第134話 リカルド効果

 結局酒屋へはビビアナの発案という事にしてもらった、懇願する私に対してエリアスが「どうしようかな~」と焦らすのを見かねたビビアナが言い出してくれたのだ。

 部屋に戻ってビビアナがビール買いに酒屋へ行こうと言ってくれた瞬間ホセが私にジトリとした視線を向けた。

 ここで目を逸らしたら確実にバレる、動揺を抑えつつニッコリ微笑みを浮かべるんだ私!



「ホセはエールとビールどっちが良い? ホセもビール飲むなら多めに買っておくけど」



「………どっちも捨て難いから買っておいてくれ」



「わかった、そんなに大きい街じゃないしサクッと1人で行ってくるよ」



「行くならリカルドと行けば? 領主の息子が居たら安くしてくれるかもよ? それに……アイル1人で行って大量に売ってくれるかな?」



「うぐぅ…、だけど折角家族と過ごしてるのに邪魔しちゃ悪いよね?」



 何かホセにちょっと怪しまれた気がするけど、何も言われて無いからセーフ!

 確かに酒屋で試飲しようとしたら私の分だけ出して貰えなかったり、要求したら驚かれたりする時もあるけどさ。

 最悪お使いって言えば売って貰えるはず、でも1人で大量に買ってるところを妙な輩に見られたら狙われる可能性もあるんだよね、返り討ちに出来るけど。



 だけどリカルドの実家の領地で騒ぎを起こすのも申し訳無いしなぁ、ホセと行ったらまた試飲の量減らされちゃうし、エリアスかビビアナと行くべきか。

 だけど樽買いするなら安くなる方がありがたいから、やっぱりリカルドを連れて行くべきかな。

 腕を組んで目を瞑りウンウンと唸りながら考えていたが、考えが纏まり目を開ける。



「よし、やっぱりリカルドを連れて行こう! 知り合いだとしたら樽買いすれば1割は安くなるはず!! 浮いた分でここのベーコンを仕入れようっと、オツマミにも丁度いいし、決~まり」



 宿からリカルドの家まで馬で5分くらいだったけど、歩いたら10分…私の足なら15分かな。

 これは私が歩くの遅いとかじゃなく、悔しいが単純にコンパスの差だ、だから競歩みたいに早く歩けば10分で着く。

 リカルドの実家まで歩くと庭で素振りをしているリカルドが見えた。



「お~い、リカルド~! おはよ~!」



 胸の高さまで低木が植っているのでピョイピョイと飛び跳ねながら柵の向こうへ手を振ると、リカルドが気付いてくれた。

 ガブリエルの屋敷みたいに庭がだだっ広くないからすぐに気付けた様で、芝生を踏みしめながら此方へ向かって歩いて来てくれた。



「おはようアイル、1人か? 他の皆は二日酔いで寝てる…とか?」



「ううん、皆起きてるよ。昨日は絡んだみたいでごめんね、ホセに朝からお説教されたよ」



 今朝の事を思い出してショボンと俯く。



「ははは、またか。あのホセが説教係だなんて昔は考えられなかったのにな」



「あ、ビビアナもそれ言ってた。前はホセが説教される側だったのにって」



「そういや前はしょっちゅうビビアナに叱られていた気がするな…、それより1人でここに来るなんてどうしたんだ? 皆が呼んでるとか?」



「ううん、一緒に酒屋に買い物行こうと思って。こっちのビールを仕入れておこうって…ビビアナがね!」



「………ククッ、ビビアナがねぇ…? わかった、ちょっと待っててくれ」



 見透かした様に笑って邸内に入って行った、ホセみたいに怒らないから正直に言っても良かったけど、昨夜絡んだみたいだからちょっと言いづらかったのだ。

 暫くするとラフな貴公子風の服装をしたリカルドが戻って来た、家に置いてあった服なのだろう。



 ちなみに私はウルスカの街中で普段着ているシンプルなワンピースだ、もしもの為に短いスパッツみたいな見せパン履いてるけど。

 街中方面へ歩き出そうとしたら家の中からこちらを見ているリカルドのお母さんが見えたので会釈しておいた、凄くニコニコして優しそうなお母さんだ。



「そういえば昨日ちゃんとご家族に楽しく冒険者してるって伝えられた?」



 リカルドの袖をクイクイと引っ張り聞くと、どうやら皆にも昨夜同じ事を聞かれたらしく苦笑いを浮かべた。

 道中リカルドは1人で歩くより少しゆっくり、私はいつもより少し早足で歩く。

 森の中だと普通に歩きにくいせいか足並みは揃うけど、街中を歩く時はそうやって歩くのがお決まりになっていた。



「リカルドはやっぱり故郷のビールは多めに欲しいよね?」



「そうだな、やっぱり最初に覚えた酒の味だからか時々飲みたくはなる…かな」



「じゃあ店に迷惑が掛からない量を買える分だけ買っちゃおう! 公爵家から貰った上乗せ分で結構儲かったし、余裕あるもんね」



 酒屋に到着すると店主がリカルドを見て驚きの声を上げた。



「リ、リカルド坊ちゃん!? 戻って来たというのは本当だったんですね!」



「ぷふっ」



「コラ。坊ちゃんはやめてくれ、仲間達に笑われるからな。仲間と一緒にちょっとだけ里帰りしただけだ」



「はは、つい、すみませんリカルド様」



 つい吹き出してしまい、リカルドに拳の柔らかいところで頭を軽く叩かれた。

 坊ちゃん時代のリカルドを知っている人達はやはり坊ちゃんと呼んでしまうのだろう。

 少し拗ねた様に言うリカルドに店主は顔を綻ばせながら謝った、リカルドは街の人達にも愛されてる様だ。



 リカルドを連れて来た効果は抜群で、樽買いすると言ったら何と2割引きで売ってくれ、当然その後肉屋にもリカルドを連れて行ってベーコンも割引きして貰う事に成功した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る