第335話「悪いがその段階はとうに過ぎている」

「褒めても何も出ないんだからね!?」


 そんな事を叫びながら起き上がると、いつの間にか出て来ていたヌルが驚きながら私を見ていた。


 いや、なんか珍しく手放しで褒められた気がしたんよ。まあ、その前には数ページに渡ってなんだか色々と言われてた気もしなくはないが……。だからそんなに不思議な物を見る感じで見ないで……。


 ヌルの視線を感じながら身体に異常が無いかをチェックする。


 ふむ。腕も戻ってるしどうやらレベルアップしたみたいだね。上の階に行く前にどれ程変わったか確かめよう。どうせこの階の探索の途中辺りから1つは無くなったからそろそろ居るだろうし──。はぁ……。


 ステータス、スキルをチェックすると両方とも数値とレベルが幾つか上がっていた。新しい物は覚えていないが【鬼砲】と【黒炎】のレベルが上がったのは収穫だった。


 因みにレーザーで切り落とされた腕を探してみたら焼け焦げた物が落ちていた。


 これじゃ素材には出来そうにないな。私の素材、質は凄くいいのに再利用出来ないとは残念だ。


 改めて見てみると周りは惨憺たる有様だ。


 極光によって地面は溶け固まり、度重なる攻撃で壁も地面も穴だらけ、至る所に岩や氷や羽根が突き刺さっていた。


 良く生きてたな私。


 あんなのに良く勝てたな。そう思いながら私を散々痛め付けてくれた八咫の方へと視線を向ける。


 ふむふむ。しかし、どうしてこう、動物系モンスターは本気になると身体が大きくなるのかね?

 これはあれかい? 倒された後に少しでも可食部位を増やそうという涙ぐましい努力の現われかな? だとしたらここのナマモノモンスター達は良い奴だな! 絶対に違うだろうけど。


 そんな事を考えながら【解体】を使って八咫を肉へと変換する。


 大量のオークを【解体】したスキルは、ここに来てから覚えたにもかかわらず既にレベルMAX。当然取れる肉も最高級の物へと変わっていた。


 くぅ〜。腐毒竜の時は流石に元が腐ってたから腐った竜肉になったからね。スキルのお陰でそれでも私は食えるけどさ。

 でもやっぱり食べるなら最高級な肉が良いじゃん! しかもボス級の肉なら尚更。次が手に入るか分からないわけだしね!

 入手機会の少なそうな食材にはこだわりたいのですよ!


 スキルのお陰で、普通に解体して肉にするよりもランクの上がった肉を見てホクホクしながらやはり神スキル! と、一人テンション上げていた。


 あっ、他にも羽根やら翼やら、鉤爪、嘴なんて普通の素材もゲットしたよ。勿論最高級状態で。魔力も凄く篭ってるし装備の素材にしたら良い物作れそうなんだけど、肉に比べたらどうって事ないよね? 

 因みに【解体】スキルは素材と食料、魔石に分けられるがそれ以外のアイテムにならない物は、任意で保管するかどうか決められる。

 要らない場合はそう選択すると不思議機能で消えて、要る場合は〜〜の廃棄物としてアイテムになる。私はヌルの餌に出来るから勿論取ってある。


【解体】で手に入れた物のチェックが終わったら、早速肉を一塊と要らん廃棄物を取り出す。

 廃棄物をヌルに全て渡した後、抱える程の大きさのお肉を両手で持ち、火魔法を使って表面を先に焼き色が付くまで焼き、その後に中からじっくり熱を通して行く。


 コツは肉汁を閉じ込めた状態で、内部を中心からじっくり熱を通していく事だ。


 素材の味を生かす為に味付けは塩コショウ。


 焼き終わった後に食べてみると、中から肉汁が溢れる高クオリティのおかずが出来て大満足だった。


 なんか何処かから、ダンジョンに入ってから大した戦闘もせずに食っちゃ寝してばかりじゃないか! とツッコミの幻聴が聞こえる気がするが、きっと気の所為だ。ここにはそんなツッコミをする奴は居ないからね!


 肉汁タップリの塊肉を堪能すると早速スキルを覚えたのだが……。


「これ、使えんやん」


 手に入れたスキルは【飛行LV.5】【羽根弾LV.3】だった。


 私、翼なんぞ無いし。飛べないし普通に使えないよ! まあ、今後もし翼生えたら使えるけどそうそう生える物でもないからなー。フラグじゃないぞ?


 強敵だったからきっといい物が! と、思っていたからショックは大きかったけど、なんとか立ち直り体を動かしてみる。

 レベルアップしたお陰で、先程の戦闘時の動きや感覚とはやはり多少の誤差が有り、それらを修正しながらしばらくの間色々と試してみる。


 うん。大丈夫そうだ。食後にアレ・・も飲んだしそろそろ良いかな。


 戦い疲れて眠りこけた私を護衛する為に出て来てくれたヌルを再び避難させておく。


 HPは回復してるけど戦いはまだキツそうだからね。

 それに、次はヌルだと危ないかも知れないしな。ここに来る途中で一つは無くなって、今目が覚めたらもう一つも……。止めたって事はそういう事だろうしね。


 目覚めてから現れていた階段を登り次の階層へと足を進める。


 次の階層は明るい地底湖のような場所だった。


 真ん中に大きな地底湖があり、そこに大きな石柱が無数に立ち並んでいた。


 そしてその真ん中の一際大きな石柱の上にはやはり私を待つ人物が立っていたのだった。


 やっぱりか。そう思いながら私はその人物。ガダルが立つ場所へと石柱を足場に飛び移って移動していく。


「よっ、ほっ、っと」


「ほう。驚いた様子が無いな」


「ダンジョン攻略始めてからずっとあった監視が前の階で消えて、ボスを倒して起きたら無遠慮に覗く視線も無くなってたからね。そろそろだと思ったよ。まっ、個人的な希望としては、ボスは最後の最後に出て来るのがロープレの基本だから、もうちょっと先で待っててくれないかな?」


「分かっているだろうがそれは無理だな。こちらにも事情があってな」


急な来客・・・・は用意に困るってか? それなら人を急に拉致るのも止めて欲しいんだけど」


 ジト目で言った私の言葉に少し驚いて見せたガダルだが、見事にスルーしてくれやがりますと気にも止めず話を続ける。


「こんな所に居てよく分かるものだ。それに……この短時間でそこまで力を上げてくるとはなやはりお前は面白い」


「アンタが色々と美味しい物モンスター配置してくれたからね。お陰様でダンジョングルメを堪能出来ました」


「ふっ、そうか。さて、それでは最後にもう一度聞こうか。ハクアお前を殺すのはやはり惜しい私の物になれ。好きな物は出来うる限り与えてやろう」


「言っただろ。お前の物になる気は無いよ」


「残念だ。やはり殺すしか無いようだな」


 残念だ……ね? そんな殺気をぶつけながら言われた挙句、今も楽しそうに嗤って言う言葉ではないと思うけどな。


 ガダルの殺気は益々膨らみ私に叩き付けられる。


 正直、さっきから殺気当てられて肌がピリ付くからやめて頂きたい。心臓にすごく悪い。


 ただまあ、私としても言う事があるのでここで直ぐには戦闘開始にはさせないけどね。


「まあ、お前の物になる気は無いけどさ。お前こそ私の仲間になれよ」


 そう言って手を差し伸べる私。


 流石にその反応は予想外の物だったのか流石のガダルも殺気が霧散していた。


「……お前は、自分が何を言っているのか分かっているのか」


「ああ、それくらい分かってるけど?」


 なんだろう。物凄く呆れた感じで聞かれましたよ。馬鹿にされてるのかな? 解せん。


「私を仲間に引き込めば戦わずに済むと、命を助けて貰えるとでも思っているのか?」


「いや、そんな事は無いだろ? ただ単純なスカウトだよ。だってさお前私と同じ転生者・・・・・・・の元人間だろ・・・・・・?」


 それには流石に驚いたのか私の目をじっと見詰め私の言葉を待っている。


「大部分はただの勘だな。魔族の教養に付いては分からんが、それでもお前の端々には人間臭さを感じるんだよ。今まで会った魔族とは根本の部分で何か違う気がする」


「──だとしたらどうだと言うのだ。私にその手を取れとでも言うのか。前に聞いたな? 何故お前達は我等を殺すのか。と、その時のお前以外の答えを忘れた訳ではあるまい」


「知らないね。言いたい奴には言わせればいい。これは私とお前の話だ。本当に私とお前は争うだけしか出来ないのか? この手を取る事は無いのか? お前の目的はこっちでは叶わないものなのか」


 前から考えていた。


 本当に戦うしか無いのか? と、初めて会った時問い掛けた私に向ける瞳は何かを期待するような物だった。

 ここに来て話をして、コイツが私と同じ元人間の転生者だとある程度確信を持ってからは、こうやって手を取る事も出来るのではと考えた。


 そもそもがおかしかった。何をするにしてもやる事がぬるいのだ。村単位の事で何かをしでかしても支配に繋がるとは思えない。それなのにこいつのやった事は私の知る限りユルグ村での事だけ。


 だからこう考えた。


 コイツの目的は人を支配するのではなく別にあるのでは? と、だが確証は何も無い。そう思っただけの事だ。


 だからこそ私はコイツに今この場で聞く事にした。


 だが──。


 バチンッ!


 帰って来た物は拒絶の意思。


 差し伸べた手の平は弾かれ、目の前には戦意を燃やす人間・・がいた。


「悪いがその段階はとうに過ぎている」


 そうか。私が感じた理由はこれか、コイツの目は何よりも人間の汚さを知っている人間の目だった。


 今までの魔族はやはり何処か人間や、低位のモンスターだと見下すような目をしていた。だけどコイツだけは私を人間として同列に扱う目で最初から見ていた。


 差し伸べた手を弾かれた瞬間私はそれを理解し、同時に戦うしか無い事を悟ったのだった。

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