第292話お前達を強くするよ
作戦から数日が経ったのでその間に起こった事を話そう。
まず、オーブからは早速書簡が送られて来た。
通常ならあり得ないほどの早さで送られて来た書簡には、補償と賠償が適正と言えるほどの金額が提示されていた。それと共に食料、その他の物資なども多く含まれていた。
未だ爪痕が大きく残るフープにとって今回の提示された物は大変助かる物だった。そして何よりも口約束とはいえ不可侵条約を結べた事は大きいだろう。こちらも日程を調整して後日細かい取り決めを行う予定だ。
アリスベルへの賠償交渉はまだ行っていない。それに関しては私が直接行う予定だからだ。その代わり今回の件に対する謝罪の手紙は送られてきた。それと共に今回の件に関わり生き延びた騎士達を貴族から除籍、または家ごと取り潰ししたそうだ。
この事を知らされた時、アイギスから「アリスベルはよっぽど貴女を敵に回したくないのね」とか言われた。
失敬な。私はそんなに怖くないぞ。
まあ、そんな感じでアリスベルへの賠償はアイギス達と話し合いを行ったうえで決める積もりだ。
亡くなった騎士達の遺族への補償も行った。色々と言われたが当たり前の事なので受け入れるしかない。
それと助け出した女性達も回復に向かっているようだ。女騎士達は流石と言うべきか精神的にも大分立ち直って来ている。しかし元々村にいた女性の中には、ゴブリンの相手をさせられた子もいる為、これからも細心の注意を払ってケアをしていきたい。
その内、アリスベルで作ったコスメ部門をフープにも出し店員を任せるのも良いかも知れない。コスメ部門ならこの世界では珍しい女性だけの職場にも出来るしね。
後、捕まえた勇者達の処遇も決まった。
あの二人のギフトは私が【喰吸.魂】を使い吸収した事で無くなったが、それでも今回しでかした事は看過できるものではないという事で、奴隷にした後に強制労働送りになった。
なんでも強制労働は常にモンスターの蔓延る前線地に配属される斥候役らしく、情報を持ち帰れば御の字、死んだらそれまでという死刑の次に重い刑なのだとか。
まっ、自業自得だね。
因みにギフトを吸収した私は新しく【座標転移】というスキルと【魂創改者】なるスキルを手に入れました。
【座標転移】は、知っている場所なら一瞬で移動出来る能力、早く言っちゃうとルー○だよね?
因みにあの勇者のように戦闘にも使えるかというと答えはNOだ。座標の指定には予め決めたポイントしか出来ないらしく、更に移動までに身動きも出来ず一分ほどの時間が掛かる。これでは流石に使えない。無念なり。
【魂創改者】は、元からあったスキル【魔獣調教】【魔物改造】【配下能力構成】の三つを含めた複合スキルらしく、更に配下にしたモンスターがレア進化する確率が上がり、私の成長に合わせて配下にしたモンスターのステータスに補正が掛かるようになるのだとか。
これに関しては要検証って所だね。
そして更にもう一つ。
作戦も終わり城に帰って寝て起きたら、何と白滅鬼(絶滅種)と、いうものに進化してました。
進化に当たり姿はあまり変わらなかったが、今まで額にあった布で隠していた小さな角が無くなり、その代わり額にクリスタルのような物が増えた。
何でも白滅鬼の角はエネルギー体の物で戦闘になるとクリスタルを核に角が現れるらしい。少し楽しみである。
駄女神曰く、白滅鬼は半鬼人の一種らしくオーガよりも更に強力な鬼の力を宿した鬼人種という種族に入るらしい、進化深度こそホブゴブリンと同じだがその強さはオーガに勝るとの事だ。
ゴブリンが仮に鬼人種にまで進化するとしたら、普通なら順調にいってもゴブリン→ホブゴブリン→オーガ→半鬼人と進化するらしいのだが、どうやら私はすっとばして進化しているのだそうだ。
余談だが疫鬼や白雷鬼などは小鬼種らしく、もっと進化すると鬼人種になるのだと言っていた。
これも白雷鬼の影響なのかね?
そして私が進化した白滅鬼とは、今はこの世界に存在していないらしく、鬼人種の中でも現人神のような扱いなのだそうだ。
特に素早さと特殊な能力に秀でた個体らしく、その辺は白雷鬼と変わらない成長の仕方だが、それに加えて魔法防御も高くなっているそうだ。更に絶滅種というのはその特徴が亜種、希少種などよりも更に強く出ているそうだ。
駄女神が言うには亜種、希少種等は得意なものは得意、苦手なものは苦手とその辺が特に顕著なステータスなのだとか。まあ、そのわりには皆と比べるとステータスまだ弱いけどね。
とはいえ、これには流石の私もビックリだった。確かに進化可能とか何とか言われた気がしなくもないが、はっきり言って全く頭に入ってなかった。お陰でいつもの楽しみが減ってしまったのだよ。これまた無念なり。
と、まあ起こった事はこんな感じな訳だ。
そんな風にここ最近の事を思い出していた私は、今も下で集まる沢山の人達を見詰める。
「ここに居たのか。お前は行かないのか?」
「……私はここでいいよ」
「そうか。気にするなと言っても無駄だろうな」
「まあね。私には私のやり方があってそれはもう済んでる。あそこは……私の行く場所じゃないよ」
そう、私が見ていた沢山の人達は今回の作戦で亡くなった兵を悼む人達だ。勇敢な兵達に対し、感謝とその行いで救われた事実を忘れない為に、そんな名目で女王自らが指揮を執り行っているものだ。
「それにさ。知ってるでしょ。私の考えは」
「そうだな。墓や葬式なんて物は亡くなった人間に対してでは無く。これからも生きていく遺族が区切りを付ける為の行為。だったか?」
「うん。あくまで私の考えは……だけどね。だから私にはあそこに行く権利が無いんだよ」
ガームが死んで以来私はリンクとリンナとは会っていない。避けている訳では無くあの二人は家に閉じ籠っているそうだ。
掛ける言葉もわからないし、何よりも私はガームを死なせた側の人間。リンクにもリンナにも、あそこで大切な人間の死を悼んでいる人間にも掛ける言葉は無いだろう。
私の言葉に澪が、はぁ、とため息を吐き。面倒な奴めと吐き捨てる。
「まあいい。今回の事に関して私が何を言っても無駄だろうからな。邪魔者はさっさと去って後は任せるとするか」
「邪魔者って、んな事言って。って、オイ!」
なんなんだ? 言いたい事だけ言って行きやがって。
私が澪の行動に頭を傾げていると、またも後ろから誰かが来る気配がする。
ガチャッと扉を開けて出て来たのは久しぶりに見るリンクとリンナの二人だった。
「ハクア様。ここに居たんですね」
「ハクア様は行かないんですか?」
「……ああ、私のやる事は終わったからな。それよりも何か用か?」
罵倒なら受ける覚悟がある。
そんな私を前に二人は互いに顔を合わせ頷くと、いきなり頭を下げ謝ってきた。
「えっと。どうした?」
「その、今まで気持ちの整理が着かなくて会うのが遅れてしまったので」
「リンナと沢山話しました。それにあの時兄ちゃんとも。だから俺達はハクア様が悪く無いって知ってます。皆、自分の仕事をやり遂げたんです。だから……その……えっと、あれ?」
「ハクア様は自分の事を責めないで下さい。そんなのお兄ぃだってそれに他の人だって望んでません。だって皆、ハクア様に沢山感謝してました。だから自分の事を責めないで下さい」
そんな事を言いに来たのか? ははっ、なんだ。
「……強いな二人は……うん。ありがとう」
本当に、私なんかよりよっぽど強いな。これは私が持てなかった強さだもん。
私の言葉を聞いた二人はまた顔を合わせると笑いだす。そして……。
「ハクア様。また私達に稽古を付けて下さい。ユエちゃん達みたいに」
「俺達約束したんです。兄ちゃんと。強くなって兄ちゃんの守りたかった物を守るって。だから」
「「これからもよろしくお願いいたします!」」
「うん。お前達がその強さを持ち続ける限り。私も……私もガームに託されたお前達を強くするよ」
「「はい!」」
こうして三国の共同のゴブリン討伐作戦はひとまず終わったのだった。
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