第205話 賢者研究所

 セゴニア王宮に来てから5日が過ぎた、本来なら6日目の今日王宮から出て行く予定だったのだが、パルテナからガブリエルが使者として来るので使者が帰る日まで是非滞在して欲しいと言われて滞在延長中だ。



 私としては許可証を手に入れた事だし早く王宮を出て街中ブラついたり買い物して遊びたいところだけど。

 とりあえず今日は約束していた賢者の研究所に赴く事になっている。

 前回一緒に話を聞いて興味を持ったリカルドが張り切って一緒に行くと言ったら、リカルドがこんなに積極的になるのは珍しいと他の皆も興味を持ったので『希望エスペランサ』全員で行く事になった。



 研究所に行くと、ウルスカの家くらいのサイズの建物に100人くらい集まっていた、物凄い歓迎の圧に引く私達。

 ここは普段は入れ替わりで10~20人で使ってるというほぼ資料館扱いらしい。

 殆どの人は仕事は別にあって趣味で研究しているので正に賢者オタクの集まりなのだ。



「よく来て下さいました! アイル様に是非とも見て欲しい物があるんですよ! ささ、こちらへどうぞ! お連れの皆様も!」



 お茶とほぼ同時に出されたのは日本語の文章が書いてあるクシャクシャになった数枚の紙。



「賢者サブローが書いたと言われる物で、宿屋のゴミ箱に捨てられていた物を回収して保管した物だそうです。アイル様なら読めますよね!? 長年研究してもさっぱり解らなくて…」



「いやぁ…、なんとなくは解るんですが…」



「何でだよ? お前読み書き出来ねぇのか? 本とか読んでたよな?」



 顔を引き攣らせる私にホセが言った、周りの研究者達も同じ事が聞きたかったのか視線が集まる。



「ここに書かれてるのが旧仮名遣いっていうか、私が産まれた時には使われて無い文字がたくさん使われてるの。古い文字で有名なのは知ってるけど全部は無理だね、今でも使われている文字なら解るけど」



「ははぁ…、古文書を読み解くのと同じなんですね」



 先日王宮に来た所長さんが顎を摩りながら頷いた。



「そういう事です、ただ内容は恋文の下書きの様ですけどね」



 文字自体は綺麗なんだけど、ひらがなが繋がってたりお店の看板でも見た事無い様な古い漢字みたいな多分ひらがなという文字はお手上げだ。

 だけど「君を想ふ」とか「美しさ」とかそういう事が全部の紙にに書いてあって、隅っこに「コヒシイ」という落書きや文章が途中で途切れていたりクシャクシャにしてあったところを見ると恋文としか思えない。



「おおっ、では妻の誰かに送った物の下書きという事ですな! これは新たな発見です!」



 もしかしたら日本の奥さんに送りたくても送れなかった物かもしれないけど、研究所員達と盛り上がっているところに水を差すのはどうかと思って黙っておいた。

 だって「コヒシイ」は「恋しい」だもん、日本語で書いてあるし、届かないとわかってても綴りたくなったんだろうなぁ。



 ちょっとしんみりしていたら隣に座っていたリカルドに頭を撫でられた、どうやら顔に出ていた様だ。

 そしてその後も怒涛の質問攻めに対応した、どうやら1人1問の縛りがあったらしく、合計100問で終了した。

 所長さんは会話の中に質問を混ぜ込んでいたのでもう少し答えたが、その様子を他の研究所員はじっとりした目で見ていた。



「はぁ~、本日はありがとうごさいました。お陰でこれまでよりグッと資料を充実させる事が出来ましたよ! それにしても三賢者の方々はお互いの国の事を殆ど知らなかったと言われていたのに、アイル様はアドルフ様やソフィア様の国にも精通しておられて感服致しました」



「あはは…、通信魔道具の様な物が凄く発達してましたからね、友人が旅行に行った時の話を聞かせてくれたりしましたし」



 ネット社会になる前は比べちゃいけないくらい情弱だったもんね、賢者サブローの時代なんて海外からしたら黄金の国ジパングとかサムライの国って思われてたんじゃないかな。

 名残りを惜しむ研究所員達と別れて王宮へ向かう馬車に乗り込んだ。



「アイルの居た世界の話をここまで聞いたの初めてだけど、凄く面白かったよ。今日はついて来てよかった」



「そうね、便利な魔道具みたいなのが沢山あるのねぇ…、こっちで作れば凄く稼げるんじゃないかしら?」



「そうだねぇ、あったら良いなと思うものは多いけど、物が豊かになると逆に心が貧しくなっていく気がするからなぁ。『古き良き時代』なんて言葉もあるからね」



 実際先進国に比べて発達してない国の方が自殺者がうんと少ないみたいだし。

 そういう事を踏まえると一気に発展する様な知識は伝えない方が良いと思う、まずは昭和のプロポーズする時の三種の神器からかな?



 えっと、冷蔵庫はもうあるでしょ、あと洗濯機と…なんだけっけ?

 あ、車だったかも、でも車は魔物が居るから無理だな、壊れた瞬間立ち往生して死に直結しそう。

 そもそも車はもう少し後だった様な…、あ、テレビか! テレビもテレビ局から始めなきゃだから無理だなぁ。



「何難しい顔してんだよ、そんなに真面目に考えなくても良いだろ、どうせならお前が酔っ払わねぇ様なモンとか無かったのか?」



「ふふっ、残念ながらそんなのは無かったよ。あっても使わないけどね! お酒なんて酔う為に飲むんだから」



 考え込んでいたらホセが見当違いの事を言って来た、そんなモノがあっても自分の意思でお酒を飲もうという人が使うワケ無いよね!

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