第267話本当に油断も隙も無いな~
互いの抜刀から始まった戦闘。
打ち付け合った刀を軸に体を入れ替えながら時に斬り結び、互いの隙を探し移動しながらも刀を振るい何度となく打ち合う。
やっぱり、パワーもスピードも心さんの方が上。技術は同じ位……か。だけどハクちゃんにはアレがあるから心さんもやりにくそうだね。
ハクちゃんを相手取るには戦闘に慣れているほどやりにくい。戦闘に慣れている人間ほど戦う相手の僅かな情報から先を読むものだ。
だけどハクちゃんは目線、筋肉の動き、技の流れから間に至るまで虚実を混ぜ合わせてくる。加えて瞬きに合わせて行動したり、意識の間隙を意図的に起こしてその隙を突いてくる。しかも幾つかの動きには技の起こりが無い。いわゆる無拍子と言われる普通なら奥義とも言えるものまで簡単に使ってくる。
アレやられると本当に怖いんだよね。気が付くと攻撃が目の前にあるし。しかもそんな奥義みたいな技すらブラフに使ってくるからね。
私が考察している間にも二人の攻防は激しさを増し、次第に剣速も上がっていく。
戦いにおいて動かずにやりあうというのは実は少ない。例外も勿論あるが特にレベルの高い者同士なら、互いに動かないというのは隙を晒さずに済むが相手の隙も出来ないからだ。だからこそ自分の隙を作らない範囲で動き、相手の隙作り出しそこを突くのが常套手段だ。
しかしその均衡は長くは続かない。
心さんがギアを一段階上げ今までよりも斬撃のスピードが上がる。ハクちゃんはそれに対応する為に足を止めざるを得なくなる。
「くっ」
苦しげな声を上げるハクちゃん。
しかしそれも当然だ。アレほどのスピードなら息をする暇もない無呼吸運動だ。しかも攻めている心さんと違い、受けに回るハクちゃんの疲労と消耗は激しいだろう。
それでも斬撃の雨は止まず一層の激しさを増し降り注ぐ。
「ぷはぁっ!」
先に耐えられなくなったのはやはりハクちゃんだった。無呼吸で無理矢理動かし続けた体は酸素を求め一瞬の隙を生んでしまう。
そこを勝機と見た心さんが刀を弾きながら、その勢いをそのままに刀を上段に構えようとする。
しかしその瞬間何故か心さんがぐらついた。
「アレは糸か?」
何故? そう思う私の耳に澪ちゃんの声が届く。そして見えたのは何時の間にかハクちゃんの右足と、心さんの左足を繋いでいた極細の糸だった。
いつの間に!? 本当に油断も隙も無いなあの子!
ハクちゃんのスキルにより生み出された糸は互いの足に絡まっていた。その為ハクちゃんが足を引いた事で、一緒に繋がっていた心さん足も引っ張ったのだ。
しかし心さんも並みではない。
不意の衝撃に体勢を崩すが一瞬で持ち直し攻撃に移る。
だが、確かに一瞬だが心さんの体勢は崩れた。
そしてその一瞬があればハクちゃんが弾かれた刀を引き戻し、心さんに攻撃を加えるには十分な時間だった。
しかし、心さんもその結果をいち早く察知し、両手で構えようとしていた刀から左手を外し、そのまま最短距離でハクちゃんの目を抉りにいく。
それに気が付いたハクちゃんもなんとか首を傾げるが、避け切る事が出来ずに目頭の部分を裂かれ血が飛び散る。
だが、それだけに留めた傷の代償は大きい。
攻撃を無理矢理避けた事で体は傾ぎ、ハクちゃんの攻撃は心さんの攻撃に間に合わない。
火天の型【火山】両手で握った刀の刀身に全ての気を集中して相手に叩きつける技だ。
だが心さんも、本来なら両手で行う技を片手で放った事により十分な威力が出せていない。その証拠にハクちゃんはギリギリでなんとか耐える事が出来ている。
「くっ!」
なんとか攻撃から防御にシフトする事でギリギリだが持ち堪える。しかし片手とはいえ強力な技はハクちゃんの腕の力を確実に奪い去る。
両手でなんとか持ちこたえるハクちゃんに対し、心さんは片手で押し込みハクちゃんの上体を反らし始めている。
「ぎっ、がぁぁぁ! かふっ!」
歯を食い縛り声を上げながら押し返そうとするハクちゃん。だが、心さんのもう片方の手が拳を握りハクちゃんの腹に当てられた瞬間、拳技【剛打掌】が、何かが砕けるような音を体から響かせながら打ち抜きハクちゃんの体を宙に浮かせる。
そこから放たれるのは火天の型【火線】デコぴんの要領で放たれる横薙ぎの一撃は、弾く際に気の爆発の勢いをプラスする事で脅威的な威力を生み出す。
しかしハクちゃんも負けてはいない。
体が宙に浮くのと同時になんとか体勢を立て直すと、心さんの一撃を刀で受け流しその力を使い空中で回転する。そして、そのエネルギーを余す事なく使い全ての力を一突きに込める。
水転流【水車】相手の攻撃の勢いを使い受け流すと同時に、体を回転させ全てのエネルギーを一突きに込める。
「ハァァア!」
だが、その一撃は心さんが縦に構えた刀で逸らされギャギャリン! と金属同士が擦れる特有の音を立てながらいなされてしまう。そして、心さんは刀同士の接触面を滑るように動かしハクちゃんの顎を刀の柄で下からかち上げる。
土天の型【地割れ】攻撃をいなすと同時にそこを起点として相手へと踏み込みカウンターを狙う技だ。
その攻撃もなんとか顎を上げ首を反らす事で避けるが、心さんはその攻撃の動作のまま更に震脚で踏み込み、八極拳の鉄山靠でハクちゃんを弾き飛ばす。
「くっ、はっ!」
弾き飛ばされたハクちゃんは結界の壁に当たり、もたれ掛かるように体を支え動かない。
そんなハクちゃんに追撃を掛けようと心さんがハクちゃんに向かって走り出す……が、何故か途中で意味無く刀を振るい何かを切り裂く動作をする。
違う。また糸が張ってあったんだ。
タイミングを外された事で心さんは一旦下がり息を整えている。
優勢に事を運んでいる心さんも決して余裕という訳ではない。
それを見たハクちゃんも息を整えようとしているが息が荒く、下を向き咳き込みながら息を整える事が出来ずにいる。
「ハァハァッ! ゲホッゲホ!」
だが、ゲホゲホと咳き込み血を吐き出すハクちゃんの息が次第に整っていき、下を向いていた顔を上げるとそこには嗤みが浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます