第601話ハクア、目が死んでるの

「でも、実際本当に大丈夫なのハクア?」


「んー。まあ、とりあえず……腕一本って所かな?」


「どういう意味?」


「まあまあ」


「またそうやって誤魔化す。結局、試練ではレベルアップとかもしなかったから、心配してるのに」


「そうなんっすか?」


「うん」


「あれ? ミコト分からなかったの? あそこ精神空間に近い場所だから経験値なかったんよ」


「そうだったの!? じゃあ別にあそこで怪我とかしても大丈夫だったんだ」


「いや、その逆」


「逆?」


 精神空間に近いという事は、そこでの怪我は精神または魂に傷を負うことに等しい。


 そうなると身体に傷がなくても死ぬ可能性もあるし、衝撃が大きければ、もちろん身体の方にも傷が現れたりする。(その辺は当人の精神力によって違う)


「もちろん道中のザコ敵程度なら精神に少し傷を負う程度だったろうけど、アジ・ダハーカレベルの相手だと確実に死んだろうね」


「そうなんだ」


「ん? じゃあレベルアップしなかったのもそれが原因なんっすか?」


「うん。あそこは記憶……いや、記録かな? そこから生じる幻影だよ。だから倒しても何もない」


「えっ!? それなのにこっちは危ないの?」


「それも含めて試練なんじゃね?」


 おばあちゃん達を見るとウンウンととても深く頷いている。


「それに外で見てた皆も、中に居たミコトも気が付いてなかったくらいだしね」


「あー……そうだね。あれ? でもそれってもしかしてアジ・ダハーカに一回殺されたのもやっぱり凄く危なかったって事!?」


 あれ? おかしいな。なんかミコトから凄い怒気が。


「そうですね。白亜さんがおかしいので後遺症はありませんが、普通はなんらかの重大な後遺症は確実に残ったでしょう」


「というか、ハクちゃん以外なら確実に復活させても魂が壊れてたでしょうね。あそこから何事もなく復活出来たのはハクちゃんのおかしさあってこそですし」


 うん。おかしいを強調するの止めようか?


「つまり試合までの一週間しかないのに、ハクアのしょぼいステータスで戦わないといけないってことっすか?」


「ハクアのしょぼいステータスでなんて流石に無理なの」


「しょぼいとか言わないでいただけます!?」


「だが、事実としてお前のステータスで正面からやり合える相手ではないだろ」


 まあ、それはそう。


 今まで曲がりなりにもなんとかなったのは、様々な要因があったからであって、準備もなく一人でとなると少し厳しい。


 ステータスだけで言えば、大人と赤子程の差があるのだ。


「後一週間でどれほどハクアがレベルアップ出来るかが鍵という事ですか?」


「んー、確かにアトゥイの言う通りだけど、それは一番の悪手かな。正攻法だけじゃアイツに勝てぬ」


 ましてや一週間だと、どれほどレベルアップしてもステータスは追い付かないし、焼け石に水。多少はマシになっても不確実過ぎるだろう。


「じゃあどうするんっすか」


「それはもちろん修行よ」


「……だそうです」


 おばあちゃんに後ろからポンと肩を叩かれ、地味に押さえ込まれる。


 ……逃げられない。


「ハクア、目が死んでるの」


「不憫っす」


「あはは、でも、修行と言っても今までと同じで勝てるの?」


「それについてはテア様達に話して頂くわ」


 おばあちゃんが視線を向けた先を見ると、いつの間にか女教師風のコスプレをして教鞭を持つソウ。そしてその横からガラガラとホワイトボードを持ってきた助手風のテアも居る。(だがやはりメイド服のまま)


 そして───。


「では始めましょう」


「テアがやるなら要るかなそのコスプレ!?」


「えっ? ハクちゃん好きでしょ。それに説明はテアさんの方がわかりやすいしね」


 いや、好きではあるよ?


 開き直ったソウに若干呆れる。


「良いですか?」


「どうぞどうぞ」


「では白亜さん。この間教えた星神を使いながら、自分の中を集中して覗いて下さい」


「ふむ」


 言われた通り集中して目を閉じる。


「あれ?」


「どうしたんっすか?」


「いや、なんか前と変わってて」


 前は白い炎の塊が太陽のように脈動し、プロミネンスのようになっていた力の塊がなくなっていた。


 そしてその代わりに眩いばかりの光を放つ恒星のような星が三つ、そしてそれらを取り囲むような小さな光が輝いていた。


 その光景は一言で言えば───。


「……星座?」


「ええ、そうです」


 そうか。つまり、星神ってそういう事。


「わかったようですね白亜さん」


「まあ、一応ね」


「どういう事なのハクア?」


「テア達、神が使う技術の星神とは星辰の意。つまり、自分の中の力を凝縮、もしくは結晶化とでも言うのかな? させる事で、星座を作り出すものって事だと思う」


「さっすがハクちゃん。よくわかったね」


「ええ、その通りです」


 どうやら正解のようだ。


「でも、自分の中に星座なんて作ってどうするんっすか?」


「ふっ……それは知らん!」


 堂々と言ったら全員から呆れられた。何故に?


「星座とは神話の依代となるものです」


 その言葉に全員の視線がテアに集まる。


「自身の力の結晶を光とし掲げる事で、それを示し力とする。そうする事で星座となった者は神として名を連ねる事が出来るんですよ」


「……それは、神になると空に自分の中の星座が浮かんで、そいつ自身が星座になると?」


「正確には自身が星座の一部になります」


 なるほど、神になるための最後の方法がそれって事か。


 空に星をなんて他の神が関わらなきゃ出来ない事だ。つまりは他の神に認められる事で、自分の星を空に浮かべて貰える。そうする事で神に等しい力を得るのか。


 推測を話すとテア達が少し驚き肯定する。


「まあハクちゃんが言っただけじゃなくて、それに相応しい逸話や伝説、偉業、そして何より力も必要だけどね」


「ふむふむ。で? それは分かったけど今回のこととなんか関係あんの?」


 ぶっちゃけ神になる気はないんで、それを知った所でなるほど程度にしか思わないんだが。


「ええ、多少ありますよ。本題は白亜さんの中に見えた星座です。白亜さんにはどう見えましたか?」


「えっと……」


 テアの質問に、私は自分の中に見えた光景をなるべく詳細に話す。


「私と全然違う」


「私もっす」


「ムーもなの」


「そりゃ全部同じな訳ないじゃん」


「いや、そうじゃなくて、私は強い光を放つ星っぽいのは一個だったから」


「ムー達はそんなのなかったの」


「ほう……」


 形が違うってだけじゃないのか。


「ええ、白亜さん達が見た恒星のような星は自身の力の源、それが神の力を有している場合に光り輝きます」


「つまりミコトの場合は龍の力が神の力を有してて、私の場合は鬼、龍、獣の力って事?」


「正解。第一段階は自身の力の源に神の力を持たせる事なんだ。ハクちゃんの場合は、特別で三つも力があるけど普通は一つがほとんど、これが多いとそれだけ大変になるんだよ」


「ほう」


「そして第二段階はそれを彩る無数の星を増やし輝かせる事。今回必要なのはこっちだね」


「そうなんけ?」


「うん。周りを彩る無数の星は、言わば恒星を更に輝かせる為の物。これが多ければ多い程、力も強くなるんだよ」


 ふむふむ。このタイミングでそれをするって事は、レベルアップよりも重要ってことか。


「ええ、星神は星辰の意であると同時に、精神という意味でもあります。そして自身の中に星座を作り上げた者は、魂を更に練磨する事で神魂しんこんへと昇華させ鍛えます」


「神魂の修行は普通の方法で鍛えるよりも辛いけど、その分効果はそれの比じゃないんだよ。しかもどちらかと言うと精神修行がメインだから、精神が化け物じみてるハクちゃんにピッタリなんだ」


「そっか、私の化け物じみた精神力にピッタリ───って、誰の精神力が化け物じみとるか!?」

 

 理不尽な言葉にツッコミを入れるが誰も何も言ってくれない。ツライム。


 こうして私の新たな修行が始まったのだった。

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