第208話 御者の練習
『えっ!? じゃあコルバドに向かって来てるって事!?』
「うん、だからお勧めの宿屋確保しておいて欲しいんだ、このまま順調に行けば明後日に到着する予定なの」
『そんな水臭い、ウチに泊まればいいわよ! それにしても…そっかぁ、賢者って公表されちゃったのね~。まぁいいわ、逆に4人目の賢者公認って事アピールしてドンドン売り出すから!』
「あはは…、ありがと、『
「だったら私もアイルと同室が良いなぁ」
『今の誰!? アイルも恋人が出来たの!?』
『なにぃっ!? アイルに恋人だと!? 俺が見極めてやる、妙な奴なら認めないからな!!』
月に1度のアデラとの定期連絡はまだ先だったけど、交易都市だから良い宿屋は埋まってしまうと思って先に確保しておいて貰おうと連絡していたら横からエドが口を出したせいで騒がしくなってしまった。
タイチはまだ私の父親気取りをしたいのだろうか。
「タイチ、違うから」
「ふふ、恋人だったら嬉しいけどね、私はエドガルド、残念ながらあくまでアイルの下僕なんだよ」
「ちょ…っ、誤解される様な事言わないで!」
『やだ、アイルったらやるぅ~!』
「ちーがーうー!」
『はいはい、わかったわかった! とりあえず7人分の部屋は商談に来る人達用の宿泊施設もあるから準備しておくわ。白だしの試作品はいくつか出来てるから確認もして欲しいし、良いタイミングだわ。
「本当にわかったの~? じゃあ交易都市が見えてから連絡するね、もし到着日が変わりそうならその時も連絡するよ。それじゃ明後日に」
『ええ、待ってるわ。それじゃあね』
一見押してオンオフ出来る安い置き型ライトの様な形をした簡易通信魔道具から光が消えた。
これで寝る場所には困らなくなったので一安心。
「アイル、その魔道具は通信相手から貰ったのかい?」
エドが通信魔道具を指差して言った。
「うん、商品開発の為に月に1回くらい連絡取り合ってるの」
「ふぅん、その魔道具はかなり高額な筈だけど、通信相手は余程儲かってるみたいだね」
「あ~…、うん、後ろで騒いでた男の人は賢者サブローの子孫だしね。異世界の調味料とか取り扱ってるからサブロー人気のお陰でかなり大きな商会みたい。……そういえばエドの商会も大きいよね? 通信魔道具は持って無いの?」
「ああ、そういえば急いでいたからトレラーガの執務室に置きっぱなしにしてきてしまったな、ははは。……持って来てたら早く帰って来て欲しいとしか言わないだろうし(ボソ)」
「ええ~? 連絡取れなくて困ったりしない?」
「大丈夫だよ、優秀な部下達が居るからね。全て思う通りにして良いと言って来てるし。それよりそろそろ出発するんじゃないかな? ここからは私が御者をしよう、アイルも御者の仕方を覚えたいと言っていただろう? 私が教えるよ」
「本当!? ありがとう!」
昼食後の食休み中に連絡をしていたのでそろそろ出発の時間だ、何気に『希望』の皆は全員御者の真似事が出来る事が発覚し、昨日馬車の中でポロっと言った事をエドは覚えていてくれた様だ。
午前中御者をしていたリカルドに
ちなみにサスペンションは付いててもクッション性の無い御者席にはスライムシート完備である。
そして男性陣3人が馬車に乗り込み私とエドは御者席に座った、そして私はエドの足の間に座っている。
正確には真ん中に座る様に促されて座ったら、エドが私の後ろに座ったのだ。
哀しい事に私が前に座ってもエドの視界の邪魔にはっていない。
「あ、あの、エド…? 隣に座らないの?」
「ははは、隣に座るよりこの方が左右の力の入れ具合が教えやすいからね」
そう言われたら何も言えない。
背中に触れているエドの身体から凄く早い鼓動が伝わって来る、本当に私相手にドキドキしているんだと思うとちょっと絆されそうになって心の中で目を覚ませと自分を殴りつけた。
だけどバックハグ状態で手取り足取り教えてもらうこのシチュエーションは乙女心を持つ人なら漏れなくときめくと思うの。(但し好みの範囲に居る人に限る)
料理とか作業する時にバックハグ状態で袖まくって貰うのとかトキメキ定番だもんね。
それもさりげなく匂いを嗅がれるまでの短い間の心の揺らぎだったけど。
そして手綱を持って練習し始めたらそんな事を考える余裕も無くなった、二頭立てだから一頭より難しくてなかなか真っ直ぐ走ってくれない。
「おいおい、大丈夫か? 街道から外れんなよ~」
蛇行する様に走ってしまうせいで車内からホセの野次が飛んだ、くそぅ。
セシリオとビビアナも馬車から少し距離を取っているくらいだ。
「アイル、自信無さそうにするから馬達に舐められてるんだよ、馬を私だと思って御してごらん」
「へ? エドと思って…?」
思わずエドの顔を見上げたら、ニッコリと爽やかな笑顔が向けられた。
あんた達、言う事を聞きなさい! そんな気持ちでちょっとキツめの手綱捌きにしたら意外にもすんなりと御せる様になった。
「そうそう、それで良いんだよ。恐る恐るの曖昧な手綱捌きでは馬も迷ってしまうからね」
何故か興奮気味に褒めてくれるエド、妙にメンタルが削れた気がするけれど、宿泊する町に到着する頃には私は何とか御者の極意を習得出来た様だ。
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