第421話怖い怖い
「ねぇハクア。何が起こったのか聞いて良い?」
爆発で本格的に倒壊した瓦礫を掘り起こして、襲撃者を発掘していると、エイラが遠慮がちに……と、言うか、若干引きながら聞いてきた。
うん。私はお仲間さんなのに、なんで皆引いてるのかな?
私は若干釈然としないものを感じながらも手は動かしたまま、困惑している皆に今回建てた屋敷の説明をしてあげる事にした。
とは言っても簡単な事である。
相手を挑発して夜襲を仕掛けさせる。
これは今回の件が捕まった獣人を中心としたものだから可能だった。
獣人兄弟を調べれば、奴らのやっていた事は白日の元に晒される。双方がそれを理解しているからこその予定調和の展開だ。
因みにあそこで戦いにならなかったのもちゃんと理由がある。
第一に私がふっかけられた金額を払った事で、油断しているという考えが大きいだろう。
多少は私の事を調べたらしいが、先程の態度はどう見ても私を小娘と舐めている態度だったしね。
そして今回こうやって襲撃に来た影と呼ばれてる連中、実はあの場に待機していた。
まあ、アベル達は気が付いてなかったみたいだけど。
その為、ヘグメスとしては金を受け取り、その後に影達が勝手に動いてくれれば、自分の兵は消耗せず、私達を始末してくれると考えたのだ。
そして私としても、表向きは穏便に金を払って正式な契約を交わした事で、あの場での戦いを避けられた。
更に相手の想定を上回る金額を用意して払い、多少の挑発までする事で、自分が優位に立って油断している小賢しい馬鹿な小娘に見えた事だろう。
しかもその後の尾行にも気が付かず、ましてや警戒する様子も無く住処へ直行すれば尚更だ。
「まっ、お前達にはさぞや滑稽な獲物に映っただろう?」
「うぐっ……」
「そ、そうだったのか」
そこまで説明すると全員が固まって驚いてる。
アベル達は驚き、助け出された影達は憎しみのこもった目を私に向ける。
いや、固まってないで手は動かして欲しいんですけど。なんでそこだけ仲良く固まってんの?
そして話はこの屋敷の事に移った。
そう、この屋敷だ!
何を隠そうこの屋敷。アベルが目を覚ますまでのあいだに作っただけでは無く、色々な仕掛けも作りまくった超特別仕様なのだ。
持ちうる全ての技術と知識を注いだこの屋敷、その素材のほとんどに火薬が仕込まれている。
壁、床、天井、屋根、彫刻、更には塗料に罠に至るまでありとあらゆる物に火薬が混ぜこまれていたのだ。
更にその壁や天井は、特別な魔法陣を刻み込む事で、通常よりも強度が増しており、ちょっとやそっとでは壊れなくなっている。
更に更に先程アベルが引いたロープ。人の力で引ける程なのに、あれを引くだけで基礎部分の大事な要の部分が抜け落ち、屋敷の全てが瓦解するようになっている。
因みにその要の部分は魔法陣の一部にもなっている。だからその部分がぬける事で強化魔法陣の効果も無くなるように設計してある。
そして最後に地下には衝撃によって爆発する魔法陣を配置した。
その為、一度屋敷が崩れるような事になれば、その衝撃で爆発を起こし、更に素材となった火薬もその威力を拡大させ、あれ程の爆発力になったのだった。
私の熱の入った屋敷の解説に、アベル達は呆れるやら感心するやら忙しく。影達は怪我をして動けもしないのに、やたら濃密な殺気を叩き付けてくる。
まっ、関係無いけど。
私の屋敷自慢が終わると同時、影のリーダーのような男が不意に笑い声を上げる。
そちらを見れば男はこの状況でも未だに余裕の表情をしている。
「随分楽しそうだね」
「そちらほどではない。それよりもこの拘束を解いてくれないか?」
「断るって言ったら?」
「貴様らは知らないだろうが、我々はとある貴族の私設兵だ。その我々にこんな事をしてただで済むと思っているのか?」
「ああ、思ってるよ。なにせ状況を何も分かっていないのはお前らの方だからな」
「何だと? どういう意味だ」
「それを答える義務がこっちにあるとでも? どうせ後で分かるんだ大人しく捕まってな」
そう言って全員に魔眼で麻痺と睡眠をかけ大人しくさせた私は、即席の荷車を作ってアベルに運ばせヘグメスの屋敷に向かった。
▼▼▼▼▼▼▼
「それで……その襲撃者が何故私と関係があるのですか?」
襲撃者を屋敷に配達して経緯を説明すると第一声はこんな返事だった。
その言葉にアベル達は言い返しているが、相手は何処吹く風で聞き流している。
まっ、そうだよね。
認める理由が無いし、証拠も無い。
「そうかぁ、知らないか。まあ、私としても確証があって言ってる訳じゃないし、知らないって言うなら仕方無い」
「ハクア!?」
「やはり貴女は聡明なようだ」
「そりゃどうも。だけど私としてもやられた分位は仕返ししたいと思うんだよね」
「ほう。相手も分からないのにどうやってですか?」
「あー、うん。例えば私の屋敷が爆発で崩れたから同じ事をするとかかな?」
その直後、窓の外から盛大な音が響き渡る。
「な、なんの音だ!?」
「ど、どこかで爆発が起こったようです!」
見れば窓の外、かなり遠くの方から煙が立ち昇っているのが見える。
「どっかで爆発かぁ。怖い怖い」
「まさか……貴様」
「ん? 何かなそんな怖い顔して」
「しらばっくれるな! あれは貴様の仕業だろう」
「はぁ、こっちは証拠無いから引き下がるって言ってんのに、そっちはなんの証拠も無く決め付けるとかって良くないよ? それとも何かそんな事をやられる覚えがあるの?」
「うっぐぐぐ……」
「まあ、どこで何が爆発したかなんて知らないけど、きっと怪我人も居ないし、どこかの誰かの倉庫でも爆発したんじゃない?」
私の予想を聞いたヘグメスは、いきなり顔を真っ青にして窓に駆け寄る。
そして何かに気が付き、膝から崩れ落ちた。
「貴様……ただで済むと思うなよ」
「だから証拠も無いのにそんな事言うのやめてくれる?」
「ふっくはははは。良いだろうその証拠とやらを見せてやる」
怪しい光を目に宿したヘグメスは机に駆け寄ると一枚の羊皮紙の紙を取りだした。
そして──。
「認めよう。貴様を襲った連中をけしかけたのは私だ。そしてここに宣言する。私は罪を認め屋敷の損壊分の支払いをする代わりに、全てを無かった事にするよう要求する。貴様には今貴様が吹き飛ばした分の賠償を請求する」
「な、そっちに都合が良すぎるだろ!」
「アベル良い。どちらにせよこいつがした事は大した罪になんねぇよ。なにせどうにかして欲しいくらいしか言ってないだろうからね。捕まるのは実際指示を出した貴族だけ、こいつはいいとこ賠償金と監視が付くくらいだ」
「その通りだ」
「良いよ。その条件で受けてやる」
ここでつっぱねて引かれても困るからね。
互いが契約に同意した事で羊皮紙が燃え光を放つ。するとその中から青いショートヘアーの眼鏡をかけた知的な雰囲気を醸し出す美女。女神が現れた。
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