第625話ぱ……パクられた!?
ハクアの手が自身の頭に添えられたのがわかった……。
しかしその瞬間、ハクアの頭から首、肩、腕、手の神経を伝い流れ込んできたモノにミコトは驚愕した。
ナニカが来た。
その感覚が伝わった瞬間、世界がその有り様を変えた。
全てが見える。
全てが視えた。
ありとあらゆる方向から迫る闇の手、その全てが手に取るように解る。
理解出来る。
湧き上がるような全能感に、身を震わせたくなるような理外の世界がそこに広がっていた。
「ミコト、分かるか?」
「うん」
その中で、暗闇の腕を含む攻撃を避けるように光のルートが軌跡となって浮かんで視える。
自身の最高スピードに、身体を操縦しうる限界ギリギリの飛行ルート。
一目で理解出来るそれを、知らずゴクリと息をのみ行く。
初速から加速の最高スピードで飛び込み、翼を広げて勢いを殺すと同時に下降のち急上昇、回転しながら翼を畳み弾丸のように致死の包囲網を掻い潜る。
まるで曲芸のような飛行ルートに、体が千切れるような感覚を覚えながら、それでもハクアが見せた光の軌跡を辿り続ける。
「ッ!?」
だが、不意にそれが途切れ、それと同時に暗闇が波のように全面に広がりミコトを阻む。
「落ち着け。道は見えてる」
数瞬後には波に飲まれる。
そんな事を微塵も感じさせないハクアの静かな声音に、ミコトは恐怖を押さえ込み再び集中する。
そして見付けた。
今までよりも細く輝く光の道を。
だからただ行けばいい。
ただ信じ、臆することなく進めばいい。
ミコトが選んだのは加速。
翼を畳み、再び弾丸のように一つの塊となって波に突き進む。
「それで良い」
満足したような声。
それと同時に感じた衝撃と消失感。
その正体はハクアがミコトの背から飛び出したものだった。
「【鬼珠】解放。酒呑童子」
飛び出したハクアはミコトを庇うように眼前へ身を投げ出すと同時に変身すると、暴力的な真紅のオーラを撒き散らし、それを一気に拳へと集約する。
「
凶悪な笑みを浮かべ突き出した拳が暗闇の波を打つ。
激突。
その瞬間、拳を中心に集約された力が解放され一気に爆発し、ちょうどミコトがギリギリ通り抜けられる道が現れた。
「フギャ!?」
目の前に居たハクアを口で掴んで回収すると、思いもしなかった回収方法にハクアが変な叫び声を上げる。
しかしそれを無視したミコトは更に加速して一気に包囲を抜ける。
「ニャワッ!? ピャッツイ!?」
ベルフェゴールに肉薄したミコトはハクアを上に放り投げると、超至近距離からブレスを見舞うと、ミコトは余波を受けて少し焦げたハクアを再び咥えて離脱した。
「焦げたんだが!? 焦げてるんだが!?」
「大丈夫だよハクア。もう治ってるし」
「そんな問題とちゃうねん!?」
「ほらほら。来るよ」
「今私が抗議してる最中だろうがぁ!」
ベルフェゴールの一撃を怒り任せに回し蹴りで逸らすハクア。
「龍桜・
そしてそれを知っていたかのように、完璧なタイミングでミコトが追撃を加える。
「ぱ……パクられた!?」
愕然とするハクア。
それもそのはず、今見せたミコトの一撃は先程ハクアが放った紅牡丹にソックリなのだ。
元々の才能に加え、邪魔なものがなくなり、ハクアの感覚を得たミコトにとって、同じ効果をもたらす攻撃を即興で繰り出すなど造作もない。
「パクるとか今そんな場合じゃないよハクア」
「しれっと言ってるけど絶対後で話するからな色々と!? というかなんか私に対する態度が急に変わってない!?」
「パートナーになったから?」
「パートナーになったら尊厳なくなってきた件!?」
冗談のような軽口を言い合う二人だが、その動きは凄まじいの一言だ。
ベルフェゴールの攻撃を完璧に捌き、避け、迎撃し、巧みに戦闘を続けている。
これならシーナ達が応援に来るまでなんとか持たせる事が出来る。
そうミコトが考えた瞬間、突然それは訪れた。
ズキン。
頭の芯に響くような痛烈な痛み。
焼けた鉄の棒を無理矢理頭に突き立てられ、脳髄をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような激しい痛みがミコトを襲う。
「な……ん……」
「ミコト!? ちっ、リンクを切るぞ!」
体勢が崩れたミコトを即座に回収したハクアは、ミコトの顔を覗くとその原因を即座に看破した。
それはある意味で当然の事。
ハクアの視る視界。
ハクアの知覚する世界。
それらは人は当然ながら、例え龍族であったとしてもとても耐えられる情報量ではないのだ。
それに耐えるれるとしたら恐らく高位の機人か、神くらいだろうと、テア達がここに居たのならそう言うだろう。
「大丈夫か?」
「う、うん。ごめん、足引っ張って」
「いや、慣れてないのに無理させすぎた。すまん」
ミコトを抱えながらベルフェゴールの攻撃を巧みに避けるハクア。
どうやらミコトは一時的にだが身体が麻痺しているようだった。
言い知れぬ全能感。
全てを理解し、全てを視る力はやはりそれなりのリスクがあった。
それを改めて理解しながら、それを簡単にやってのけるハクアに、何度目とも知れぬ微かな恐怖と眩しい程の光をミコトは見た。
「もう大丈夫」
「良いのか?」
「うん。それより乗って」
「わかった」
攻撃の予兆を感じたミコトが、再び龍化するとハクアを背に乗せて一気に飛び上がる。
その瞬間、今までミコトたちが居た場所を呑み込む強大な暗闇の波が訪れた。
「間一髪って感じだね」
「ああ、しかし……」
「うん。どうしようか」
二人が悩むのは無理もない。
ベルフェゴールの攻撃はなんとか捌けているが、それもこのまま行けば圧倒的な力と物量に押され、呑み込まれる未来しかない。
それはシーナ達が来ても恐らく変わらない。
大元を断たなければこの状況は打破出来ないだろう。
そしてその大元とは───
「やっぱり水龍王をなんとかしないと……だよね」
「まっ、そうだな」
「ハクア! しっかり掴まって!?」
空中に逃れたミコト達を再び無数の腕が襲う。
しかしミコトはそれを飛行で華麗に避ける。
一度ハクアの感覚、見ている世界を体感した事で、ミコトの飛行技術は一足飛びに経験を得たのだ。
それを理解したハクアはこれならばと覚悟を決める。
「ミコト」
「待って今忙しいから!」
「そのままでいいよ」
「ハクア?」
「今から私がおばあちゃんを助けてくる。ミコトはそれまで一人で頑張ってくれ」
「えっ、それってどう───!?」
どういう事?
腕を避ける為に直角に急上昇しながらハクアに聞こうとした言葉は、途中でその意味を失った。
何故ならハクアが何をしようとしているのか、背中から消えたハクアの重さでミコトが理解したからだ。
トンっと軽く背を蹴ったハクアは、急上昇するミコトの背中から重力に従い落下する。
抵抗はない。
動きもない。
全く無防備に落ちるハクア。
そして当然、敵はそれを黙って見ているほど甘くはない。
落下するハクアに無数の腕が幾重にも絡み付き、黒い繭となって落下するハクア。
「ハクアー!!!」
そして黒い繭はベルフェゴールの口の中に消えていった。
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