第209話 交易都市モステレス到着
「お、おい、アレ迎えじゃねぇか!?」
御者をしていたホセの少し焦った様な声が聞こえた。
目的地であるタイチ達の住むモステレスが小高い丘を越えた時に見えたので既にアデラには連絡済みだし、お迎えが来ていても不思議では無い。
御者との会話用に前方に付いているスライド式の小窓を開けて覗くと、ホセが焦った理由がわかった。
多いのだ、黒山の人集りなんて
30人くらいだろうか、てっきりアデラとタイチの2人だけで出迎えてくれるとおもったのに一族でのお迎えかもしれない。
ホセが手を振るとタイチらしき人が手を振り返している。
門前はなかなかの行列だったがその脇を通ってタイチ達の元へ向かうと、貴族達が使う門から中へと通された。
馬車と共に約30人が大移動。
「やぁ、よく来てくれたね! あの不思議な文字の看板が見えるかい? あの店の裏手が泊まってもらう建物になってるから手前の路地を入っていけば馬車も置けるよ、厩舎が並んであるから馬も外しておくと良い。皆に挨拶するのはそれからにしよう」
タイチがホセにそう言うと歩き出した、門前広場に接する大通り、しかもかなり門から近い一等地にその看板があった。
書かれている文字は『大山商会』、サブローの苗字だろうか、近付くとちょっとガタガタになっているのが見えたから賢者サブロー本人が彫ったのかもしれない。
側面にある窓から外を覗くと黒髪の5歳くらいの男の子がチラチラとこちらを見ながら早歩きで馬車に着いて来ていた、目が合ったので笑顔を向けたら隣を歩いていた男性の腕を引っ張って満面の笑みで何か報告している。
もしかして私と目が合った事でも報告しているんだろうか、あんなに嬉しそうにしちゃって可愛いなぁ。
ほっこりしながら見ていたら、背後から壁ドン状態でエドも窓の外を覗いた。
ハッ、もしかしてあの子も守備範囲!?
流石に5歳は小さいから違うと思いたいが、他にも10歳くらいの子供も集団の中に居たので何とか気を逸らさないと、と内心焦っていた。
「どうしたんだいアイル?」
挙動不審になっていたのかエドが聞いてきた、まさかエドの守備範囲そうな少年が居るから守らなきゃと思ったなんて言えない。
「う…、エドは私が好きなんだよね?」
「もちろんさ、どうしてそんな事を?」
「他の子に目移りとかしないのかな~って…」
私だけをターゲットにしてる間は他の子達は安全って事だもんね、肩越しにしてエドを見上げた。
するとエドは片手で口元を覆ったまま目を瞑りプルプルし出す。
え!? まさか葛藤中な訳!? やっぱりあの子達が危険!?
「凄いよね、あの上目遣いと言いエドガルドを口説き落とそうとしてる手管にしか見えないけど、本人は全くその気が無いっていうのが恐ろしいと思うのは僕だけかな」
「ああ、恐らくアイル本人は明後日な方向の事を考えて言ってるんだろうなというのは顔を見たらわかるが少々エドガルドが可哀想になって来るな」
何かエリアスとリカルドがこっち見ながらボソボソと話してるけど、あの子達を守る方法考えてくれてるなんて事無いよね!?
オロオロしていたらエドがキラキラの笑顔で復活した。
「ふふ、アイルと出会ってからはアイルしか目に入らなくなってしまったよ、アイルさえ居てくれれば…っと」
エドが歯の浮く様なセリフを並べ始めていたら、馬車が急停止した。
「お~っと、悪りぃ悪りぃ、行き過ぎるとこだったぜ」
御者席からホセの棒読みの謝罪が聞こえた、どうやら到着したらしく後ろの扉をタイチが開いた。
「改めていらっしゃ~い! ようこそオオヤマ商会へ! 部屋は個室を7部屋確保してあるから夕食までのんびりするかい? 出来れば皆がアイルに会いたがってるから話相手してくれたら嬉しいけど…って、この馬車見た目と違って中が凄く高級そうだね!?」
「久しぶり! セゴニア王からの下賜品だからね、ロイヤル仕様なんだよ。お陰でそんなに疲れてないから話相手くらいなら出来るよ」
「本当!? じゃあ娯楽室があるからそこで話しましょ! 白だしの試作品も準備するから楽しみにしてて~」
タイチと話していたらアデラがヒョイと顔を出し、言いたい事を言ったら走り去ってしまった、きっと白だしの準備をしに行ったのだろう。
「ははは、アデラは今朝からずっとソワソワしてたんだ、久しぶりにアイルと会えて嬉しいんだろう。さ、皆降りて着いて来てくれ、そっちの色男さんもな。ホセ、馬車はウチの者が片付けるから置いといていいぞ。ビビアナとそっちの兄さんも馬をそいつに預けてくれ」
「お~、ありがとな」
「お願いね」
通信した時の事があるせいか、色男と言いつつエドをジロリと睨んだ。
そんなタイチの態度にもかかわらずエドはニッコリと愛想良く微笑みを浮かべる、こういうところは流石それなりに大きい商会の会長なんだなぁと感心してしまう。
宿泊施設は当然の様に土足厳禁だった、田舎の集会所の様な部屋に入ると懐かしい香りが鼻腔をくすぐる。
「た、畳だぁ…っ! まだ新しいんだね、凄く良い香り…」
い草の香りに思わず深呼吸する。
「お、やっぱりわかるか! 傷んできたから先月張り替えたばかりなんだ。タタミはこの辺りでしか使われて無いから国外から来た人は知らないと思うぞ、な?」
私の後ろに居る『
私はお説教タイム以外では久々に正座をして出迎えの為に集まってくれた皆さんとお話しする事にした。
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