながらさっきの結果について考える。


 まず、失敗しないように呪文まで唱えたのがいけなかった。あれさえなければもう少し威力小さかったかもしれん。

 そしてあの威力、普段魔法を使う魔力と同じくらいのマナで発動したはずだけど、体感で三倍から四倍の光量だった。

 それを踏まえると、マナというものは恐ろしい程の可能性を秘めている事になる。

 また、同じ部類である仙力も同等と考えれば、それよりも先に位置する鬼の力と竜の力。それは私が考えていたよりも危険な力なのかもしれない。


 まっ、覚えなきゃ死ぬだけだから危険でも使えるようにするけど。


「正直、いくら白亜さんでももう少し時間が掛かると思っていましたが、予想以上に早く下準備に取り掛かれますね」


 悲報

 これだけ頑張ってまだ下準備にすら届いてなかった件


 マジすか。マナの扱いとか仙力覚えるとか、これ普通の小説とかだと長い修行の末に体得するもんよ? それを下準備にすら届いてないとかどういう事だってばよ。


「そうですね。まあ、終わってみればハクちゃんだしなぁー、って感じですけど」


「何その投げやりな感じ!? しかしまあ、マナを感じられるようになってわかったが、さっきの戦いで私がアカルフェルに感じてた違和感はコレか」


「ええそうよ。見えないはずのものを感知して避けているものだから驚いちゃったわ」


「いや、こうなんか肌がピリピリとして危なそうだなって」


「その感覚は大事だよハクちゃん」


「ああ、前から言ってたね」


 これは地球に居た時から言われていた事だ。その言葉の通り行動して、そのお陰で今なんとか生き残れていると言っても過言ではない。


「白亜さんにはこのまま次の段階に進んでもらいます」


「あ、安定のスルーですかそうですか。で、次の段階って?」


「今まさに習得した仙力とマナ。この二つを使い白亜さんの身体を作り替えます」


 何それ怖い!?


「白亜さんが読んでいた漫画の、武人などが使う武功を思い浮かべて貰えばわかりやすいでしょうか? 丹田に仙力を集めそれを外からマナで圧縮します。そうする事で身体をより強靭にする事が可能なんです」


「ほほう。そこまでせんと力を扱えんとはドラゴンも大変なんだね」


「いえ、ここまで苦労するのは白亜さんだけですね」


「なして!?」


 えっ? 酷くね?


「通常、これらはレベルアップで行われるんですよ」


「私もレベルは上がってるのですが?」


「ハクちゃんの場合ちょっと特殊なんだよね」


 何が?


「白亜さんも知っての通り、レベルアップしていくとモンスターなら進化を人間やエルフなどの種族なら位階を上げられます」


「それは知ってる」


「端的に言えばレベルアップは身体を強靭なものにし、進化や位階を上げる事でより強力な力を宿すことが出来るんです。特に進化はその傾向が強いですね」


 ふむふむ、なるほど。


「でもハクちゃんはその……ね? 普通ならレベルアップっで進化するのに特殊条件や、私達でもよく分からない方法でここまで一足飛びに進化して来ちゃったから、ぶっちゃけ身体の強化が追い付いてないんだよ」


「ええ、私達としても予想外と言うか面白──ではなくて、把握しきれないのが現状なんです」


 今、面白いって言おうとしたぞこの神メイド。


「鬼の力を手に入れて、神の領域に片足突っ込んで、神獣化して邪神の力を取り込み、今は竜の力。正直私達でも予測不可能だよね」


「改めて羅列されるとなんだコイツ」


「白亜さんの事ですからね」


 わかってらい!


「この方法で力を高めると血管、骨、内臓、筋肉、皮膚という順により強靭になっていきます」


「んー。本当にあっち系の漫画のようだ」


「まあこれはレベルアップとは違う方法の鍛え方だから全く同じ訳じゃないけどね」


「そうなの?」


「うん。レベルアップは魂の強化に身体が付随して強くなるもの。こっちは自分の力を使って無理矢理強化する感じなんだよ」


「へぇー。じゃあこれをやればレベルアップとは別枠で身体を強化出来るの?」


「そうそう。ちなみにこれを他の人間が出来ない理由が、強靭な精神力に集中力が必要で、それに加えてマナと仙力の緻密なコントロールが必要だから出来ないんだよ」


「そうは言っても澪さんやお嬢様達もこれを覚えて頂く予定ですがね」


「本当!」


「ええ本当です」


「私だけじゃなくてあっちにもちゃんと地獄見せてくれる?」


「ええ、もちろんです。何せ向こうに残っているのは心と咲葉ですからね」


 おお、あの二人なら必ずやこっちに負けず劣らずな地獄を築き上げてくれるはず!!


「良かった安心したよ。私だけが辛い目に遭うとか勘弁だからね。あっちも地獄になってるなら少しは頑張れる」


「ハクちゃんって本当にいい性格してるよね」


「白亜さんは後ろ向きに前向きですからね」


 何か失礼な事を言われているが今は良しとしよう。


「それでどうやってその強化ってやるの?」


 私がそう聞くとそれまで黙っていたおばあちゃんが満面の笑みで近付いてきた。


 あ、あれ? 何故だろう。凄く逃げたい……。


「それにはね。コレを──」


「ごめんちょっとおうち帰──」


「まあまあハクちゃん落ち着いて座ろうか」


「そうですよ白亜さん」


 速い。いつ後ろに移動をっ!? こんな時だけ本気出さんでもええやん!?


 おばあちゃんの取り出した物を見た瞬間動き出そうとした私。しかしその肩をいつの間にか素早く後ろに回り込んだソウとテアに押さえ付けられる。


「おばあちゃん悲しいわ。せっかくハクアちゃんの為に高い素材使って作ったのに」


「いや、でもね?」


 悲しいわ。と、目元を袖で隠しながら泣き真似をするおばあちゃん。


 しかし騙されてはいけない。その手に持っている器の中には、今もコポコポと音を立てている謎のケミカル色な液体があるのだ。


「あー、私親代わりの師匠から拾い食い程度なら良いけど、ケミカル色の明らかに危険な物は口にするなと生前厳しく──」


「いえ、朝霞なら確実に面白そうだから飲んでみろと言いますね。そして禁止されていたのは拾い食いの方です」


 くそ、確かに師匠は言いそうだ。そして禁止されていた覚えはない。きっと、多分、恐らく?


「あら、じゃあ決まりね」


「まって、待って待とうちょっと待って! えーとね。うーんと……」


 何か、何かないか? あのケミカル色はやばい。確実に【暴食】の効果を超えてくる気しかしない!


「……ん」


 私が必死に頭を抱え思考を巡らせていると、私の手がモザイク必死になったのを目の当たりにして気絶していたユエが目を覚ました。


 しかしそんなユエに私が話し掛ける前に、素早く移動したソウが何やら耳打ちしている。


 やべえ。何がやばいかは分からないけどダメな予感しかしないや。


 その証拠に寝ぼけまなこで私の事を見ていたユエの瞳が、キラキラと憧れのモノを見るかのように輝いている……気がする。


 き、気の所為。きっと気の所為だよ。


 本当ならばすぐに駆け寄り、心配するついで、あくまでついでにソウから引き剥がしたい。

 だが、今の私はテアに見事に押さえ込まれて身動き一つ取れない。


 どんな力の入れ方をしているのか見当がつかないが、見た目は軽く肩に手を置いているだけなのに、なんでこんなくっそ重い重りが乗ったみたいに感じるの!?


 そんな私の絶望を他所に、可愛らしい笑顔で瞳を輝かせた終わりの使者がやってきた。


「あるじ、聞いた。あるじこれから凄く大変な修行するって、あるじ凄い。これでまたあるじ強くなる。ワチもあるじに負けないように頑張る」


 フンっと、興奮を隠す事無く鼻息荒く私に宣言するユエ。


 うん。こんなんされたらもう逃げようとか出来ませんやん。裏切れないこの笑顔。


 それがわかっているのか、テアはユエが近付いて来た段階で既に私の拘束を解いている。しかも三人はユエの背後へ回りニヤニヤとこちらを眺めている。


 ド畜生。やってやらぁー。


「おばあちゃん。頂戴!」


「あらあら。やる気になってくれるのは嬉しいけど説明が先よハクアちゃん」


「そうですよ白亜さん。やる気に満ち溢れて早くやりたいのは分かりますが落ち着いてください」


 ほぼ投げやりな気分なのを知っていながらそんな事を言う二人。しかしユエが見ている手前そんな事は言えない私だった。


 くっ、悲しい。

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