第七章ガダル編

第311話この程度で私は屈しない。おかわり

「あ~、知らない天井だ……」


 寝起きそうそうひとボケかました私は一人、今の自分の状況を確認する。


 うん。ボケかましたのは良いけどガチで知らんな。どこだここ?


 キョロキョロと辺りを見回すもやはり見覚えはない。


 私が目覚めた場所はベッド一つしか置かれていない簡素な部屋だった。それもただの部屋ではなく石造り簡単に言えば砦の中のような部屋だ。


 そもそも私はなんでこんな所に居るんだ?


「えっと、確か……」


 私は目覚める前の記憶を必死に思い出し始める。


 あの時は確か、新しく思い付いた研究の為に必要な素材を森に取りに行ったんだよな? 

 そしたら狼っぽいモンスターに襲われて……美味しくいただいてその後、そうだ! 素材に使おうと思って探しに行った物よりももっと良い素材が落ちてたんだ!


 そうそう。んで、ラッキーって拾ったらその先にも珍しい素材が落ちててその先にも、それでヒャッハーってテンション上がってたらいきなり目の前が暗く……。


「おぉう……」


 そこまで思い出した私は思わず両手で顔を覆ってしまう。


 超古典的な罠に引っ掛かったー!!


「マジか。私マジか。自分にビックリだよ……」


 皆にはアレだ。自分でも良くわからない凄く巧妙な罠に引っ掛かったと言っておこう。てか、本当にマジか?


 いやいやいやいや。そんな訳ないよね? ほらこう……思い出せないだけでその続きがきっとある筈! よーく思い出すだ私!


「……ねぇな~」


 ですよね! わかってました! マジかよ! なんでこんな使い古されたものに今さら掛かってるんだよ私は! 今どきギャグ漫画でも引っ掛かるやつ少ないよ!

 ハッ! 待てよ。使い古されているという事はそれだけ信用値の高い罠って事、つまり私は悪くない! って、無理だよ! 例え誰かに許されたとしても私が許さねぇよ!


 ノオォォォオ。と、呻き声を上げながら何とか平静を保とうと思うもなかなか立ち直れない。


 そんな私の居る部屋の扉が開き誰かが入って来る気配を感じ、指の隙間からチラリと確認するとなんと扉から現れたのはガダルだった。


「ようやく目覚めたようだなハクア。頭を抱えて何をやっているんだ?」

「お前があんな下らない物仕掛けたせいだよ!!」

「……まあ良い。一つ言わせて貰うがあんな物に掛かる方がどうかと思うぞ。まさかこちらも一番成功する可能性の低いと思っていた物に掛かるとは思わなかった」

「冷静に言うなよ!!」


 しばらく落ち込もうとした私だが、そんな事は許されずガダルの後に続き部屋を移動する。


 造りはやっぱり砦だな? しかし見た覚えが無い所だ。


「詮索するのは勝手だが余計な真似はしない事を勧めるぞ」

「わかってるよ」


 どうせ敵わないし。何よりも前を向いてる癖に私の動きに神経を張り巡らしてる相手に何かしようとは思わん。


 しばらく歩くと少し大きめの扉の前にたどり着き中へと促される。そこには見た事の無い食材を使った豪華な料理が並んでいた。


 何事!? と、固まっていると向かい合う形で置かれていた座席の一つにガダルが座り、もう片方の椅子へ私を促す。


「なんのつもりだ。モグモグ。こんな物用意して私を懐柔しようって魂胆なら残念ながら無理だぞ。ゴクゴクップハー」

「それは席に着くなり頬張りながら言う台詞ではないな」

「ハッ! なんとでも言えば良い。この程度で私は屈しない。そしてコレおかわり! 後、肉追加! 大皿でね! これとこれは旨かったから大盛りね! 後でレシピも教えろ」

「ククッ。やはりお前は面白い」


 しかし、こんな所に連れてきた挙げ句、飯を食わせるとかなに考えてるんだ? まあ、考えてもしょうがないか。腹が減ってたから今のうちに食って体力回復しとこ。


 そのままの勢いで食べ続けた私の食事が終わると、なんと食後のデザートまで出てきた。実に至れり尽くせりである。


「それで、食い終わったら帰って良い。なんて事にはならないよね?」

「ああ、もちろんだ。お前にはまだここに居て貰う」

「狙いはなんだ?」

「始めは面白い考えをする人間だと思った。だがそれだけの存在だ。見逃したのは気紛れ、とてもではないが3ヶ月でグロスやカーチスカに勝てるとは思っていなかった」

「酷でぇ話だな。こっちは必死になってたってのに」


 ま、私も単品なら勝てなかったと思うけどね。


「だが、お前は見事にあの二人を倒し、更には暴走したマハドルまでも打倒した。それを素直に称賛しようと思ってな」

「そりゃどうも。お褒めに預り光栄です」

「お前はまだまだ強くなる。もしかしたら魔族にとって障害になるほどにな」

「ふーん。だから今のうちに私を殺そうと?」

「ふっ、それは違うな。魔族にとって強さとは価値だ。お前はそれを示した。お前と戦い殺すのも良いが、それでは少々勿体無い。これほどの者をただ快楽の為に殺すにはな」

「……つまり何が言いたい?」


 これはアレか? 勧誘か? 乗らなきゃ殺されるかな? やっぱり。でも今のところは人間裏切る必要無いんだよねー。将来的にはわからないけどモンスターだし。


「何、簡単な話だ。ハクアお前は私の子を産め」

「……はっ?」

「聞こえなかったか? 私の物となり子を孕め。そうすればより強い子供が産まれる事だろう。そうだな人間の風習に合わせるのなら私の嫁になれと言う事だ」


 理解が追い付かずストップする思考。だが、時間が経つに連れその意味が私の頭に染み込んで来る。


「はぁーーー!!!???」


 砦の中に私驚きの声が響き渡るのだった。

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