第471話ふむ、まずは塩茹でからだな

 いやー、良いもんゲット出来た。


 自爆により完全降伏したケルベロス君。

 このままただ殺すのは勿体ないという事でワンチャンスカウトしたのだが、これがなんとすんなりスカウトが成功したのだった。


 最近孤児院や獣人達に嫌がらせする馬鹿が多かったから、ちょうど良い番犬が欲しかったんだよね。


 私の召喚獣となったケルベロス君は、怪我は治したがとりあえずゆっくりと養生して貰うことにした。


 モンスターは召喚獣になると、召喚主の創る空間に入る事が出来る。

 その空間では常に召喚主の魔力が満ちている為、怪我も治り、腹が減る事もないのだ。


 居心地がよく居座る奴もいれば、その空間が嫌いな奴もいる。そこに入ってるのかどうかは召喚獣の自由らしい。


 因みに今までウチの子らは一人も入っていない。


 しかし、仮にもダンジョン中ボスのケルベロス君をスカウト出来るか心配だった。

 だが、どうやらガダルに貰ったダンジョンコアのお陰で、私にはダンジョンマスターの権限がある程度あるらしく、本人が同意すればスカウト出来るようだ。


 まさかあの時のあれがこんな所でフラグとして回収されるとは……。


 閑話休題。


 さて、そんな私は現在地下六階に居るのだが、このフロアは昆虫パラダイスな階層だった。


 下に降りてちょっと歩いただけで、いきなり拳大の数十匹の蚊に襲われた時はマジびびったがなんとか撃退はした。

 そんな調子でいきなり襲われては敵わんと、フロア全体を感知したのだがこれがいけなかった。


 そう、私はこの時点で予想しておくべきだったのだ。歩き始めてそうそうに数十匹の蚊に襲われたという事を。


 何も考えていなかった浅はかな行動、そのおかげで千に近い虫型モンスターの情報が、一気に頭を埋めつくし、危うくパンクするところであった。


 まあ、あまりにもイラッと来たので、現在自作の超強力殺虫剤をフロア全体に充満させてる最中だ。


 そしてその作業もようやく終わったところだ。


 虫とはいえ、モンスター相手に殺虫剤が効くのかは分からなかったが、どうやらその心配はなかったようだ。

 ただ相手も一応モンスター、トドメを刺すまでには至らず半死半生の状態だ。


 さて、どうするか……。


 とどめを刺して回るのはめんどくさい。しかし放置していくには勿体ない気がする。


 うーむ……あっ、そうだ。


「来い。ノクス」


 妙案を思い付いた私は【貪食竜】のスキルを使いドラゴンコアであるノクスを呼び出す。


 ノクスとはドラゴンコアの名前だ。

 正式に私のスキルとして生まれたのに、いつまでもコア呼びではなんだなぁと思ったので付けた名前。

 ちなみに意味は夜。どこかの国の呼び方だったがどこだから忘れたけど、まあ良い感じの名前ではないだろうか。

 まあ、黒いから連想してこの名前だから、結局ツッコミ要素はあるんだけどね。


「クルゥ」


「おー、よしよし。感覚は私と繋げたからモンスターの位置はわかるな? うし。それじゃあ好きなだけ食い散らかしてこい」


「クッルルゥ〜♪」


 私の許しが出ると同時にノクスが勢い良く飛び出していく。


 あっ、行きがけに一匹食べてった。おおぅ、腹の口ががバリと開いて丸呑みですか。しかもバリボリと殻ごと噛み砕く音が遠くから……。どうやら歯は頑丈なようだ。


 モンスターの駆除をノクスに任せ、下へと続く階段へゆっくり歩いていく。

 途中何度かノクスのレベルが上がるアナウンスが聞こえ、それと共に私のドラゴンコアとの同調率も上がり継承が遂に50%になった。


 これによりノクスのレベルも同調率に関係している事が判明、奇しくもノクスの育成も大事な要素だと確認出来たのだった。


 そんなノクスは私が階段に辿り着く少し前に、何故かモンスターが残っているにも拘わらずこっちに向かって来た。


 何かあったのか?


 そう思って立ち止まると、ちょうど通路の奥からノクスがやって来るのが見えた。


「クルゥ♪」


 ほうほう。


 どうやら美味しいモンスターを発見したから私に届けに来たらしい。


 ええ子や。そしてごめん。【暴喰】さんからの派生でなんでも食べるから、正直味とか気にしてないと思ってたよ。私反省。


「おっと!?」


 遠くだと気にしなかったが近付いて来た事で気が付く。どうやらノクスはふたまわりほど大きくなっている。


 何故だろう? と、調べてみると当初称号が|稚竜【ちりゅう】だったのが、|幼竜【ようりゅう】へと変化していた。

 この短い時間に成長したようだ。


 でもそうかぁ。このレベルのダンジョンの敵にトドメ刺して回れば、レベル1のノクスは簡単に上がるよね。


 そんな風に考えていると、ノクスは顔にある方の口で咥えていた黒い虫を置くと、更に腹の方の口を開いてボトボトと同じ虫を吐き出していく。


 見た目は大変よろしくないが、溶解液……というか、唾液はオンオフが出来るみたいで付いてなかったのが幸いだ。


 全て吐き出すと、ノクスが期待に満ちた顔でこっちを見ているので頭を撫でると、嬉しそうに一鳴きしてモンスター食べ放題に戻って行った。


「さて……これかぁ」


 ノクスが届けてくれたのはなんと言うか……見た目は普通のダンゴムシだ。ただし大きさはバスケットボールより一回り大きい。

 硬そうな外殻は叩いてみると、コンコンと子気味いい音が帰ってくる。

 それが私の身長を超えるくらいに山のように積まれている。


 どうやらノクスの腹の中は、例えでもなんでもなく異次元らしい。


 見た目としてはあまり食べたいとは思わない。ただそれでもノクスがせっかく美味しかったと持ってきた物、どうにかして食べる方法を見つけたいところだ。


 どうするべきか悩んでいると、ノクスの口に咥えられていた一匹だけ、外殻が割れて中身の具……ではなくて、身が出ているのを見つける。


 引き寄せられるように近付き手に取ると、割れ目から外殻を外し身を出す。

 取り出した身は白く、プリっとした見た目はエビのように見えなくもない。


「ふむ、まずは塩茹でからだな」


 身の状態を確認すると、早速鍋を用意して茹で始める。


 中々食欲を刺激するいい匂いだ。


 茹でた姿はエビそのもの。そのまま茹で上がったものを口に運ぶと、思った以上に弾力があるが別段苦ではない。

 味は甘く、食感も悪くない。

 見た目の悪さも殻を剥がせば気にならないし、味はエビそのもので確かにこれは美味しい。


 次は一匹を殻ごと焼いてみる。


 丸ごと火にかけると次第に黒い外殻は白く変わり、その内触るだけでボロボロと崩れ落ちるまでになった。

 炭化した外殻が崩れると、そこかはブワッと香ばしい匂いが私を襲う。


 おおっ! これは期待大!


 一口食べると一気に旨味が口の中に広がる。

 茹でた時ほどの甘さは無いが、それが殻ごと焼いた事で身に付いた殻の苦味の良いアクセントになっている。


 うむ。これは大当たり食材だな。帰ったらエビフライモドキを作ろう。

 パン粉が無い為ここで作れないのが残念でならないが、後の楽しみというのも悪くない。


 小休憩を入れた私は、残りの食材をしまって再び下の階を目指す。


 その時一応ノクスには、食べ放題が終わったら適当に戻るようにだけ伝えておいた。


 まあ、待っててもいいけど一応ね。

 食事休憩を取ってるから時間掛かってるし、あんまりのんびりし過ぎてても怒られそうだからなぁ。

 しかしこのスーパーダンジョン、良い食材モンスターが揃ってて穴場だなぁ。今度食材だけ補充しに来よう。


 そんな決意と共に降りた地下七階は草原のような場所だった。


「ふむ……」


 見られてる……な。


 見られているのはわかる。だが、妙なのは敵意が全く無い事だ。


 戦意はあれども敵意は無く、好奇はあれども殺気は無い。

 遠巻きに眺め、浮かされるような、試すようなそんな静かな熱気も感じる不思議な階層だった。

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