第132話 無くした夜の記憶[宿屋 side]
宿の部屋にはちょっとした軽食を食べる事の出来るテーブルに椅子が4つ、夕食後部屋に戻ったアイルは寝る準備を済ませて上機嫌でそのテーブルにお酒を並べていた。
「おいおい、どれだけ飲むつもりだよ」
「大丈夫だよ~、色んな種類を少しずつ飲むだけだから。小さいグラスで飲めば飲み過ぎにもならないって、それに皆も飲むでしょ? 防音の魔法を部屋に掛けたから騒いでも平気だよ」
「飲まない訳が無いよね」
「そう言うこった」
「久しぶりに
そう言いながら3人共椅子に座った、氷が沢山入った容器と3つのカップ、アイルだけぐい呑みサイズのカップを自分の前に置いて酒の肴を並べた。
各々好きな酒を注いでニンマリ笑うとカップをぶつけて乾杯する。
「「「「乾杯!」」」」
「コレっていつも酒盛りの時にしか出してくれないお酒だよね、僕普段も飲みたいんだけど…」
「ダメだよ、残り少ないから味わう為のお酒としてキープしてあるの! 食事の飲み物代わりに飲むには勿体無い良いお酒だから」
「あら、コレは初めてじゃない? パリパリして美味しい…鶏の皮?」
「うん、鶏皮チップスだよ、やっと完全にパリパリにする事に成功したの! お酒のオツマミ専用だから塩気が強いけど、美味しいでしょ?」
「パリパリ過ぎてポロポロすげぇクズが落ちてくるけどな、でも美味ぇ」
「先にひと口サイズに割ってから食べればいいよ、ほら…と言いつついただき!!」
アイルは最後の1枚を割るフリしてお皿から奪い取った。
「あっ! てめッ、まだあるんだろうな!?」
「あははは、どうだったかな~?」
「アイルゥ~…、じゃあソレ寄越せ!」
「あっ、酷いっ! な~んちゃって、まだたっぷりあるもんね~、ウヒヒヒヒ。そりゃっ」
ホセに奪い取られて抗議の声を上げたが、段々ほろ酔いになっているせいか奇妙な笑い方をしつつストレージから鶏皮チップスを取り出すと、拳を振り下ろして叩き割った。
テーブルの上は綺麗にしてあるとはいえ、割れた鶏皮チップスの欠片が勢い良く飛び散る。
「あはは、アイル、女の子としてその笑い方はどうかと思うよ?」
向かいに座っているエリアスがテーブルに頬杖をついて苦笑いを浮かべた。
既に5杯目に突入していてほんのり顔が赤くなっている、アイルの秘蔵の酒もあったので飲み比べていたせいだ。
「皆はもう家族みたいなもの何だから良いじゃない、女の子はね、好きな男の前だと緊張して自然に可愛くなるから大丈夫なの!」
「緊張して…ねぇ、計算で可愛く見せてる奴も多いけどな?」
「それは好かれる為の努力でしょ! まぁ、計算してやってると同性に嫌われるけどね! 計算じゃなくても男受けが良いと嫌われるんだけどさ、ゴクゴク、ぷはぁっ、一般的な女の子らしい女の子同士に多いよれ。1人でも楽しく過ごせる人らとそういう事少ない気がする、アイル調べらけろ、あはは」
小さいカップだから大丈夫という油断から既に本来の3杯分は飲んでいるせいか、段々と声量が大きくなり、呂律も怪しくなってきた。
少しぽやんとしてビビアナを見つめるアイル、その視線は顔では無く少し下に向いている。
「アイル、眠くなってきたのかしら? もう寝る?」
「寝るならまくらがひつよう…」
吸い込まれる様にビビアナの胸元に飛び込んで頬擦りを始めるアイル、普段は防刃の皮の胸当てがあるので胸の上部しか柔らかく無いが、今はどこを触っても柔らかい。
両手でビビアナの重量感のある胸を寄せて上げると、ムィンムィンと頬を叩きつけて弾力を楽しんだ。
「お前…、よっぽどビビアナの胸が羨ましいんだな…」
「うふふ、アイルったら可愛いんだからぁ」
「うはははは、たっのし~い」
ホセが呆れた眼差しをアイルに向けるが、それに気付かず全力でビビアナの乳を堪能している。
「あははは、アイルってば楽しそうだねぇ」
「うう、やばい…。あたまがゆれて…」
頭がシェイク状態で一気に酔いが回ったアイルはフラフラとエリアスの所まで歩くと足をもつれさせて座り込んだ。
「大丈夫かい?」
エリアスに優しく頭を撫でられてコテンとエリアスの膝に頭を置くと、ムゥ、と眉根を寄せてサワサワと太腿を撫でだした。
「ア、アイル? 擽ったいんだけど?」
「カタイ…、馬にのりしゅぎ…? エリアシュは優男風味らのにいがいにきんにくあるよれぇ…(エリアスは優男風味なのに意外に筋肉あるよねぇ…)」
「優男風味…」
「「ぶふっ」」
ショックを受けた様に呟くエリアスにホセとビビアナが吹き出した。
お酒が入っているせいでいつもより笑い上戸になっているせいでもある。
その時部屋に控えめなノックの音がした、ホセがおさまらない笑いに肩を揺らしながらドアを開けるとリカルドが立っていた。
「何だ、賑やかだな、静かだったから寝ているのかと思った」
「はははっ、入れよ、静かなのはホレ」
そう言ってホセはアイルを親指で差した。
「なるほどな、しかし椅子が4脚しか無いな、ベッドに座るか…」
リカルドはドアを閉めながら納得して頷き、部屋を見回してベッドの方へ足を向けた時にアイルが声を掛けた。
「リカルドはしょこのいしゅにしゅわっていいよぉ~(リカルドはそこの椅子に座っていいよ〜)」
段々と酔いが回って呂律も足取りも怪しいアイルが自分が座っていた椅子にリカルドを座る様に促す。
そしてフラフラと近づいて来たかと思うと、向かい合わせにリカルドの膝の上に跨った。
驚いてはいるが、アイルが酔っているのはわかっているので様子を見守る3人。
リカルドの首の後ろで手を組み、潤んだ瞳でじっとリカルドを見詰める、この状態だけを見れば恋人が甘えている様にしか見えない、そしてポロリと涙がひと粒流れ落ちた。
「リカルド…、しゅてないれ…(捨てないで…)」
「え? は? な、何が? どうしたんだアイル!?」
「私達をしゅてないれ~!」
動揺するリカルドに泣きながらガシッとしがみつくアイル、ホセとビビアナはキョトンとしているが、エリアスは訳知り顔でニヤニヤと頷いている。
「なるほどね~、リカルドがこのままここに残るって言い出さないか不安だったんだよ。家族がリカルドが帰って来た事を凄く喜んでいたからね。僕も…ちょっとだけ心配にはなったかな」
「はは、安心してくれ、改めて妹に婿をとらせる様に言ってきたから。アイル、俺はまだまだ『
リカルドはまだシクシクと泣きながら首にしがみついているアイルを宥める様に優しく抱き締めて額に親愛のキスをした。
「ホレ、もう安心しただろ、いい加減離れろよ。リカルドも飲みたいだろ、そこに居たら邪魔だろうが」
ホセがアイルの両脇に手を入れ引き剥がそうとした。
「やら~ッ!(やだ〜ッ) 一緒にいるもん!! リカルドと一緒がいいもん!」
引き剥がされそうになって抵抗し、ポカポカとホセを拳で叩いて最終的に耳を鷲掴んで引っ張った。
「イテッ、コラ、暴れんなって! イテェよ、…ったく。大人しく…ぐぁッ、や、やめろアイル!!」
結局暴れ疲れたのか、酔いが回ったのか暫くしてアイルは眠ったがリカルドにしがみついたまま離れなかった為、アイルを抱き上げてベッドで添い寝状態で過ごして相談を済ませたが、結局リカルドが解放されたのは真夜中になってからだった。
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