第566話勢い余ってってマジかよ
私の目まぐるしい修行の日々が始まった。
その内容たるや、当初予定されていた修行内容はそのままに、龍神の技を探る研究時間がプラスされたのだ。
はい。結果、休憩時間が極端に減らされ───いやもう正直に言うとほぼ無くなりました。もうこれだけでも泣いていいと思う。
おばあちゃんとミコト、シフィーの三人は全てではないが龍神の技、武功をいくつか見知っている。
そのため私は、一通り三人が知っているものを全て暗記させられ、それを手掛かりにこの無数の痕跡から、一致するものを読み取り技を再現する事になった。
ここで何故三人がわざわざ知っているのに私に教えたのかという疑問が残る。
しかしそれには歴とした訳がある。
それは三人は龍神の形稽古と模擬戦でその技の形こそ知っているものの、それがどういう風に運用されるものなのかを知らないからだ。
例えばさっきのものだと、足元から大地の力を通し、身体の中で捻転させながら、身体の力と大地の力、そして自分の力を練り合わせる一撃。
その術理の方が分からない。
とはいえいくつか見知っているものは、原理こそ分からないものの、体感した経験を元にアレンジして使っている。
結果として劣化版とはなるがそれでも十分な威力が出るあたり、流石龍王と言うところだろう。
龍神との模擬戦は龍王とミコトぐらいしか経験がなく、それもあくまで稽古の一貫、本気の勝負ではないので龍神もあまり技を使わない。
そして龍神の戦う姿も、龍王達ですら数回見たことがあるかどうかなので極端に事例が少ないのだ。
まあ、龍神が本気で戦う機会なんぞあったら普通に滅びるし、龍王と龍神がこれまた本気でぶつかれば里崩壊レベルだからあったら困るけど。
そしてなのに何故私が分かるのかと言えばこれも簡単。
数日前の断罪の場。
私に見せ付けるように攻撃を加えた術式を、私は自分の解る範囲で解析した。
その結果として、至るまでの過程と結果が目の前にこうして存在すれば、ある程度はそれを読み取れるくらいは解析出来たのだ。
それならミコトや龍王達も出来るのでは? と思うだろうが、私と違い龍神に対する敬意がある他の人には、龍神の技を解析するなどという蛮行は出来ないと言われた。
……そうかぁ。敬意とかなかったから普通に解析しようとしてたよ。
しかもこれに関してはミコトも同じと言うからびっくりである。
なのでおばあちゃん達は知る限りの動きを教え、私はそれを元に痕跡から動き、術理を解析、分からない部分は皆で頭を捻りながら、ああでもないこうでもないと未解明の部分を補完する形になった。
と、言うわけで私の一日のこんな感じになっております。
日が昇ると共に起床。
朝飯の前に模擬戦と称しおばあちゃんにボコられる。
朝飯になんとか辿り着く。
鬼の力のコントロールと称してソウに切り刻まれる。
ほうほうの体で昼飯を食べる。
竜の力のコントロールと称してテアに魔法をブッパなされる。
身体を引きずりながら夕飯を平らげる。
そこから疲れ果てて寝落ちするまで、全員で龍神の修行の痕跡から武功を探る。
最初に戻る。
この繰り返しで十日が過ぎ、痕跡から解る範囲のものはあらかた全て読み取った。
「わかんのはここまでかな?」
「そうなんっすか?」
「ムーには未だにほとんどわかんないの」
「安心しろ妾にもわからん。こいつがいつも通りおかしいだけだ」
サラッと人の事ディスるの良くないよ?
ここまで調べた結果わかったのは、主にこの技は神力を使っているという事だ。
大地の力を通し、身体の力を加える。
ここまでは合っていたがどうにも威力が上がらない理由は、私がとりあえず魔力を使っていたというのが大きかった。
検証の結果、神力→霊力→竜力→マナ→魔力の順に威力が変わり、神力が1番強く、魔力が1番弱かった。
元となる力が強いほど、体内で捻転させ混ぜ合わせるのに苦労するという結果がでた。
と、いう訳で、私とミコトは主に神力で、おばあちゃん達霊力を使える組は霊力で、シーナ達は竜力を使っての再現という形に落ち着いたが、ユエだけは魔力の扱いが上手くいかずに断念した。
まあ、元々龍族……てか、鬼人用ではないので相性は最初から悪かったからしょうがない。
こうしてやっとの思いで解析を終えた私だが、決して自業自得とかではない。
今まで気が付かなかった人が悪いのである。
「じゃあ、明日からは本格的に訓練が出来るねハクちゃん」
「……え?」
本格的とは?
「今までは解析を優先していましたからね。ここからは気絶や昏倒させても大丈夫ですので思い切り出来ますね」
「待っておかしい。そんなのを前提に組まれる修行とかおかし過ぎるんだよ? いや待てや、なんでそんなに不思議そうな顔してんだよ!?」
私が待ったをかけると何故かおばあちゃんを含めた三人が、何言ってんだこいつみたいな顔で見てきた。
いや、それはこっちがやる行動だからな。
そう反論した後、皆にも同意を求めようと顔を向けたら思いっきり逸らされた。解せぬ、敵しか居ねえ。
「そもそも何するつもりなんよ。気絶&昏倒前提って怖すぎるわ」
「うん。今日まででパワーアップで狂ってた感覚は、ギリギリ及第点ちょっと下くらいになったから、明日からはとりあえず鬼の特性を引き出して行くつもりだよ」
「ん? 竜の力じゃねえの?」
「うん。そのつもりだったんだけど、先に鬼の力を安定させた方が良さそうって事になったんだよ」
「なんで急にそんな変わったのさ?」
「いやだって、鬼の力のバランスが崩れ過ぎてて、このまま放置すると【破壊】の特性でハクちゃん壊れる方が先っぽいから」
「ほうほうそりゃ大変…………壊れるとはなんぞ?」
えっ、何それ聞いてない。初耳が過ぎるんですけど。
「鬼神に渡された力が想定外に【破壊】の特性を強く発揮したようです」
「なんで!? いや、それよりも一回殴って来るからちょっと出掛けたいです!」
「無理無理」
「軽く言うなや!?」
「鬼神にとっても想定外の事です。恐らくは、龍神に力を押し込まれ、ビーストコアを取り込み、そこに鬼神の力も入った事で、どの力も安定する前に白亜さんの体に取り込まれた」
「うん」
「で、ここからは私とテアさんの推測なんだけど、鬼の力は安定化を図るよりも先に、二つの力を異物として排除するように活性化したんだと思うだよね」
「うーん。つまりは免疫みたいな働き方にシフトしたと?」
「そうそう」
「言い得て妙ですね。とにかくそのせいで【破壊】の特性を前面に押し出した鬼神の力が、勢い余って白亜さんの体も壊しそうになってるんです」
勢い余ってってマジかよ。
「まあ、深刻にならなくても鬼神の力を安定させれば大丈夫だから」
「そこが1番不安な要素なのですが?」
「大丈夫大丈夫。私も協力するからさ」
「……お前、なんかウキウキしてね?」
いつもこの手の話の時は私の反応楽しんでるが、今日はいつもより更に浮かれている感じがする。
ソウは普段私と同じで、面倒な事が嫌いで、大体一緒にサボったりするが、こいつの本質は生粋の戦闘狂の部分がある。
そんな奴が楽しそうにしているだけで嫌な予感しかしない。
「まあまあ、明日を楽しみにしようよハクちゃん」
その笑顔が何故だか嫌な予感を加速させるのだった。
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