第九章ここで来ちゃうの龍の里

第438話全く空気読んで欲しいよね

 あれーーーー?


 と、思ってしまった私は絶対に悪くない。


 だって普通に寝て起きたらベッドごと空の上ですよ? こんなもんもうどうしようもないと思うの。いや、絶対無い。


 そりゃ昨日は千景が目を覚まして良かったとか、本編ストーリーが進行しそうで面倒だなとかって思ったよ?

 でもさ、だからって起きたらこの状況はハクアさんも無いと思うのよ。

 それともなんだ。潜在的にベッドに寝たまま逃避行したかったとかなのかな? でもそうだとしても避行の漢字が違うと思うのこれだと逃飛行だよ。

 そして私はそんなファンシーな理想は無いはずだ。無いよね?


 しかし現実はどうだろう?


 こうやってベッドの上からこの広い世界を見下ろし空中を飛んでいると、中々どうして悪くない気分だ。

 しかも移動しながらすぐに寝れるというのも地味にポイントが高い。これは本格的に帰ったら空飛ぶベッドの製作を考えるべきだろうか?

 技術的にはかなり難しそうだがやってやれない事はないかもしれない。何事も挑戦する事が大切だ。

 うむ。すぐに却下されそうだ。解せん。


 しかしどう思った所でこの状況は既に変わらない。もうこうなったら私のやれる事はただ一つである。


「よし……寝よう!」


「寝るなぁ!!」


「えぇ〜」


「えぇ〜、じゃない! もう少し自分の状況を不思議に思え!」


「わぁー不っ思議♪」


「……ケンカ売ってるのか?」


 不思議に思えと言われたから言ったのに怒られるとは理不尽である。


「まあ落ち着けよトリス。ブレスは駄目だと思うよ。ハクアさん」


 しょうがないから、もう一度何も言わずに布団に潜り込んだらブレス吐かれそうになった。

 二度寝が許される状況だと思って寝ようとしただけなのに……。あれも駄目これも駄目とまったく理不尽だ。

 しかもそれがこうやって本人になんの了承もなく拉致った……もとい、連れ出した張本人なのだから酷い話である。

 皆に何も言わずに出て来たから今頃向こうではどうなってる事やら、帰ったら土下座するしか無いのだろうか? それで許してもらえる未来が見えない。


 拉致られただけなにのきっと悪いのは私になるのだから酷い。


 そんな事を思いながら改めて自分の状況を眺める。私自身は昨日眠りに就いたままの格好(と、言うよりもここ最近他の服を着ていない)

 そしてそんな私が寝ていたベッドは、私を乗せたまま透明な丸いボールのような物に入れられ、そのボールをドラゴンに戻ったトリスによって抱えられている。


 うむ。逃げ場無し。つーか、ここで放り出されたら帰り道が分からないや。異世界迷子はちょっと壮大過ぎて辛い。


 そう結論付けた私は拉致った張本人トリスを見る。


 何か聞こうと思ったけど聞きたい事が特にないから困った。


「……妾に何か問う事があるのではないか」


 何も言わない私にしびれを切らしてそう問い掛けてくる。


 しかしそんな事を聞かれても困る。

 だってこの状況でこんな事をするとしたら、前に話した予知だか予言を持ってる奴絡みだろう。


 むしろそれ以外にトリスがわざわざ私を連れ出す理由が無いし。

 と、なると問いの何故が消える。


 そして行く先も龍の里か国、もしくはトリスを私の元に寄越した誰かの元、それ以外には考えられない。

 そしてここまで沈黙を保ってきたのだから何をするのかも教えてくれないだろう。

 更に言えば火龍の姫に勝てるなどと微塵も考えていないので、抵抗も無駄。大人しくしていれば取り敢えずの危険はないのだから、下手な事を言って機嫌を損ねるのも悪手だ。


 そうなると聞きたい事も言える事も無いのだから私は悪くないのだ。

 だからこの状況で二度寝が許されないのであれば私が聞ける事はたった一つだけ。

 それは──。


「朝飯はまだですか!!」


「無いわ!」


 なん……だって……。


「この状況で朝飯の心配とかお前の頭はどうなってる!」


「ご飯……大事……とても」


「本当になんでこんなのが……」


 私の言葉に飛ぶ気力が無くなったような飛び方に変わり少しドキドキする。

 そんな私を他所にトリスは何やらブツブツと言っているが、生憎と私の耳には何を言っているのか聞こえない。


 しかし、朝飯が無いとわかると余計に何か食べたくなってくる。

 そして出来る事ならこの絶景を眺めながら食べたい。ご飯は食べる時の状況も大事なエッセンスなのです。


「和食と洋食……と言うか、魚とご飯のセットと肉とパンのセットどちらが良いですか?」


「肉も良いけど魚とご飯の気分っす!」


「わかりました」


「あっ、テアさん私もお魚でお願いします」


「わかってます」


「って! お前ら何処から湧いた!?」


 肉と魚の二択に反射的に答えた私はなんの魚かな? とちょっとワクワクしながら、声の聞こえた後方を振り返り一応ツッコミを入れる。


 義務だからね!


 しかし本当に何処から湧いて出たんだろうか?

 いくらキングサイズよりも大きくて、縦幅もかなり大きいベッドとはいえ流石に気が付くんだよ。

 しかももう既に美味しそうな焼き魚が、ご飯と一緒にセットされて、ソウに至ってはもうモグモグと食べてるし。狡い。


 だが配膳されているのは五人分、トリスを入れても四人の筈なのだが? 二人分食べても良いのだろうか?

 そんな事を考えている内にいつの間にやらトリスは地表に降り立ち、ベッドは無事地面に上に、人型に変化して礼儀正しくいそいそとベッドに乗り込んだトリスを後目に、テアが顎でクイッと後方を指す。


 なんざんしょ?


 視線を投げれば、そこには今まで気にしていなかったが小山が一つ、それがモゾモゾと動くと布団の中からユエが出てきたのだった。

 ▼▼▼▼▼▼▼

 朝食を食べ終わると、トリスは再びドラゴンに変化してベッドを抱えて飛び始める。


 私はまだ食べてる途中だが自分が食べ終わるとさっさと移動開始した。まあ、景色観ながらも食べたかったから良いんだけど。

 しかし今回のパートナーがユエだとは想像もしてなかった。


 千景の事でイマイチ集中し切れなかった私は、メイド講座を受けた後に部屋を訪ねて来たユエが、戦闘方法などについて相談に来たので、気分転換も兼ねて夜通し相談に乗っていた。

 その為今日はそのまま寝落ちしたユエも、ついでに拉致られる結果となったのだった。


 うーむ。予想外の展開。


 因みにテアとソウは、夜中にトリスの動きを察知しておもしろい事が起きそうだ。と、付いて来たらしい。


 なんかもっともらしい御託を並べていたがきっとそうに違いない。


 まあ、ユエも私との初めての遠出にテンションが上がっているようだから良しとしよう。


 あるじと一緒に出掛けられて嬉しいです。そんな事を真正面から言われれば私もテンション上がりますわ。頭もなでなでしますよ。


 しかし龍の里かぁ〜。千景が起きたからてっきり王都か聖国か、そのどっちかに関わるストーリーか進行するかと思ったのだが。まさか龍の方とはね。

 全然予想してない角度から来るとか全く空気読んで欲しいよね。ドラゴンとかKYなんスかね?


 なんて言ったらまた燃やされそうになった。危ない危ない。なんで考えてる事わからんだろう?


 そして今回、基本的にはテアやソウは手出ししない。と、いうよりも出来ないらしい。これも制約の一種なんだとか。

 なので龍の里という、RPGなら終盤に行くような場所にも拘わらず、元ゴブリンコンビだけでのストーリー攻略となるようだ。


 はぁ。どうなる事やら……。

 取り敢えずトリスに燃やされないように気を付けよう。

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