第461話まさかのお腹ペッコり姫だった
バサバサと羽ばたく黒い翼。
意識して動かそうとするとそれに応じてパタパタと動く。
それを見た私は頭の上に特大の水球……いや、水塊を出すと、そのまま制御を手放し重力に従って落下させる。
当然真下に居た私はその水塊に呑み込まれ、同じく重力に従って真夏に地面に落下するセミの如く地面に這いつくばる。
もう一度後ろを見るが、やはり私の背中から黒い翼は生えたままだった。
ダメかぁ〜。
前を見ると私の奇行を目の当たりにしたコアがオロオロとしている。
目が合った。
逸らされた。
チラチラと見てコクコク頷く。
どうやらドラゴンコアが目覚めた段階で獲得したものらしい。完全な竜化は出来ないが、腕の変化と翼を出す事が出来るようになったようだ。
そうかぁ〜。今まで色んな変化してきたよそりゃ。でも、私だって角や犬耳、シッポなんかは受け入れてきたけど、翼となるとちょっと思う所があるんだよ。
うつ伏せで項垂れていると、近付いてきたコアが私の頬をペロペロ舐める。
「ああ、うん。ありがと……」
しかし、まさかここに来て【飛行】や【羽根弾】スキルを手に入れた時の、翼生えたら使えるけどそうそう生えるもんでも無い。って、言っただけのフラグを今更回収するなんて思わなかったんだよ!
はぁ、まあしょうがないか、長い人生人外になる事も翼生える事もあるか……。いや……ねぇなぁ。
慰めの体勢に入ってるコアを撫でながらこれからどうするか考える。もう既に戦闘継続という雰囲気ではない。
コアは違うのかもしれないが、少なくとも私は争う気はあまりない。
もう懐いてきた動物にしか見えんよ……。
そんな風に思っていたらようやくコアが離れ。
▶ドラゴンコアが貴女の事を認めました。
未熟な幼竜体から幼竜体へと変化しました。
継承を開始します。
「おわっと!?」
えっ? ちょっと待ってこの状態で認められると、同情されてる感しか残らないんですけど!! いや、楽なのはそれはそれで嬉しいけれどっ!
ちょっとー! 良い顔して去って行こうとしないで!?
「ガンバ」
「急激な距離感よ!? 最後の最後にフランク過ぎねぇ!? てか、励ましの言葉やめてー!?」
それだと本当に同情十割ですやん!
「って、この感覚もう起きる! 私何回も経験したから分かる!!」
そして今まで普通に受け入れてたけど、お前なんでそんな風に感情あるの!? ドラゴンコアって力の塊だよね。それに感情ある時点でおかしくね!?
お前ぜったいなんか私の中のスキルと混ざってんだろ!!
などと騒いでる内にブラックアウト。この世界、本当に私の事をおちょくってやがるな……。
▼▼▼▼▼▼▼
▶……15.25%継承個体が未熟な為、継承が中断されました。
継承個体が成長する事で継承が再開されます。
「誰が未熟者でい! って、あれ?」
「あらあら。元気なお目覚めね?」
「おはようございます白亜さん」
「おはよハクちゃん」
脳内放送にツッコミながら起きるとおばあちゃんとテア、ソウの三人が私の顔を見ながら挨拶してきた。
そして私の寝かされていたベットにはもう一人、私にしがみつくように眠るユエ。
おお、流石今回の癒し。和むわ〜。
「……あるじ? あるじ大丈夫!?」
「うんうん。私は平気だよ〜。なんとか生きてるよ〜」
可愛い! 本当に可愛い! 良かった今回ユエが居てくれて本当に良かった。すり減った心が癒される。
心底心配してくれるユエの頭を安心させるように撫でながらホクホクする私。
「あるじ。あるじ〜。本当に良かった。息が止まった時はどうなるかと思った」
ん?
「皆慌てて大変だった」
わっつ?
「心臓もちゃんと動いてる」
ぱーどぅん?
保護者達を見ると一斉に顔を逸らした。
何やら大量の汗が吹き出している。
「それで……それ──」
「さ、さあユエ。ハクちゃん起きたばっかりだから無理させちゃダメだよ」
「いやおい待てや」
これ以上喋らせまいと慌てて口を塞ぐソウ。
「白亜さん。お腹が空いたでしょう今食事の用意をしますね」
「あらあら。じゃあおばあちゃんも手伝おうかしら」
「だから待てや」
そしてそれに乗っかるように話題を急旋回で変えていく。
「さあユエ。私達もハクちゃんの為にご飯を作りに行こう」
「ん。あるじの為に頑張る」
「待て言うとるやん」
私の声は誰にも届く事なく、ユエを連れ全員がそそくさと出ていった。
改めて周りを見渡せばなるほど納得出来る。
微妙に乱れた私の着衣、中を覗けば左胸の所が赤くなっている。
そして寝かされていたベット。私を中心に乱れたそれは、寝ている私にまたがっていた跡にも見える。
更に周りには薬っぽい物が色々と置かれている。
思えば起きた時も私の顔を覗き込んでいたかのように、全員の位置が近かった。
……これ、修行が危険なんじゃなくて、修行付ける人間が危険なのでは……?
私はそう思わずにはいられなかった。
そして待つ事十数分。
とてもではないが、この短時間に用意出来たとは思えない程の量の食事を持ってきた。
そこには今まで居なかったトリスも加わっている。
「お待たせしました」
並べられる料理の数々は、やはり事前に作ってあった物のようだ。その証拠にいつも食べている物が多い。
いくつか豪快な丸焼き系の物が混ざっているが、それ以外は変わらない。
まあ、普通に美味しそうだし美味しいから良いのだが。
「ここで白亜さんに残念なお知らせです」
「えっ、な、何?」
私の表情から何かを悟ったのか、テアが料理を置きながらそんな事を言ってきた。
私はそれに少し怯えながら聞き返す。
「龍の里グルメを期待していたようですが、基本的にこの里は丸焼きか生です」
「なん……だと……」
その言葉に愕然とする私。
「まあ、普段食べられない食材という意味でならグルメは有りますが、基本的に料理は無いですね」
「そんな……そんな事って……じゃあもうここに価値ないじゃんか!」
「お前、本当に失礼だな!」
「うっさいわ! クソ、気が付くべきだった。なんだかんだと文句言ってる割に、随分と毎回律儀にご飯だけは食べに来るかと思ったら、飯に釣られてたのかこの火龍の姫」
「いや……そんな事は無い」
「こっち向いて言えや」
まさかのお腹ペッコり姫だった。
「じゃあもしかしてあそこで覗いてる奴等も飯狙い?」
「あそこ?」
「でしょうね」
「だね」
「あらあら」
「だろうな。私は違うが」
まだ否定するかこのペッコり姫。
部屋の外、アカルフェルが壊した壁から覗く二つの気配について話す。
若干一名ユエだけはわかっていないがまあ、しょうがない。
さて、しかし気が付かれた事は理解しているようだが、来る事もなければ去る事もない。
そんな二つの気配に痺れを切らせたのか、はたまたおばあちゃんもご飯を早く食べたいだけなのか、どちらかは分からないが少し苛立った様子で一歩進み出ると……。
「いいから早く出て来なさい?」
「「はいー!!」」
怖っ……。
おばあちゃんに脅さ……もとい促され見た目私より少し年上の女性が走り出てくる。
一人はエメラルドグリーンのショートカットに、踊り子のような格好のスポーティーなタイプ。
もう一人はミディアムロングの濃い茶髪に、童貞を殺す感じの膝上まであるセーターっぽい素材の服を着たのオットリ系のタイプだ。
因みに胸部装甲には大きな差がある。まあ、どちらがどちらとは言わないが……。
そして、見事な直立不動の体勢でおばあちゃんに向かって敬礼してみせた。
うん。軍隊なのかな?
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