第249話「……君は本当に、無駄な所で無駄な才能を無駄に発揮するな」

 さて、貴族の騎士様にいきなりケンカを吹っ掛けられている訳だが、そろそろ午前中の事を思い出して思考を飛ばすのも限界なんで、ちょっと整理してみよう。


 昼食を食べた私達はその足で訓練所までやって来た。

 そこには既に結構な数の騎士と、ジャック、メル達冒険者がお互い離れて訓練しているのが見えた。


 これだけの人数居ても余裕在るとはやっぱり城ってでかいな。


 そんな感想を抱きつつ私達はそれぞれで訓練を始めた。


 心が訓練を付けるという話しだったが、今日の所は普段どんな訓練をしているのか、どれ程動けるのかを調べるらしい。他にも必要な物が揃ってない等とも言っていた。


 正直訓練に必要な物とかって言われると嫌な予感しかしないのだが?


 まあ、そんな訳で私達が城に居る間一緒に行動する事になったフーリィー、カークスも加え勝手に訓練を始めたのだった。


 因みにフーリィー達が私達と一緒に居る理由は一応私達の監視なのだが、実際はテアによる魔法講座や心による訓練があるからである。


 まあそんな訳で、アリシア、アクア、ミルリルは魔法の訓練を、エルザとミミを除いた他の全員が、いつの間にか合流していたジャック、メルとそれぞれの副官を加え、それぞれで模擬戦や形稽古をしていた。


 エルザとミミが居ないのは、現在テアによるメイド講座を受けているからである。メイドとしての心構えから何から教えると言っていた。


 魔法講座の時よりも目がキラッキラしてたけどね?


 因みにミルリルがこっちに居る理由は、もう少し自衛の手段を身に付けたいから。と、いう事だった。


 ウチのメイドは凄い立派だよね。


 そんな中私は一人、紙と筆記用具を手に訓練していた。


 訓練所の訓練で紙と筆記用具? と、思うだろう。実際皆興味深そうに見ていた。


 私はそれらの視線を丸っと無視しながら、まず自分が使える魔法を片っ端から使ってみた。


 そして、その魔法を射つ際に現れる魔方陣を紙へと模写した。


 後で魔方陣の規則性や、効果、何処が何に対応してるのか調べよ~と。


 今までにも何度も見ている魔方陣なので時間は掛からず、自分の分が終わったら今度はアクアの強化魔法、瑠璃の弱体魔法の魔方陣もついでに描いておいた。


 そこまで終わってホクホクの私が次に行った訓練は、勿論土系魔法の訓練だ。


 魔法や呪文に付いても色々と聞いたからね。


 そんな訳で私は、魔法の訓練をしながら細部まで作り込んだ理想の我が家の模型を製作していた。


 この世界の建築様式はほとんどが四角い家なので作り易い。なので私はそれを半分にパカッと割れるように作り細部の家具まで細かく作り込んだ。


「……君は本当に、無駄な所で無駄な才能を無駄に発揮するな」

「しょうがないですよ心さん。だってハーちゃんですから」

「あっ、この間取り前のお家に似てるニャ」

「これがご主人様の元のお家ですか?」


 そんな風に話しながら自分の部屋はこんな感じで。なんていう要望を聞き、更に細かく調整しながら模型を製作していると。


「ふん。良い身分だな。こんな所で遊んでいるだけで英雄扱いとは」


 と、そんな言葉を後ろから掛けられた。


 だがまあ、誰に言った言葉なのかわからないので取り敢えず無視する方向で。


「おい! 聞いているのか! たかが平民上がりの冒険者如きが、このウィルザー男爵家の三男で在るサンドの事を無視する積もりか!」


 と、まだ何か言ってくるので、しょうがないから模型製作を一時中断して、声を掛けているらしい相手をキョロキョロと探す。


 全く、ちゃんと相手してやれよ面倒臭い。おや? 私以外は全員何か叫んでる奴の事見てるぞ?


「いや、確実にお前の事だからな?」

「ハクア、ほら、ちゃんと顔合わせてあげなよ? あそこまで言っても無視するから顔真っ赤になっちゃってるよ」

「ん? ああ、私に言ってたのか? てっきり勇者とか呼ばれて調子乗ってる的な奴にかと思った」

「貴様! 何処まで私を愚ろ──」

「そもそもさ? なんで私なん? どう考えても澪に行くのが正しいだろ? 外道の癖に勇者なんて言われてんだから」

「おい、言うに事欠いて親友に外道とは随分な言い方だな? お前こそロクデナシの癖に」

 「あ゛あ゛?」

「何だ?」

「二人共止めないか、君達はどっちもどっちだろう?」


 そんな言い合いをしながら、互いにメンチを切り合いを澪としていると「無視をするな!」と、怒鳴られる。


「ああ、悪い。あまりにも影が薄くて忘れてた。それでなんの用? え~と、サントさん?」

「サンドだ! サンド! 濁点が足りていない! 人の名前を間違えるな!」

「ああ、はいはい。で、そのサンダーさんがなんの用?」

「くっ、この! 誰の名前がそんな雷系の魔法だ。いい加減にしろ! 魔族の討伐を手伝った位で褒賞等貰いおって! どうせ貴様など端で震えていただけだろう! ふん、あの女王の考えそうな事だ。大方見た目の良さで英雄に仕立て上げれば自分の求心に繋がると持ち上げられたのだろう?」


 ん? ああ、こいつアイギスのアンチか。てか、貴族とはいえ男爵の三男とはまた微妙な。男爵なんて下級貴族もいい所ではないか。それでここまで不遜な態度取られてもねー。


 なんか聞いててソッコー面倒になったので、私は再び理想のお家の模型製作に勤しむ。


 やっぱ、家の中に螺旋階段在るってなんか良いよね? なんてーの? 浪漫って言うか勝ち組って感じするよね! そういえばコンロとかの代わりはあるけど、もうちょっと台所周りの物も充実させたい所だよね。

 美味しい料理を作る為には台所用品にも拘りたい。魔法陣や魔石を研究して早めに充実させねば。ハンドミキサーとかも欲しいな。


「貴様聞いているのか!」

「止めなさいサンド! ハクア様はあの戦いで先陣に立ち戦った功労者ですよ! それをこの様な場で糾弾してあまつさえアイギス様の事まで」

「ふん、少し実力が在るからと偉そうに、副団長とはいえ、平民上がりの女が私に偉そうに指図するな!」


(なあ澪、カークス。なんであいつヒラの癖にあそこまで言えるんだ?)

(知らん)


 役立たず。


(彼の曾祖父はこの国でもかなりの力を持っているんですよ)

(男爵程度が?)

(いえ、曾祖父はもっと上です。彼の親が魔力が少なかった為、地盤を固める為の婚姻を豊かな土地を持つ男爵と結んだんです。ですが、魔力は少なくとも血筋ですからね。厄介な事に未だその言葉は影響力が在るんですよ)

(とはいえ、既に降った家の人間でアレは無いだろ?)

(ミオ様の言う通りなのですが……、件の男爵家の豊かな土地は、フープの財政にも響きますからね。それが今のこの状況だと特に……)

(尚更強く出にくい。と、言う訳か)

(はい。あの家の家系の者は元々アイギス様を支持していませんからね。今でさえ食料の値段を吹っ掛けられている程です)


 実家ぐるみで面倒な奴らめ。


「ふん! そもそも訓練所で訓練もせずに遊んでいるだけではないか。しかも、土魔法なんてなんの役にも立たない物を」


 あん? 今こいつ土魔法さんの事馬鹿にしたか? 土魔法さんの汎用性舐めんなよ屑! 私の事をなんと言おうが別に構わんが、土魔法さんの事を悪く言うならそのケンカ買ってやんぞコラ!


 土魔法さんに対してのあまりの物言いに、イラッと来て突っ掛かって行こうとしたら皆に止められる。


 止めないで! 土魔法さんに対して土下座させちゃる!


 そんな私の様子に気が付かず、お貴族様の私への批判はまだまだ続いて居た。


 だが、私への批判がいきなり止まると、私の前に立ち抱き付きながら私を止めていたシィーに視線を向けていた。そして、私の目の前の馬鹿はこう言いはなった。


「そもそも、この人間の訓練所にエルフやドワーフなら未だしも、薄汚い家畜獣人など連れ込むとは何を考えているんだ穢らわしい! お気に入りの性奴だとしても私の視界に入れないで欲しい物だな」


 その言葉を聞いたシィーの身体がビクッと震える。


 シィーが私に抱き付いていたから良くわかった。

 それは、シィーがこの世界であんな言葉を投げ掛けられるのが初めての事では無いという事が、何度も何度も……それこそ心が摩耗するほどに何度も同じ言葉を投げ掛けられ、その言葉のナイフに何度も心を傷付けられたのだと、その私に気付かれたく無さそうな震えで伝わった。


 その時私が思い出したのは姉がシィーを初めて私の前へ連れて来た時の事だった。


 一番最初、シィーが家に来たのは姉に連れられてだった。最初から今のようになついてはくれなかった。何度も引っ掻れたし、呼んでも来ないなんてのは当たり前、でもなんと無くそれは人を怖がっているからだというのもなんとなく理解出来た。


 それは私も同じだったから。


 だからこそ私は何度拒絶されても構い続けた。姉や瑠璃、澪達が私にしてくれた様に私もこの子を助けたかったから。


 そうしている内にだんだんとシィーは私を受け入れてくれた。だから私は以前のようにシィーの事を少し強めに抱き締める。そうするとシィーの少し強張った体から力が抜け、私の想いが伝わったのだと少し嬉しくなる。


 私の目の前の愚物は未だに私のシィーの事を悪し様に罵っている。

 騎士道がどうとか、貴族としての矜持がどうとか、如何に獣人が醜悪なのかと自らの醜悪さすら解らぬやからがほざいている。

 そして、それを遠巻きに見ている騎士団の連中の中に、目の前の愚物のようにニタニタとしている奴も何人か見付ける。


「ほう。随分と面白い事を言うな? 国を見捨てて魔族から逃げ、いざ事が収まれば我が物顔で戻ってくる。更には何もしていない女の子を貶め貶すのがこの世界の騎士道と言うのか? ははっ、だとしたら私の知っている物とは大分違うようだね?」


 思わず【威圧】が漏れるも、流石は腐っても騎士を名乗るだけ在るのか、少し顔をしかめるだけで倒れる事は無い。


「ふん。関係無いな! 獣人などただの家畜! それを庇うとはやはり貴様も転生者とはいえ魔物だな」


 成る程、褒賞の場で【鑑定士】のスキルで見られてるってヘルさんに言われたけど、こいつ等の一派だった訳か。隠した所でいずれバレそうだから放置したがこのタイミングで使うか。裏は……無さそうだな。馬鹿っぽいし。


「はあ、別に関係無い。気に入らない奴は気に入らない。ましてや|家族(シィー)を傷付けるなら尚更な」

「……ご主人様」

「ふん。それが貴様の本性か。だとしたらこんな奴に褒賞を与えるなど、益々女王は何を考えている事やら」


 ……イマイチ目的がわからんな? アイギスを落としたいなら他にも効果的な場面は在りそうなんだけど、どうも私達を足掛かりにアイギスを攻撃したいようだが効果薄いだろうに。

 まあ、シィーを標的にした時点で私が遠慮する必要は何処にも無いけどね。


 これは私がこの世界で勝手に決めたルールだ。


 相手が誰であろうと私は私の仲間を傷付ける奴は許さない。許す気が無い。アクアやクーはモンスターだし、この土地では人間では無いアリシアやコロ、エレオノだって風当たりは良いとは言えない。


 テアの話ではエルフやドワーフは獣人ほど迫害を受けている訳では無い。という話しだったけど、それでもコルクル達の様にエルフやドワーフを人とは違うという理由だけで害する奴はいる。そして何よりもミミがされたように獣人を害する者は更に顕著だ。


 そんな訳で目の前のこの愚物を処刑する事は私の中で決定だった。そして、冒頭に戻る。


「はっ、守るべき物も守れない奴が騎士道を語るなよ愚物。厚顔過ぎて見ているこっちが恥ずかしい」


 私の言葉に騎士様(笑)は顔を真っ赤にして怒りに震えていた。


 ね? 挑発はしてるけど、今回私全く悪くなくない?


 〈ええ、珍しい事にそうですね〉


 解せぬ?

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