第206話 迎えの使者

 研究所からの帰り道、王宮の門に到着して確認作業の後馬車が再び走り始めると、後方がいきなり騒がしくなった。

 何事かと後方のドアの窓から覗くと、ここに居るはずの無い人物と目が合う。

 その人物は門番の制止を振り切り馬で追いかけて来ると、馬車のステップに飛び移りドアを開けた。



「アイル! 王宮に連れて行かれたと聞いて迎えに来たよ!」



 感情が振り切れている状態のエドが乗り込んで来て私をギュッと抱き締めている、それを理解するのに数秒掛かった。

 エドの肩越しにガブリエルらしき人と…、チラリとビビアナを見ると開いたドアから見えた人物に目を輝かせている。



 馬車はエドが乗り捨てた(?)馬が横を通った時点で安全の為に停止しているので門から50m程しか離れて無い、私はエドの背中をポンポンと叩いて落ち着かせると皆で馬車を降りた。



「心配して迎えに来てくれたんだね、ありがとう。だけどパルテナから使者が来るって聞いて待ってただけで拘束はされてないから安心して」



「アイルなら大丈夫だとは思ったけれど、アイルの優しさにつけ込んで引き留めるくらいはするだろうと心配していたんだ」



 さりげなくガブリエル達の居る門へと向かいながら私の腰に手を回してエスコートするエド。

 いやもう自然過ぎてまるでそれが当たり前みたいに受け入れちゃってたけど…エド凄いな!?



 エドを追いかけて門番がこっちに向かって来ていたが、私達と一緒に戻って来たので安心した様だ。

 よく見るとガブリエルが悔しそうにこっちを見ながらもちゃんと門で手続きを行なっていた。



 そして一緒にいるのは護衛の騎士達で、その中にはセシリオが居てビビアナと視線で会話している。

 他の騎士達も見覚えがあるので少しでも繋がりのある人達ばかりを選んだのだろう、パルテナ王の必死さが窺える。



 事前に連絡をしてあったのか、手続きを済ませるとすんなりとガブリエル達も王宮内に通された。

 エドが私から離れようとしないので一緒にエド達が使う客間まで行ってからサロンで話をする事にした。



 王宮内を移動中、2人くらいすれ違った侍従や騎士がエドを見て「シルバさ…んッ」と自分の口を押さえていたけど、そっくりさんでもいるのだろうか。

 そうエドに言ったら「知り合いにでも似ていたんだろう」と笑っていた。



 部屋に荷物を置いて旅装を解いたガブリエル達とサロンで情報交換をすると、今回謁見するのは唯一の貴族であるガブリエルだけとの事。

 本当は来たく無かったけど、私という友人をセゴニアに取られたく無かったそうだ。

 ハニエルとアリエルの2人とは知り合いなので、ガブリエルより私と仲良くなられるのは悔しいらしい。



 実際大氾濫スタンピードに参加出来なかったから自分だけ戦友になり損ねたとブツブツ言っているくらいだ。

 セゴニアに来る事になった経緯も教えてくれた、パルテナ王が使者を出す決断の前にエドが許可を取る様に言ったお陰で数日早く出発出来たとか、エドも馬を替えながら最低限の休憩でガブリエルの移動に間に合わせたとか。



 それにセシリオもガブリエルが使者としてセゴニアに行くのに『希望エスペランサ』を知っている騎士の護衛を募集したら真っ先に立候補したとか。

 ビビアナの隣にセシリオが座っているが、恐らくテーブルの下で手を繋いでいると見た。



「とりあえず今日は休んで明日謁見する事になってるんだ。謁見が済んだら一緒にウルスカに帰ろう……と、言いたいところだけど、陛下が改めて公表するから王都に来て欲しいんだって。許可証があるから拒否は出来るけど、面倒事は纏めて終わらせておいた方が良いと思うんだ」



「そうだねぇ、ウルスカに戻ってからより要塞都市エスポナ経由でそのまま王都へ行った方が楽だもんね。だけど先にコルバドで買い物したいなぁ」



 リーダーの判断を仰ぐ為にリカルドに視線を向ける。



「そうだな、タイチに連絡して欲しい物を先に揃えておいて貰えば滞在も短くて済むだろう。パルテナ王都に行ってからまたこっちに来るより先にコルバドに行った方が効率的だしな。ガブリエルには申し訳無いがパルテナ王に使先に伝えて貰えると助かる」



「え…っ」



「私は同行人であって正式な使者では無いから護衛を兼ねてアイル達と一緒に行くよ」



 リカルドの言葉にショックを受けて言葉を詰まらせるガブリエルに、エドが追い討ちを掛けた。

 すっかりいじけてしまったガブリエルを復活させるべく考えを巡らせる。



「頑張ってくれたガブリエルにはウルスカに帰ったらまだ商業ギルドに登録してない研究中の豚骨ラーメンの完成品が出来たら1番にご馳走するから! ねっ!?」



「いちばんに…」



「それ研究してんのバレリオんぐッ」



「シッ、余計な事言わない!」



 余計な事を言おうとしたホセの口を、咄嗟にエリアスが塞いで小声で注意してくれた。



「凄く美味しいけど、手間と時間が掛かるからまだ完成してないんだ。味が違うのは完成してるけど、私が1番好きな味だからそっちは拘りたくて…、それじゃダメ?」



「アイルが1番好きな味…」



「そう、ガブリエルも気に入ってくれると良いな~」



「わかった…」



 納得してガブリエルはコクリと頷いてくれた。

 尚、エド以外がジト目で私を見ていた事には気付かなかった事にする。

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