第547話こんなもん詐欺の手口だ!
「さて、それじゃあそろそろハクアちゃんも修行始めましょうか」
「待って、私はまだ本調子じゃないから今日は見学───」
「さて、それじゃあそろそろハクアちゃんも始めましょう」
問答無用だと!? いやまあ、いつも通りか。
「あらあら、大丈夫よハクアちゃん」
「え、えっと、何がでしょうか?」
なんで大丈夫とか言われた方が恐ろしい気がするのだろう。ハクアさんとっても不思議なり。
「今日はハクアちゃんは何もしなくても大丈夫よ」
「その心は?」
「貴女達にはこれから雷に打たれて貰うだけですもの」
「「達!?」」
おばあちゃんと一緒にこちらに来たシーナ達も含め、ミコトも一緒になって驚いているが、そのポイントは私だけではなく、自分達も含まれていた事に対してのようだ。
そこじゃない。そこじゃないんだよ!
「あっ、私ちょっとポンポンペインだからお部屋帰っ───ギャーーー!!」
「あら大変。ゆっくりと休んでていいわよ」
その言葉はぜひとも、木にぶら下げながら言わないで頂きたい。
なにクソ負けるか。ってアレー?
先程までのようにミノムシにされた私は、またも脱出を図るが今度は抜け出せない。関節外そうが何しようが逃げられずうごうごするのみだ。
「ハクア、気持ち悪い」
「言い方よ!?」
「どうなってるんすかそれ?」
「手足の位置がおかしいのに、モゾモゾ動いてるから気持ち悪いの」
しょうがないでしょ、逃げようと思ったのに今回は抜け出せなかったんだから!
「じゃあハクアちゃんはそのままで、早速始めましょか?」
このまま!?
「いやいやいや、ちょっと待って欲しいっす。私らもっすか?」
「そうよ」
「流石に雷に撃たれるとかハクアでなくとも危険すぎぬか?」
「いや、ミコトさん? 私も普通に死んじゃうからね?」
なんだその私なら大丈夫そうみたいな言い方。
「大丈夫ですよミコト様。これは古くから連綿と受け継がれてきた修練法ですから」
「そうなんっすか?」
「ええ、もちろんトリスや風龍王もやったわ」
おばあちゃんの言葉にシーナが視線を二人に向けると、揃って首を縦に振る。
しかし騙されてはいけない。
危ないと言う話をしていたのに、いつの間にか他の人もやってるから大丈夫。と話がすり替わっているのだ!
こんなもん詐欺の手口だ! えっ、私もやってた? 知らん。私はいいんだい。
しかし私はやる事が決定してるから口は挟まない。どうせなら死なばもろとも、皆、道連れなんだよ?
「わかったの。早速始めるの」
「いや、なんでそんな前向きよ?」
おかしい。いつもは駄々をこねる側のムニがやる気とかおかしい。
「そんな事ないの。ムーはいつだってやる気あるの」
「……ハッ! ハクア。ムニの奴、地竜だから雷効かないんっすよ!」
「なんだと!?」
こやつ、一人だけ助かろうとしている。そんなのは許されないんだよ!
「異議あり! これは不当だ!」
「そうっす。ズルいっす」
「むっ、バレたの。ふふーん、でもしょうがないの。種族としての特性はどうにもならないの。と、言うことでさっさと始めちゃうの」
「ああ、そうだな」
「えっ?」
私とシーナの抗議の声に、胸を張りながら言い返し話を進めるムニ。しかし何故かそんなムニをトリスが首根っこを掴んで引き摺っていく。
「ちょっ、何するのトリス。ムーは、何もしてないの」
その言葉にやれやれと言いたげに振り向いたトリス。
「なんの効果もないことをやる訳がないだろう」
「うっ、それは……」
「ムニはもちろん別の事よ。貴女には骨が砕ける程の攻撃を五十受けて貰うわ。そうする事で更に骨を強く出来るのよ」
……えっ、トリスの攻撃受けるってこと?
「それって死───」
「それ以上はあかん!」
「シーナ。ここは大人しく見送るのじゃ」
シーナの失言を二人で止めると同時、ムニの悲痛な顔がこちらに向きミコトは目を逸らすが、私とシーナは笑顔で送り出す。
「ここ最近はどこかの馬鹿と一緒になって、ずいぶんと楽しそうだったな。妾もお前でストレ───お前の修行に付き合ってやる」
今確実にストレス解消とか言おうとしたよな。言わんけど。
私達に絶望の表情を向けたムニは、バタバタと手足を動かし抵抗するが、トリスはなんの意にも介さず連れて行ったのだった。南無。
「まあ、なんだ。一回人のことを見捨てようとした罰だな」
「そうっすね。自分だけ安全圏に居ようとした罰っすね」
「二人とも容赦ないのう」
そんな風に笑い合う私達。
トリスの攻撃に比べれば雷の方が幾分マシだろう。そんな空気が流れていたのだが───。
ドガァァア!
「「「えっ??」」」
少し緩くなった空気をぶち壊すような轟音。
しかも気が付かないうちに、さっきまで快晴だった空がいつの間にやら真っ黒になっている。
そして音のした方には雷が落ちた跡───ではなく、明らかにオーバーキルされた、クレーターが出来上がった地面があり、その前にはおばあちゃんが立っている。
そんなおばあちゃん。
私達の視線に気が付くと、あらあらうふふと顔に手を当て、この修行は強い雷ほど効果があるからおばあちゃん頑張っちゃった。と言い放った。
「そこ頑張んなくて良いから!」
思わずつっこんだが、それを思ったのは私だけではない。隣の二人も声には出さないが震えながら同意してる。
「クスッ」
だが、そんな私達の動揺を見透かすような笑い声。
そこに視線を向けるとトリスに引き摺られていくムニが、見たことないほど妖艶な笑顔を向けていた。
そう、結局は私達に楽などと言う言葉は存在しない。
待っているのは地獄。
たとえ逃れたとしても違う種類の地獄が手招きしているだけなのだ。
「じゃあ、早速殺りましょうか?」
「それ字違ってませ───」
「「「ギャーーー!!」」」
そこから数時間、私達の四人の悲鳴が鳴り響いた。
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「あー、死ぬかと思った」
「感想がそれだけなのが異常じゃな」
「さ、流石ハクアっす」
「ムー、もう、ダメ、なの……」
地獄の時間を終えた私達は再びの休憩時間となった。
因みにロープは雷で焼き切れました。
おばあちゃん曰く、絶賛身体が作り替えられてる最中なので今日はもう終わりだそうだ。
おばあちゃんは今、アトゥイ達の指導に戻っているが、皆の間に先程までよりも緊張感が走っている。
そう、その内あれを自分達もするのか!? という緊張感が! 多分すると思うよ。
「しっかし、龍族の修行頭おかしい」
「いや、普通ここまでしないっすよ」
「そうなの。ハクアのせいなの」
「人のせいにすんなや!」
失礼な奴らめ。
「じゃが実際、次期龍王クラスの修行内容じゃからな」
「そうなん?」
「うむ。流石に全員がこのレベルの修行はせんぞ」
「……何故私がそんなものを受けているのでしょう?」
「ホントっすね」
「まあ、今更なの」
いや、そう言われたら何も言えないんだけどね。
「でも、確かにその通りなのじゃ」
「ん?」
「最初から水龍王は、ハクアにこのレベルの修行を課すつもりのようじゃったしの」
「そうなん?」
それ私の実力度外視しとらん?
「確かにそうっすね。ハクアに使ってる霊薬もすぐに用意出来るものじゃないはずっす」
「そうなの。いくら水龍王様でもこんなにすぐに許可はおりないはずなの」
ってことは、私が来る前から既に用意されてたってことか? そういやトリスも、おばあちゃんの命令で来たんだよな?
「うーむ、謎だ。アカルフェルの奴に使う予定だった物とかって訳じゃないの?」
「それはないっすね」
「ハッキリ言うな。まあ、わからんでもないけど。そういや、今まで聞いてなかったけど、なんでおばあちゃんとあいつはあんな険悪な関係なんだ?」
「それはわしも知らんのじゃ」
「うーん。私もそんな詳しくないっす」
「ムーもなの」
「そろそろハクア達も知っておくべきかも」
揃って首を傾げる私達の前に、シフィーとトリスがそう言いながら飲み物を持って現れた。
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