第455話目が、目玉焼きになってしまうゥーーー!!

「あー、焦ったぁ」


 自分の手が無くなって、ユエが失神するとは思わずかなり焦った。


 澪とかなら心配よりも先に説教されそうだもんな。

 他の皆でも失神まではしなそう……。


 そんなユエ。現在は新しく出したベッドに寝かせている。今もうなされているが流石にそこまではどうにもならん。


「さて白亜さん。マナの修行に移りましょうか」


「いや、その前に説明会してくんない? 何が起こったか……は、わかるけど、どうしてああなった? 途中までは良い感じでしたのよ?」


「端的に言えば肉体が高めた力に耐えきれなかったんですよ」


「……あれ? それが大丈夫になったって話じゃなかったでしたっけ?」


 うん。だから私も早速試してみたくなった訳だし。


「確かにそうは言ったのですが、まだ今の状態の白亜さんではちゃんとした鬼の力にも竜の力にも耐えきれません」


 なんてこったい。


「えっ? それやる前に教えてくれても良くない?」


「言ったところでどうせ試すでしょう。見ていない所で無茶をされるよりも、目の前で痛い目にあった方が安全です」


 ちくしょう。よくわかってらっしゃる。


「じゃあまだ全然用意が整ってないって事?」


「ええ、いまの状態は例えるならば小説を書こうと思い至った状態、今日の夕飯を何にしようか悩むレベルの買い物にすら行っていない状態です」


「絶妙に分かりにくい!」


「そして先程までの白亜さんは、小説を読んでこれなら自分の方が面白いの書けるとイキってるような状態でした」


「何その唐突なディスリ!? そして例えがすげー嫌なんですけど!?」


「とにかく、マナの制御まで出来るようになれば先の段階に進めるので頑張って下さい。因みに、このまま仙力を修行していけば仙術という特殊な技も使えるようになりますよ」


 おお、それはテンション上がるってばよ。って、あれ?


「もしかして鬼の使う鬼術って仙術の発展系?」


「そうですよ。自分がどれだけ段階を飛ばしているかわかりましたか?」


「あっ、はい……。でも、それなら鬼に進化したモンスターは、全部仙力をマスターしてるって事?」


「それが難しいところなのですが、実はそういう訳ではありません。モンスターは進化する際にその術を情報として本能的に理解するようです」


「ふむふむ。それじゃあしょうがないね。つまり私は理性が本能を押さえ付けちゃったから、その情報を取得出来てなかったんだね。うん。しょうがないしょうがない」


「ええ、白亜さんに本能を押さえ付ける理性があった事が驚きでした」


「誰が狂化EXスキル持ちのバーサーカークラスだと!?」


「恐らくユエ達が鬼の系譜になってもその力を十全に発揮出来ないのもそれが原因ですね」


「ああ、無視ですかド畜生。それは私の影響で進化したけど、同時に私の影響で人間の理性や感情が多分に含まれてるからって事?」


「そうでしょうね。ユエ達はモンスターであると同時に、白亜さんの精神にも大きな影響を受けていますから」


「それは……普通にテイムしたモンスターでもそうなのか?」


「いえ、恐らくは白亜さんにのみ適用されています。人がモンスターに生まれ変われば多かれ少なかれ影響を受けるものですが、白亜さんは全くと言っても良いほど影響を受けていませんからね」


 うーむ。複雑。褒められているようないないような。


「ともあれ、鬼の力も竜の力も扱うのはあと少しの辛抱です。……まあ、その少しが大変ですが」


「なんか最後に不穏な事言ったよこのメイド!?」


「さあ、先に進みますよ」


「また流された!?」


 色々とおあずけだし不穏なものを感じるけどか、まあしょうがないか。


「それで、率直な感想はいかがです?」


「んー。出来なくはない……けど、多少安定した分一気に制御が出来なくなった? あれ、これダメでね?」


 そう、今までがどんなに不安定な状態だったのか発動してわかった。


 しかし……しかしだ。


 最初こそ良かったが、一定ライン超えたら一気に制御不能になってしまった。


 しかもやってみてわかったが、安定したと思ってたけどあれ多少良くなっただけで、まだ全然安定してねぇや。

 例えるなら逆三角形のヤジロベエ状態でバランス取っていたのが今まで、だからこそ多少でもバランスが崩れるとすぐにダメになっていた。

 だが今はそれが逆台形になった感じ。

 下の部分が点の支えから面になった事で最初よりは安定したが、未だその面が少な過ぎて、一定ライン超えると変わらず瓦解する。

 むしろギリギリの安定ラインが全く分からなくなった分、今のままだと前よりも出力が出せなそうだ。


「逆三角形に逆台形ですか、面白い例えですね。確かにわかりやすい説明です」


「そりゃどうも。それでマナの修行はどうやるの?」


「ではまずは精神エネルギー、魄を意識して下さい。そしてそのままゆっくりと呼吸を繰り返して、魔力を練り上げてください」


 集中するために目を瞑り、言われた通りの行動を繰り返す。


 今まで意識せず練り上げていた魔力。

 それを魄を意識して練り上げるだけで、身体の中でどのように魔力が作り上げられていくのかが分かる。


「分かりますか? その魔力を作る際に魄と混ざりあっているのが空気中のマナです。この里は力のある龍が多いため特にマナが濃い。意識はしやすいでしょう」


 確かに、呼吸を吸う度に身体にマナを取り込み、吐き出す度に余分なマナが出ていくのが分かる。


「マナを感じ取る事が出来たら、次は身体の中に取り込んだマナが魄と結合しないように魄を操って下さい」


 言われた通りにやろうとするがこれがなかなか難しい。


 例えるなら水に他の液体を入れるように、入った端から魄と結合していくのだ。

 そして勝手に魔力が生成される。


 改めて便利だとは思うが、これを意識的に無くせと言われるとどうにも難しい。


 目を瞑り集中を続けて意識し続ける。身体中から汗が吹き出すが構わずに続ける。


 そうだ。意識が違うのかもしれない。


 何故テアが最初に仙力から教えたのか。それを考え仙力を練り上げ、マナが結合する前に魄と魂を混ぜ合わせる。

 すると今まで身体の中で魄と結び付いていたマナが、呼吸と一緒に身体の外へ出ていくのが分かる。

 そして今度は魂を少しづつ減らしていき、完全に魄だけでマナが結合するのを阻止する事に成功した。


「今の白亜さんならわかるでしょうが、魂魄は常に身体から溢れ出ています。【闘気】とはそれを意識的に身体に循環させる事で魄も身体に留める方法です」


 魄を操るのは難しくても、魂だけならばその限りではない。そうする事で擬似的な仙力を作り出していたのが、【闘気】という訳だ。


「そして魄を意識した白亜さんなら意識的に魄を出す事も可能です。そのままの感覚で魄を操り身体の外へ。そう……その調子。そして身体から出た魄でマナを操るんです」


 マナを意識し、身体に入る感覚、身体から出ていく感覚。

 その双方を意識した私の感覚には、今まで分からなかった空気中に満ちるマナが分かる。


 魔力よりもずっと澄んだ力。


 だが、魔力よりも圧倒的に力を内包したもの。


 それを自分の身体から溢れた魄を操ると、それに引き付けられるようにマナが動くのが分かる。


「その調子です。そのまま魄でマナを操り、いつも魔力を集め魔法を使うイメージで魔法を放って下さい」


 滝のように汗が流れる。


 それほどに集中を持っていかれるが、それでもいつも魔法を使うイメージで、マナを集め魔法を発動する。


 使うのは殺傷力の無い安全なものと言われたのでライトの魔法だ。私にしては珍しくちゃんと詠唱付きだ。


「光よ 我が行先を照らす光となれ ライト。──って、ギャース目が、目がァァァ!!!?」


 魔法を使う瞬間、なんとなく目をカッ! と開いたのがいけなかった。

 ほんの少ししか光らせるつもりのなかったライトの魔法は、部屋全体をスタングレネードのような光で満たし、私の見開いた目をこんがり焼いてくれた。


 目が、目玉焼きになってしまうゥーーー!!


 のたうち回る事数秒、やっと治ってきた目を擦りながら周りを見渡せば、案の定全員が何処から取り出したのか分からないサングラスを装備していた。


 くっ、くそう。一度ならず二度までも……。


「今回は目を勝手に見開いたハクちゃんの自爆だと思うよ」


「なんも言い返せねぇよ!!」


 ぐすん。

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