第323話うっ、結構難しい

「なんと!?」


 30メートル程の距離を開け向かい合う私とオークロード。その異様な姿に出方が分からず睨み合っていたがそれではなにも変わらないと、先手必勝とばかりに様子見の弾岩を放とうとする。だが、それは向こうも同じだったようだ。


 オークロードさんはなんと素晴らしいフォームで手に持つ棍棒を私に投げ付けて来やがりました。


 この野郎! モンスターの癖になんて見事なマサカリ投法を! 生意気な! てか古いんだよ!


 あまりの暴挙と、意外なほどに華麗なフォームから繰り出された棍棒の投擲スピードに、面食らいながらもなんとか回避を行う。

 ギリギリで避ける事の出来た攻撃だが、もう少しで肉塊になっていたのは間違いないだろう。その証拠に私から外れた棍棒は岩山に当たり、一軒家ほどの大きさの岩山を粉々に砕いていた。


 だが得物を失ったと喜んでいる場合ではない。なんとその背にはもう一本棍棒があったようで、それを引き抜き既にこちらに駆け寄ってきているのだ。


 完全に出遅れた!?


 そうは言ってもまだ攻撃範囲に入るまでには多少の時間がある。その時間を使い今度こそ弾岩を放つが、私の放った攻撃は見事にオークロードに当たったがそのどれもが分厚い脂肪に阻まれダメージになっていなかった。


 ダイエットしろよ!!


 そんな悪態を吐きたくなったがどうしようも無い。代わりに火や水、風などの魔法も試したが、そのどれもが脂肪の前に敗れ去りあまりダメージを与えられなかった。


 脂肪ってあんなに万能でしたっけ!? てか、なんでハイオークは猪っぽくなるのにオークロードになるとまた豚に戻るんだろう。


 どうやらこいつは私の攻撃では直接切るくらいしか方法がないようだ。


 それを確認した私は残り5メートル程になった間合いを、自らが走り寄る事で一気に無くしていく。流石に距離を縮めて来るとは思わなかったのか、オークロードの攻撃に転じる動きが少し鈍り私に隙を晒す。


 スキルを使わずに放った抜刀術だが、脂を切る独特の感触を私の手に与えながらオークロードの身体を切り裂いた。


 どうやらこのレベルの斬撃なら通じるようだ。


 しかし、オークロードは浅いとはいえ脇腹を切り裂かれているにも拘わらず、何も感じていないかのように私に向かい棍棒を叩き付ける。


 あまり素早くはない攻撃スピードに、出来るだけ余裕を持ちながら回避すると、私を叩き潰すはずだった棍棒が地面に叩き付けられたと同時にオークロードに再び接近して、棍棒を伝いながら駆け登り倒立するように肩に両手を触れ、この階層で得たもう一つのスキルを発動する。


「【水枷】」


 戦闘系スキル【水枷】

 相手の身体に両手の掌を当てスキル名を唱える事で発動。相手を魔力で包み、水の中に居るような行動阻害効果を与える。鈍重と併用可能。


 自分のスピードが上がる訳ではないが、スピードを元に相手と戦う私にとって、相手のスピードが下がるのは大きな助けとなるスキルだ。


 スキルを発動した私は倒立の姿勢のまま腕の力だけで飛び、オークロードの背後へと飛び降りる。勿論背中を切り付けるおまけ付きで地面に着地すると、身体を回すように振るわれた棍棒を避け距離を取る。


【水枷】による魔力はそのままでは見えないが、【魔眼】を使えば確かにオークロードにまとわり付く揺らぎのような物が見える。

 しかも今回のオークロードだが、珍しく私のデバフのあれこれが効くようで、毒と軽度の麻痺、鈍重と呪い、減魔に虚脱と絶賛デバフ盛り状態になっている。

【水枷】と鈍重でスピードが半分以下にまで落ちて更に今現在、毒と呪いでHPが減魔と虚脱でMPと気力までが減っている。


 ここまで見事に怠惰の魔眼掛かる奴、実は初めてだったりする。


 しかし私の方も有効打は未だに与えられていない。ダメージは通るものの分厚い脂肪に守られた身体は、数値以上の防御力を誇るかのように私の攻撃を阻んでいるのだ。


 クソッ! このままじゃジリ貧だ! 攻撃は全て避けられるが攻撃を避けた後が問題だ。


 攻撃は避けられるものの、その攻撃で壊された地面や岩などが周囲に向かい一斉に散弾となって飛び散るのだ。

 これには【結界】を、使い対処しているのだがオークロードにより量産される散弾はかなりの破壊力をもっており、何発かは【結界】を突き破ってくるのだ。それにより負うダメージは私の攻撃とデバフによるHPを削る速度よりも速い。


 こんな所でもステータスの低さで苦労する事になるとは、いやまあ、わかってたけどね!


 そこで私は余裕がある内に、先程思い付いたもう一枚の手札を切る事にする。


 オークロードの打ち降ろしの攻撃を大きく避けた私は、散弾を【結界】で防ぎながら、同時に【結界】で足場を作り散弾から逃れ、上へと跳躍して行く。そして、十分な高さまで上がった私は白牙刀をダグダの大剣へと変化させる。


 ダグダの大剣は超重量だ。そんな物を空中で取り出した私のやる事と言えば一つだけ。重さを利用した超重量の一撃だ。

 重すぎて扱えないとはいえ、空中でならば角度の調整や姿勢の制御くらいは可能だ。

 私は剣の柄を右手で持ちながら、刀身に乗り刃の角度を調整しながら落下していく。もちろん風魔法での落下速度の後押し、姿勢制御も並行してだ。


 うっ、結構難しい。


 だがそれでも魔法で後押しされた超重量のダグダの大剣は、数秒持たせれば良いほどのスピードでオークロードに向かって行くのだから助かる。オマケにオークロードは私の一撃を受け止める気でいるようなのが幸いだ。


 オークロードに到達する直前、私は右手を軸に刀身の先を下に蹴り付ける事で、擬似的に振り被りからの斬り付けの一撃を再現する。だがそんな私の肩に、オークロードから逃げ出したハイオークの弓の一矢が放たれ、狙った目標から少しばかりずれてしまう。


 ハイオークの一矢でずれた攻撃はそれでもオークロードの武器を両断し、その身体を深く傷付ける事には成功した。


 だが、それでもまだ足りない。


 頭を狙い外れた攻撃ではHPを全損させるには至らず、また行動不能にするほどのダメージも与えられていない。それほどまでに取り巻きのハイオークが私に放った一矢は、見事に私の行動を阻害したと言える。


 その結果、オークロードは痛みに苦しみながらも、反撃出来るだけのダメージで済んでしまった。そして口から血を吹き出し雄叫びを上げて、未だ地面に深く刺さったダグダの大剣を変形させる事無く持つ私に直接殴りかかって来る。


 だが、その攻撃が私に当たる事はなかった。


 本来なら超重量級のダグダの大剣を持った私は、移動出来ずにそのオークロードの巨体の全体重の乗った攻撃を受けていたであろう。


 だが、結果として私は持てない筈のダグダの剣を片手で構えた状態で、オークロードの一撃を避けていた。


 なぜ私の貧弱なステータスでこのダグダの大剣を持つ事が出来ているのか?

 その秘密がこの右手にいつもと違う形で、全ての指に付けた指輪から、何時もよりも細くなって繋がっている地獄門の鎖のお陰なのである。


 若干お別れしたはずの厨二心がこっちを見ている気がするが気のせいだ。かっこ良く出来たとか思ってない! 思ってないからな!


 さきまでの戦いでこの鎖で神穿ちを振り回してみて気が付いたのだが、この鎖、魔力を込めただけ操ったり長さが増すようになるだけでなく。

 鎖で持ち上げる事が出来る物も流した魔力量で変わるらしい。端的に言えば、魔力さえ足りればどんなに重たい物でも理論上持てるのだ。そしてこれこそが私が切ったもう一つの手札だった。


 そう! これこそは多少不恰好ではあるが私流の強化外骨格なのだ! まあ、実験する前にオークロード来たから、どんだけ魔力使えば良いか解んなかったんだけど上手くいって良かった。うん。本当に良かったよ。


 失敗すれば自分の武器で動けなくなってそのまま死亡。と、いう情けなさ過ぎる死に方をなんとか回避出来た私は、内心一人ホッと息を吐きながら、上手くいくか解らずバクバクと抗議の声を上げる心臓をなだめる。


 そんな私は、念願のガチンコの戦いが出来る副作用無しの攻撃力を手に入れてちょっと。ほんのちょっとテンションが上がっていたのだった。ちょっとだけな。ちょっとだけ。


 さあ、いっちょやってみますか!

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