第529話駄目だな
「はい。長く持たないからはよ行ってきなさい」
いまいち誤解がちゃんと解けたか分からないユエとアトゥイを送り出し、一人マナビーストと対峙するハクア。
「……さて、やるか」
瞬間、ハクアを取り巻く空気が一変する。少し前のやり取りなど思わせない雰囲気を漂わせ、マナビーストを睨む。
その姿にマナビーストも先程までのようには攻め込まない。いや、そのあまりの変化に不用意に動く事を本能が拒否したのだ。
竜人化したハクアの装備は竜化外装とハクアが言った通り、ノクスが羽と装備に変化したものだ。
鬼神の作った比翼連理は黒のインナーへと変わり、上は安定の袖が無いホルターネック。下はスパッツの上にミニスカート。そしてハクアが不快に思わない程度の局所を守る軽装へと変化している。
足先から腿まであるブーツと一体型のレガース、指先まで包むガントレット、そして胸元のチェストプレート。
ノクスがそれらを中心に力を移す事で、ハクアの足らない防御力を担う。それが竜化外装のコンセプトだ。
そしてノクスが力を移す事によって、一見鉄よりも硬そうな黒銀の鎧は、その実ハクアにとっては布製の服並に柔軟な、不思議金属へと変貌している。
それもあってハクアにしては珍しく文句も言わず重装甲(世の中的には軽装)な装備なのであった。
その見た目はいわゆるドレスアーマー。MMOやRPGで出てくる女性竜騎士風の衣装。他人の装備ならハクアも手放しで喜ぶ程の出来だ。
そしてその背に生える羽は、ハクアの思うままに動かし飛び回ることが出来る。
これによりハクアの空間把握能力が、文字通り桁違いに生かされることになる。
飛行こそまだ覚束ず、戦闘で扱えるレベルではないが、羽の扱いに慣れればドラゴンをも圧倒出来るとテア達が考える程だ。
最後、その手にはノクスの力で変化した双銃オルトが握られている。黒銀の銃身に金の模様が刻まれた新しい姿の銃は、その機能までも新たに生まれ変わっている。
一つ目はチャージ。
攻撃に使う力の一部を内部に貯め、ハクアの好きなタイミングで放つことが出来る。
溜めの時間は長くなるが、最大で十倍近い出力を出すフルバースト。連射性能を高めたラピッドショット。貫通性能を高めたスナイプショットの三種の攻撃をすることも可能だ。
二つ目が竜の力。
ノクスが装備に力を与えている為、ハクアはより竜の力を扱えるようになった。その為、チャージした攻撃には竜の属性が付き、発射すると小竜がハクアの意のままに相手を襲う(ハクアのイメージなので東洋の竜型)
三つ目が形態変化だ。
銃身から竜力を凝縮したマナブレードを出したり、その形を変え様々な武器に変化させることが出来る。これらもチャージの対象であり、攻撃力を一気に上げる事が可能。
難点は持ち手が銃な部分だが、それを補って余りある利点として、攻撃が命中した瞬間にトリガーを引けば、攻撃力が上がるギミックが付いている事だろう。
そう、それはハクアが求めた夢のファンタジー武器、ガンブレードを模した効果だった。
オルトの新しい能力の幾つかは、ハクアの考案したルーンと魔法陣が刻まれたマガジンと同じだが、ノクスの力が宿った今、全てのマガジンの力を入れ替え無しで扱え、その効果も数倍高まっている。
そしてハクアの竜化外装は一言で言ってしまえば、耐久して耐えつつ、高めた攻撃力で相手を倒す。
いわばハクアに足らなかった防御力と、一撃の破壊力を追求したスタイルなのだ。
その代わり通常攻撃は大して強くないが、そこは全ての攻撃を高めた鬼化との差別化となっている。
その辺の差別化を怠ると変身に意味あるの? とツッコまれるからちゃんと考えてるハクアさんなのだ。
「クオオォン!」
あまり使い慣れていない装備を密かにチェックしていたハクアの耳に、咆哮が放たれる。
それと同時に、ドーム状の部屋の至る所に張り巡らされた木の根が、ハクアに向かって四方八方全ての方向から襲い掛かる。
だが、ハクアにはそのどれもが届かない。
まるで全ての攻撃が見えているかのように危なげなく避ける。
「フッ!」
どうしても避けきれない攻撃も、その全てがハクアに触れる前に、オルトのマナブレードによって両断される。
しかもその怒涛の攻撃を避けながら、ハクアはマナビーストの隙を狙い銃撃も行っていた。
しかし───
駄目だな。
それがハクアの出した答えだった。
攻撃は避けられる。
集中すれば捌き切る自信もある。
だがやはり攻撃力がハクアには足らない。
マナビーストの表面を覆う樹木。それがハクアの攻撃を通さない。
竜人化した事で多少の改善はあったが、ハクアの攻撃では最大まで溜めたフルバーストでも、表面を多少削るのみ。
ラピッドショットは言うに及ばず、スナイプショットなら貫通する事も可能だが、攻撃範囲が狭すぎてマナビースト程の巨体となると、その効果はやはり小さい。
自然治癒も考えるとハクアの叩き出すダメージよりも、相手の回復の方が早いのほ明白だった。
やっぱり向こう待ちか……。
考えたハクアはやはり当初の予定通り、時間稼ぎに徹する事にした。
一方、ハクアを残し同族の元へ行ったアトゥイはイラついていた。
「ふん。何故俺達偉大なる竜族があんな奴の言う通りに戦わなければいけない」
「今はそんな場合ではないでしょう!」
「どんな時だろうが、俺達があんな奴の言う通りに動く事があってたまるか!」
「クソ!」
背後で戦うハクアの気配を感じながら、アトゥイの焦りは募る。
ハクアの指示に従いユエと共に同族の元へ向かったアトゥイは、着くや否や守りをユエに任せ、ハクアに言われた通り戦闘に加われる者へと声を掛けた。
声を掛けたのは五人。
気弱な風竜のフィード。
無口だが頼れるアルム。
そしてアカルフェルに心酔しているアウイル、アハクス、アイトゥムのバカ三人衆だ。
正直、この三バカを加える事は躊躇ったが、頭が足らないが実力はそれなりに高い。
突っ込む事さえしなければマナビースト相手でもなんとかなる。そう思ったからだ。
その他にも実力者は居たが、怪我が酷い者が多く、その怪我を治す者も居た為このメンバーになった。
だがここで三バカが異論を挟んだ。
それがハクアの指示になんて従いたくないだ。
正直、この状況下で何を言ってるんだと言いたいが、今もハクアは一人あの強大な敵と対峙しているのだ。争っている時間すらも惜しい。
だからアトゥイは渋々折れることにした。
「……何が目的だ」
「決まってる。アレを倒した後、ビーストコアは俺達が頂く」
「それは!?」
「お前達!」
「やめろ」
あまりの要求にフィードとアルムが食って掛かろうとするのを止める。
チッ、やはりか。
内心で舌打ちしながらアトゥイは考えを巡らせる。
ビーストコアとはマナビーストの内部にある心臓部の事だ。豊潤なマナを大量に溜め込んだマナビーストのコアであるビーストコアは、その力を使えば竜族すらも上の位に引き上げる程のお宝だ。
それを無条件で寄越せなどふざけた話だ。
だが、今は時間が無い。
「わかった。ビーストコアは渡す。それなら手を貸すのね?」
「ああ、良いぜ」
ニヤニヤと笑いながらアトゥイの言葉に同意するアウイル。
その姿に殺意を覚えながら、内心でハクアに謝る。それでも今はハクアの元へ戻る事を優先したアトゥイだった。
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