第204話 商業ギルドと契約

「ではアイル様の取り分は本当に無くて良いのですか?」



「はい、今後食文化が発展するかどうかが掛かっていますから。登録するのはこのレシピを勝手に登録して暴利を貪れない様にする為だけなので、ギルドの方でも最低限の手数料にして欲しいのです。そうすれば地域毎に特産を生かした派生料理も増えて経済が活性化するでしょう」



「そこまでお考えとは…、ではこの契約で如何でしょうか、ご確認下さい」



 今日はエリアスと一緒に商業ギルドの人達と面会している。

 渡された書類に目を通して不備や変なところが無いか確認、ギルドの手数料の相場がわからないから微妙なのでエリアスに渡す。



「手数料ってこれが最安値ですか? 自分で言うのも何ですがかなりの人数が複数のレシピを求める事が予想されるのでそれだけで莫大な利益を産むのですから必ず最低限手数料、尚且つ閲覧制限無しでお願いします。寧ろ最初は全部のレシピ貼り付けた部屋を作って全レシピという事で割安手数料を設定して、それをその部屋の入室料という扱いにするとか…」



「最低料金より安く閲覧出来る様にするのですか…!?」



 商業ギルドの職員が驚く、纏めて割引きは基本でしょうに、そういう概念あったよね?

 だって市場で買い物してる時とか屋台で多めに買ったらいつもオマケして貰ってたもん。

 私が話している間にエリアスが書類を確認し終わった。



「う~ん、確か最低料金ってこれより低かったと思うんだけどなぁ? 本当にコレが最低料金?」



 ニッコリと微笑黒い笑みを浮かべたエリアスにギルド職員がたじろいだ。



「さ、最低ランクの料金に設定しておりますが…」



「へぇ…ランクねぇ? 1番低い設定でって言う賢者様の意に沿っている…と?」



 おおぅ、ギルド職員の眼球が揺れまくってる!!

 何でそんな料金設定知ってるのとかツッコミたいけど、とりあえずとても頼りになります!



「折角の賢者様のレシピの価値が下がらない様にと最低ランクの中の1番上の設定にしたのですが…」



 エリアスが怖いのか私に縋る様な目を向けて来るギルド職員、しかし私もエリアスを見習った笑みを浮かべてやった。



「最低ランクの1番低い料金でお願いしますね? すぐに書き直して下さい」



「はい…、今すぐ訂正致します…」



 ガクリと肩を落とした職員は鞄から紙と筆記用具を取り出して書き直し始めた。

 やっぱりエリアスに一緒に居て貰って正解だったなぁ、持つべきものは頼りになる仲間だね!

 無事に作り直した契約書にサインして昨夜書き出したレシピを渡した。



 ふふふ…、コレで食堂で食べる時でも唐揚げとか美味しいマヨネーズとか食べられる様になるね、って事は山の様に大量の唐揚げを夏に暑い思いして作らなくても食べられる様になるって事…!

 おばあちゃんも夏の揚げ物は暑いしキッチンが油で汚れるからと嫌がってたなぁ。



 そして登録完了したところで厨房から料理人が来てギルドに手数料を払ってレシピを閲覧して書き写した。

 その後は私も厨房へ行って試作係と共に調理。

 レシピには書いてないけど唐揚げは全部混ぜた調味料に漬け込むより、先にお酒だけ揉み込んだ方がジューシィになるとか、温度を変えて二度揚げした方が良いとかちょっとしたポイントを教えつつ結局暑い思いをして調理した。



 ちなみに護衛というより殿下避け(?)としてエリアスはずっと一緒に居てくれた。

 出来上がった料理の味見をしてくれてたけど、それが目的ではないと信じたい。



 王宮には魔導期時代の時間停止のマジックバッグがあるので作った物の一部は王族の晩餐に出されるらしくそちらへ収納されていった。

 まぁ、私も指導料として出来上がった物の一部はストレージに収納したのだが。



 後は料理人全員に基本の味を覚えさせる為に試食してもらった。

 そしてニンニク無しや塩唐揚げなど色々アレンジ出来る事を伝えてその日のお料理教室は終わった。

 私とエリアスは厨房を出て与えられた客室へと向かう。



 残り3日間で今回書いたレシピの分は試作出来るだろう。

 明日はマヨネーズ作るって言ってたからそっと自前の材料出して持って帰る分も作ってもらっちゃおう、ウヒヒヒヒ。



「アイル? 女の子としてヤバい顔してるよ?」



 悪だくみと言う程ではないがズルい事を考えていたらエリアスにツッコまれてしまった。



「ダメだよ、そこはアイルはいつも可愛いねって言ってくれなきゃ」



 唇を尖らせて抗議する。



「アイルはいつも可愛いね(棒読み)」



「…………」



「あれ? 折角言ってあげたのに何も反応してくれないの?」



 ニコニコと完全に面白がってる顔だ。



「全然心が籠ってないもん、よくそれで女の人引っ掛けられるよねぇ」



「そりゃあその時はを言ってるからねぇ」



「じゃあ私の事可愛いって全く思って無いって事だよね!? もうっ、もうっ」



 余りにも失礼な物言いにプリプリ怒りながらエリアスの脇腹にポスポスと軽く拳を叩き込む。



「あははは、だってアイルは可愛いっていうか面白いの方が先に来るんだもん。でもちゃんと可愛い面白いって思ってるよ?」



「何か普通の可愛いとニュアンスが違う気がする…」



 ジトリとした目を向けたが、エリアスはニッコリ微笑んだだけだった。

 これ以上追求しても不毛だ…、代わりに私はふと思い出した事を聞いた。



「そういえばエリアスってばよく商業ギルドの最低手数料なんて知ってたね?」



「ああ、昔ちょっと付き合ってた人が食堂の娘さんでね、デートの時に愚痴で聞いた額と違うなぁって思ったんだ」



 エリアスが物知りな理由が垣間見えた瞬間だった。

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