第4話 なんてこったい

「あ、あの、『魔導期』って何ですか?」



「「「は?」」」



 私の言葉に3人はポカンとして聞き返した、引っ掛かったので先に聞いておきたかったのだが、その目は明らかに「何言ってんだコイツ」と言っている。



「すみません世間知らずで…」



「あぁいや、まだ小さいし知らなくても仕方ないだろう。3000年前にこの世界が作られたのは知ってるだろうけど、世界を作った女神が力を使い果たして眠りについた後目覚めたのが500年前。それからの400年間は女神の加護によって『魔導期』と呼ばれる魔術の最盛期だったが…、今では神殿の聖女様にすら神託が降りなくなって女神の気配が遠くにある事しかわからず、魔術の素養がある者も殆ど産まれなくなって100年程経つ。だから君が魔法を使えるのは凄い事なんだ!」



「はぁ…」



 一番背の高い男性が興奮気味に語ったが、実感が無いので生返事してまう、そんな事より小さいって言われてしまった…、一体いくつだと思われているんだろう。

 いや、それより女神様の神託が降りなくなって気配が遠いのって絶対地球の覗き見に夢中になってるせいだよね!?



 確かに特にこの100年くらいは怒涛の発展で見ていて面白いだろうけど、自分の作った世界放置しちゃダメでしょ!

 混乱して生返事しか出来なかった私に対して説明してくれた男性が指で頬を掻きつつ口を開いた。



「……えーと、とりあえずお互い自己紹介しようか。冒険者パーティ『希望エスペランサ』のリーダーのリカルド、剣士だ」



 青い髪、青い目という地球ではありえない色彩の190㎝ありそうな20代半ばの美丈夫が自分の胸を親指で指して名乗った。

 次に金髪青目の185㎝程で20歳前後の涼やかなイケメンが1歩前に出た。



「僕はエリアス、見ての通り槍使いさ」



「次はあたしね、弓使いのビビアナよ。そしてこっちはホセ、大蜘蛛ビッグスパイダーに錯乱させられて居なくなったから焦ったのよ? でも大物を引っ掛けて来たみたいだから許してあげる。それにしてもいつまで獣化したままいるつもり?」



 175㎝ありそうな20代前半で赤髪緑目の美女が名乗った、この世界の顔面偏差値ってどうなってるんだろう…。

 犬が私に襲いかかって来たのは錯乱させられてたからなのか、…ん? 今獣化とか言わなかった?



「獣化…?」



「そうよ、ほらぁホセ!」



 キュウ、と可愛く鳴いたと思ったらホセと呼ばれた犬はグニャリと歪んで人型に変形した。

 驚くまい、ここは異世界だもの、人型になった犬は耳と尻尾はそのままに茶髪で緑目の精悍な褐色の肌のイケメンに変身した。

 身長は1番大きい、恐らく195㎝あると思われ、私が160㎝くらいなのでとても大きく見える。



「狼獣人のホセだ。その…、最初に襲いかかって悪かった、正気に戻してくれてありがとな。ぶつけられたのが魔法だって思ったから皆を助けて貰おうと思ってここまで案内したんだけどよ、正解だったぜ、スゲェな嬢ちゃん」



 ニカッと朗らかに笑うイケメンの笑顔が眩しい、というか、やっぱり狼だったのか…。



「えっと…、私は愛留です。島国育ちでこの辺の常識とか自分の事すらよくわかってなくて…。色々教えて貰えると嬉しいです」



 ペコリと頭を下げてから顔を上げると、目の前にホセの顔があった。

 腰を曲げて顔を覗き込んでいたから顔が凄く近くて驚きのあまり飛び退く、まるで獣化中にお腹を撫でた後のホセの動きの様に。



「ひやぁっ」



「あっはっは、おっもしれぇなお前、小さいのに1人旅なのか? 攻撃魔法使えるなら大丈夫なんだろうけどよ」



「待て待て、話は移動しながらにしよう。ここの後始末を先にしないと他の魔物達が来ないとも限らないからな」



 尻尾を振りながらキラキラと好奇心に満ちた目で色々聞きたそうにしていたホセをリカルドが止めた、さっきの探索ではここを中心に魔物達が避けていた様に見えたが戦闘が終わった今はどうなるかわからない。



「ああ、勿体ないなぁ。全部持って帰れたらいいのに…。両方共大物過ぎるから討伐証明部位の他は厳選しなきゃだね」



 エリアスがため息を吐きながら短剣で四つ腕の熊の爪を切り落としていた、ビビアナとホセは大蜘蛛の宝石の様な目玉を抉り出している。

 海外ドラマで散々グロい映像を見てきたが本物は臭い付きなせいか迫力が違う、見ていられなくて目を逸らしながら提案する。



「あの、良かったら私が全部運びましょうか?」



「え? 気持ちは嬉しいけどアイルが力持ちだとしても全部運ぶのは無理だろう?」



 エリアスと一緒に熊の爪を切り落としていたリカルドが苦笑いを浮かべた。



「大丈夫ですよ」



 触りたくなくて手を翳し、頭に浮かんだ知識の通りにすると3メートルくらいあった熊の身体が消えた。

 正確には女神様が言うところのテンプレセットのひとつ、ストレージの中に収納されたのだ。

 恐らく言語、鑑定、ストレージの3点セットがテンプレセットだと思う、実際この3つは魔法ではなくスキルなのか呪文無しで普通に使えるみたいだし。



「「………」」



 熊の爪を切り落としていた2人は消えた熊に呆然としている、私としては早く町に行って宿を確保したいのでここはスルーだ、お金が無いから出来れば住み込みの仕事でも見つかるといいな。

 とりあえず今日の分はこの魔物の運び賃として宿代を出して貰えないか帰りながら交渉しよう。



「あの大きい蜘蛛も持って帰るんですよね? ビビアナさん、ホセさん蜘蛛から降りてもらっていいですか?」



 2人に降りて貰って大蜘蛛も収納したら4人共無言になってしまった、早く町に行きたいんだけどなぁ。

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