第133話 反省はする、だが後悔はしない

「ったく、引っ張られた時は耳がちぎれるかと思ったぜ」



 パジャマのまま床に正座して俯く私にホセはベッドに座ったまま昨夜の出来事の説明とお説教を続けている。

 もう少なくとも10分は経っている、床が板だからとっくに足は痛みと痺れに襲われていた。



「ホセ、そろそろ朝食の時間だし、その辺にしてあげたら?」



 エリアスが救いの手を差し伸べてくれた、ソロリとホセを見る上げると、まだジト目で私を見下ろしている。

 きっと今嬉しそうにエリアスを見上げていたら反省の色無しという事でお説教延長コースだったに違いない。



「………はぁ。そうだな」



 諦めた様にため息を吐いてパジャマから普段着に着替えるホセ、今日は街中に居る予定だから防具は身に付けない。

 私もビビアナも部屋にいるけど、ホセは全く気にせずパンイチになって着替えを済ませた。

 全裸ですら気にしないんだからパンイチで恥じらう訳は無いですよね。



 獣人は獣化出来る種族であれば基本的に裸を見られても気にしないらしい、それが女性であっても。

 性に関して奔放というより明け透けらしく、獣人に恥じらいを求めるのはナンセンスなんだとか、というのがエリアスに教えて貰った獣人に関する知識だ。



「じゃあ先に注文しておくから、お前らも着替えたら来いよ」



 脱いだパジャマを畳んでベッドの上に置くと、ホセとエリアスは部屋から出て食堂へ向かった。

 畳んで置かれた衣類は私が洗浄魔法で綺麗にしておくという流れが出来ているので、畳むのは各自というルールにしてある。

 2人が出て行ってパタンとドアが閉まると、両手を床についてお尻を持ち上げた。



「うぉぉぉ…、あ、足が…ッ」



「うふふふ、お疲れ様。何だかアイルがお酒を飲んだ翌朝にホセのお説教がいつもの風景になってきたわね。昔はホセが説教される側だったのに、ふふっ」



 笑って着替えるビビアナを見ながら、昔お婆ちゃんに教えて貰った脹脛の真ん中辺りにある足の痺れを治めるツボを押す。

 相変わらずうらやまけしからんボディだ、正にボンキュッボン、今の私は精々ポコキュッポンくらいかな、でも順調に育って来てると思う。



 少し違和感が残る足を引きずりながら着替えを済ませると、全員分のパジャマに洗浄魔法を掛けてビビアナと共に食堂へ向かった。

 食堂へ降りるとベーコンやバターと卵が焼ける香りや挽き立てコーヒーの香りが漂っていて思わず深呼吸する。



「良い匂い…」



「丁度良い時に来たな、注文が来たところだ。早く座れよ」



 ホセに促されて席に着く、ホセ達が部屋を出て行って5分くらいしか経ってないのに早いな。

 もしかしたら朝食の時間だからドンドン作っていたのかもしれないけど。



 何気に私の分はカフェオレを注文してくれている、ありがたい。

 厚切りベーコンを咀嚼すると肉汁がジュワッと染み出してきた、その味が口内に留まってる間にパンをちぎって口に放り込む。



「むほほ、幸せ~」



 何だかここのベーコンは旨味が強い気がする、朝食にヨーグルトも付いてるしホエー豚でも育ててるのだろうか。

 朝食を美味しく頂いているとホセのジトリとした視線が突き刺さる。

 お説教されたとはいえ、それはソレ、これはコレ、反省はさっきしたので美味しく食事する時は全力で味わってナンボだろう。



「ここのベーコン凄く美味しいね、売ってるところ聞いて買って帰ろうか。3日は滞在するんでしょ? それならゆっくり買い物も出来るよね」



 敢えてニコニコしながら言うと、ホセは呆れた目を向けながら鼻息でため息を吐いた。



「アイルのその切り替えの早さは反省してるのか怪しく思えるって点では短所だけどよ、いつまでもビクビクしたり引きずってオレの事避けたりしないって点では長所と言えなくもねぇな。先に部屋に戻ってるぜ」 



 私が半分くらいしか食べ終わっていないのに、既に食べ終わったホセは私の頭をポンポンと叩いて部屋に戻って行った。



「くふふっ、ホセってばあれでも毎回叱り過ぎたかなって落ち込んだり反省したりしてるんだよ? 特に心配した時はついキツく言っちゃうからアイルに避けられるんじゃないかって気にしてるからね。すぐに普段通りに接してくれるアイルに救われてるんだと思うよ」



 明らかに面白がりながらエリアスが教えてくれた、そうか、叱る方も色々エネルギーや気遣いが必要だから大変だよね。

 やはりここは禁酒…いや、しかし皆と飲むのは楽しいしなぁ。

 覚えて無いけど、楽しかった気持ちは残ってるんだよね、覚えてるところまでは確実に楽しい訳だし。

 お酒で思い出したけど、折角だからビールも買って帰らないとね、うふふふ。



「ふふっ、また何か他の事考え出したわね、ホント、アイルってば飽きないわぁ」



 1人でニマニマし出した私の頬をビビアナが指でつついた。



「こっちはビールが主流みたいだから買って帰ろうと思っただけだよ、昨日酒屋もあったの見かけたから」



「全く…、今朝の反省した態度は何処へ行ったんだろうねぇ? そのセリフをホセが聞いたら何て言うかなぁ」



 肩を竦めつつ言うエリアスにお説教回避の為、エリアスの発案で酒屋に行く事にしてと頼み込む私だった。

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