第207話 セゴニア王都出発

 ガブリエルがセゴニア王と謁見した後、昼食を済ませた私達は謹慎中の殿下以外の王族に見送られて王宮を後にした。

 私達は馬車で、パルテナからの使者団の馬は全て要塞都市エスポナから連れて来たので当然乗って帰るが、まだ疲れている様で無理はさせられない。



 そんな状態でエドが私に一緒に乗って行こうと言って来たが、2人分の負荷を掛けるのは馬が可哀想なので断った。

 するとエドはビビアナに的を絞ってセシリオと並んで移動出来るから馬と馬車を代わろうと提案した。



 二つ返事で了承するビビアナ、デスヨネー。

 ちなみに私達が乗っている馬車は王族お忍び用の一見その辺の辻馬車の様な見た目だが、しっかりとサスペンション搭載の最高級の造りの物を許可証と合わせて褒美として貰ったものだ。

 褒美として貰った馬車だが、ウルスカに帰ったら馬は貸し馬屋に預ける事になるだろう。



 ロイヤル用の馬車の乗り心地が良いのでスライムシートはガブリエルに回収を頼んで護衛騎士達に貸して(凄く感動してた)、二頭立ての馬車で王都を出た。

 私達の目的地であるタイチの居るコルバドの交易都市はセゴニア王都とカタヘルナとは正三角形の位置にある。



 そんな訳で街道の途中でガブリエルとはお別れ、早く来る様にとしつこいくらいに言い残して護衛の騎士達とパルテナへと戻って行った。

 但し、お目付け役という名目でセシリオだけ同行する事になり、ビビアナは上機嫌で歓迎した。



 ビビアナは元気だねぇ、昨夜遮音魔法をベッドに掛けて、朝はクリーニングサービスを頼まれたのでナニがあったかはお察しである。

 御者は現在エリアスが担当してくれてるから6人乗りの馬車の中には4人だけなので凄くゆったりしている、身体だけは。



 空気…っ、空気が重い!

 正確には私に構い過ぎる程構うエドにホセが鋭い視線を向けているのだ。

 正直私も口説き文句だか美辞麗句の嵐に晒されているのは辛い、何とかエドを黙らせられないものか…。



「エド、昨日までずっと馬で走り続けて来たんでしょ? 私に構わずゆっくり休んだら? この馬車広いから横になっても大丈夫だし」



「ははは、そんなのアイルに会ったら疲れなんて吹き飛んだよ。アイルが膝枕してくれると言うのなら喜んで横になるけどね」



「いいよ」



「「「え?」」」



 私が了承するとは思わなかったのか男性3人の声がハモった。

 考えてみて欲しい、お尻がムズムズする様な誉め殺しが続く中不機嫌なホセと呆れた様なリカルドの視線に晒され続けるのと、膝を貸して静かに過ごすのでは後者の方が良い。



「どうぞ」



 自分の膝をポンポンと叩いて促すと満面の笑みで仰向けに寝転がるエド、そして下から突き刺さる視線。

 下からのアングルで顔を見られたい女性は居ないだろう、私もそうなのでそっと掌でエドの目を覆った。



「お前…あの迎えに来た王子達にもそんな事したんじゃないだろうな」



 ホセがジト目で見て来たが、そんな事はしていない。



「する訳無いよ、今はエドが疲れてると思ったからだもん」



 あと誉め殺し防止策、と心の中で続けた。

 ちょっとエドの口元がニヤけているのがちょっと気持ち悪い、いっそ顔に布でも掛けておいた方が良いだろうか。

 エドの視線から逃れてそっと息を吐き、これからのルートを話し合った。



「一応ギルドで街道の地図は書き写して来たが大体1日に2つ村や町を通過する事になりそうだな、王都に続く主要な街道なだけあって街道沿いは栄えてる様だ。タイチの住んでる交易都市に到着するのは明後日だろうな、比較的セゴニアに近くて良かった」



 リカルドがリュックから地図を取り出して説明してくれた、ほぼ等間隔に村や町の名前が書いてある。

 地図を覗き込んでいたらエドが自分の目の上にある私の中指と薬指をパカっと開いて片目を覗かせた。



「その村や町の位置は馬車で朝や昼に出発した時に夕方立ち寄れる様になっているんだ、だから1日に2箇所通過するんだよ」



「へぇ~、なるほど、考えられてるんだね」



 感心してたらエドはそれだけ言って私の手を握る様にして指を閉じさせると、再び大人しくなった。

 暫くは3人で予定を話し合っていたが、心地いい馬車の揺れにいつの間にか眠っていた。

 馬車が止まってふと目を覚ますと隣にホセが座っていて、どうやら枕代わりに肩を貸してくれていた様だ。

 


「あ…、ごめんね、寝ちゃってた」



「ん、馬達を休憩させるってよ。ここを出発したらあとは今日泊まる町まで行くからな。………お前、立てるか?」



「へ? そりゃ立てるよ」



 ニヤニヤしながら言うホセに首を傾げながら答える。

 その時膝の上のエドが身動みじろぎし、そして気付いた、足の感覚が無いという事に。



「アイルのお陰でとても身体が楽になったよ、ありがとう」



 馬車が止まったのでエドが身体を起こした、休憩という事は恐らく出発してから2、3時間経ったという事、その間ずっと膝枕してたから私よりずっと体格の良いエドの頭が乗っていたって事で…。



 今はまだ感覚が無い、この麻痺が切れた瞬間襲い来る痺れを予想してタラリと汗が顳顬を伝った。

 恐る恐る隣のホセを見るとニンマリと笑って指を1本立てて構えている、完全に痺れが襲って来たら弄る気満々だ。



「や、やめて…」



 怯えつつプルプルと首を振る。



「ん~? 何がだ?」



「その顔…絶対足を触る気でしょ! ダメだからね!? 本気で怒るんだから! エド助けて! ホセが私を虐める気だよ!」



 麻痺して立てないのでエドの腕に縋り付くと、エドが私の肩に手を置く。



「大丈夫だよ、私がそんな事させないからね」



 ニッコリ微笑んだエドは私をお姫様抱っこした、つまりエドが起き上がって1分程してからのだ。



「にぎゃあぁぁ!! あ゛あ゛あ゛あ゛」



 ホセから遠ざけようと馬車から飛び出したエドが歩く度にダイレクトに振動が伝わり、結局私は悲鳴を上げる事になった。

 それを見てホセは大爆笑し、リカルドも苦笑い、いきなり悲鳴を上げた私にエドは驚いていた。



 どうやらエドは拷問に耐える訓練のせいで感覚が麻痺し、まさか足の痺れくらいで悲鳴を上げるとは思わなかったらしい。

 そして正常化の魔法を使えば1発で問題解決するという事に私が気付いたのは、完全に痺れが無くなってからだった。

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