第600話大きさはパワー
現在、私は何故か全員に見下ろされながら正座している。そう端的に言えば説教の真っ最中だ。
「なっんで! 受けちゃうのかなハクアは! 物に釣られてあんな事受けるなんて、どうしてもっと考えて返事しないの!?」
それだとまるで私が脊髄反射で返事したようではないか。まあ、実際そうなのだが。
「相手はあのアカルフェルっすよ。流石にハクアでもまだキツイはずっす」
「そうなの。あれは色々と……本当に色々と気に食わないし、最低だけど、実力だけは確かなの」
「ああ、実力だけで言えば私やシフィーとさして変わりない程だぞ。お前がどうなろうがどうでも良いが、勝てるのか?」
どうでも良いて。
「うんまあ、ぶっちゃけ勝てるかどうかと言われると怪しいけど、私だって何も考えてない訳じゃないよ?」
うん。だからそんな疑わしそうな目で見るのやめようか?
「考えてるって……最後のあれ?」
「そうそう」
実はアカルフェルとの勝負が決まった段階で私は一つ提案を通したのだ。
それが人化状態で戦うというもの。
「それだけで本当に大丈夫なの?」
「勝率3割って所かな?」
「全然だめじゃないっすか!?」
「えっ? 3割ならいい方じゃね? 縛りなきゃ1割以下だし」
「ムーは分からないけどそんなに違うものなの?」
「うむ」
勘違いしている人も多いが、大きければ確かに攻撃は当たるし、大振りになりそれ自体は避けやすくなる。
しかし大きさはパワーだ。
当たりの判定が大きいのは向こうも一緒、しかもそれを維持する為の肉体もあるんだから、大きければ動きが遅いなんてことはない!
アリがどれだけ速く、噛まれれば多少痛くても、いつか人間に踏み潰されるし、何万匹の特攻でもなければ噛まれて死ぬ事もないのだ。
その点同じ規格なら、多少の違いはあっても同じ距離を同じ感覚で進まなければいけない。
しかし規格そのものが違うと私が1km進むのに数分掛かる時、相手は数秒で済むなんて事になるのだ。
攻撃に関しても同じ、虫刺されで死ぬとしても菌や毒が原因であって、刺された事自体は問題ではない。
しかしこれが人間大の虫に刺されたとなれば、もちろん待っているのは死だ。
これだけ大きさと言うのはとても重要なファクターなのだ。
「んー、でも、本当に大丈夫っすか? ハクアの条件通す為に、向こうの条件も飲んだし」
「いや、うん。それについては私も予想外の出来事でした」
通常ならば交換条件など普通に想定する。
しかし今回、勝負を持ち掛けて来たのは向こう側、しかも相手は勝つのが当たり前の龍。
こんな小娘一人を正式な場を整えて一方的に叩き潰す。と言っているようなものなのに、こっちが条件付けたからって、相手まで条件を突き付けて来るとは思わなかったのだ。
そんなことプライドが絶対に許さないだろうと思ってた。
実際アカルフェルは不服そうにしていたし、今にも反発しそうだったしね。
どうやら元老院はそこまでして私を排除したいらしい。
龍としてのプライドよりも私を殺すのが優先とは、私も随分と出世したものである。
まっ、理由は分かるけどね。
「どうしたのハクア? 私の顔見て」
「いやー、ミコト達の焦りようがおもろいなと」
「なんでそんなに他人事!? 自分の事なんだからもっと真剣に考えようよ!?」
「これでも結構真面目に考えてるよ?」
「すでに疑問符なんですけど!?」
元老院が私を殺す理由。
それは恐らく、私がミコトに近付きすぎたからだろう。
そしてそれは元老院がミコトを監視してる理由でもある。
まっ、今はその理由まではわかんないけど。
元老院の態度は一貫してミコトをコントロールしたい。その想いが透けて見える。
多分この辺が鍵なのだと思う。
「でもシーナの言う通り本当に大丈夫なの? 向こうの要求は武器や道具の使用禁止なの。それだとハクアの得意な小細工が出来ないから、アカルフェル相手だと分が悪いの」
「小細工言うなぁ!? おいコラ、他のことは許したとしても小細工呼ばわりは許さんぞ!?」
結構必死にやって来たのに小細工言われましたよ!?
「いやでも、私ら武器とか罠なんて使わないっすから、うーん……やっぱ小細工っすね」
「うっ……ぐぬぬぬぬ」
このナチュラルボーン強者共め。だから才能ある奴は嫌いよ。人の努力を簡単に小細工とか無駄な努力扱いしおってからに。
それに龍相手に素手で突っ込めって言う方が頭おかしいんだからな!
「まあ、恐らくはお前がここに来てから起こした行動を把握されているんだろう。だからこそ、元老院は真正面から正式な試合という形を取る事で奇策や罠を封じたんだろう」
「まあ、そうでしょうね。ごめんなさいねハクアちゃん。本来なら私がなんとかする場面だったのに」
「私も、事前に知ってたら少しは力になれたのに……」
「気にしてないよおばあちゃん。もちミコトもね」
これは慰めでもなんでもない本気の言葉だ。
だって恐らくはこれは、どう足掻いても最終的にこの形になった強制イベントのようなものだ。
恐らく突っぱねた所で、別の視点から切り崩しこの形になったはず、そもそもあの形で場を整えている時点で受けないのは無理な事だろう。
「父上も何考えてるのかわかんないし」
「ミコト様、そんなことを言ってはいけませんよ」
「ヤルドーザ。でも……」
「いくら龍神様と言えど、元老院を相手に完全に彼女の味方は出来ません。そうなれば彼女の方がより立場が悪くなりますからね」
まっ、確かにそうなるだろう。
ここで何もせず終われば、この里での立場がより悪くなる。そうなればここに居る全員に迷惑をかけてしまうだろう。
下手をすれば私の一派という扱いで、皆まで立場をなくしてしまう恐れがある。それは私とて本意ではない。
「それに龍神様は彼女の味方ですよ」
「えっ!?」
ヤルドーザの言葉にミコトが驚きながら私を見る。それに応えるように私は頷き返す。
「だね。今回珍しく龍神は完全に私側だった」
「そうなの!?」
「うん」
この話を受けてもなんのメリットもない。けれどこれはある意味強制だ。
だから龍神も私に装備を渡す必要は何処にもなかった。
それでも装備を渡してきたのは、少しでも私の勝率を上げ楽しい見世物にするため。
相変わらず多少歪んだアシストではあるが、少しでも勝率が上がるならそれに越したことはない。
それに今までのやり取りと、今回ので力関係もなんとなく見て取れたしね。
最終的な決定権は龍神にあるが、その龍神もおばあちゃんと元老院を完全には無視出来ない。
それが私に装備を渡すという形で現れている。最初に目が合ったのは良い物はくれてやるとでも言いたかったのだろう。
更に元老院の発言で明らかに龍王側に殺気が漏れた。
わかっていたが、おばあちゃんやシフィーという個人ではなく、龍王全体が元老院とは相性が悪いらしい。
これはまあなんとなくわかっていたが、やはりアカルフェルの後ろ盾になっていたのは元老院だった。
まあ、あそこまで色々とやって、おばあちゃん達にも楯突いても何も言われないからそうだと思っていたが。
そしてついでにこの里で一番私を殺したがっているのが、元老院って言うね。
全く、やれやれだぜ。
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