第210話 名前のストック
「お姉ちゃんどう? かんせい?」
5つの色違いの器に入れられた白だしの試作品の匂いを嗅ぐ私、そして胡座をかいた私の上に座ってその様子を見上げているハヤト(5歳)。
ちなみにハヤトの名前はサブローが考えた名前のストックがタイチで無くなった為、サブローの息子達の使い回しだそうだ。
ハヤトは人懐っこくて気が付けば膝の上に座っていたのだ、正座に子供は拷問なので胡座に座り直したけど。
「ちょっと待ってね、『
小さい水球を5つ作り出して器に入れると周りからおお~っと歓声が上がった。
そしてクピッとひと口ずつ飲んでいく、そして4つ目の赤い器のものを口にした時うどんの麺が脳裏に浮かぶ。
「これ…っ、コレが1番近い!」
一応5つ目の器のものも飲んでみたが、やはり4つ目が1番だ。
「これをもう少し希釈して少し醤油を垂らしたら完全にうどん用の汁になるよ! たれみそじゃ甘いって人はコレでひやむぎを食べても良いし、唐揚げの下味にも使えるからバリエーションが増えるなぁ」
「赤の器ね! ちょっとそれ私にも飲ませて」
アデラがヒョイと器を手にして口に含んだ。
ちょっとエド、アデラを睨むのはやめて、まさかとは思うけど間接キスだからとかじゃ無いよね、女同士だし。
ちなみにさっきまでは膝の上のハヤトを睨んでいた、ハヤト本人は気付いて無いし、違う意味で目をつけられるよりはマシだから放置してるけど。
「うん、やっぱりコレだったわね。私もコレが1番出来が良いと思ったのよね。ふ、ふふふふふふふ、売れる…売れるわ! 皆、コレでまた店を大きくするわよ!」
「「「「おぅっ!」」」」
一族経営なだけあって団結力はバッチリの様だ、ハヤトも嬉しそうにしている皆を見ながらニコニコしている。
「どうやら決定したみたいだね。アイル、ちょっとコレ見て貰っていいかな?」
白だしの試飲をしている間姿を消していたタイチが戻って来て1枚の紙を見せた。
そこには漢字の名前の隣にこの世界の文字で読み仮名が書かれている名前の一覧表だった。
「あ、最後が太一になってる。って事は前に言ってたサブローが書いた名前候補の紙か、どうしてコレを?」
「いやぁ…、その店の看板と同じ様な文字が読めなくてね。その意味を教えて欲しいのと、そこのハヤトやこれから産まれてくる子供達の名前がご先祖様と同じのばかりというのはどうかと…、それで他に良い名前の候補があれば教えて欲しくて…頼めるかな?」
そう言って追加で筆とインク壺を差し出して来た、硯じゃないんか~い!
膝の上のハヤトを見ると期待に満ちた目で見上げていた。
「ん~、ハヤトの元になったのはこの隼人でしょ、コレはハヤブサって鳥の事なんだよね、だから小さいハヤトはこう…颯翔…でどう? 風が吹いて飛翔するって意味、この翔って文字は私の弟の名前にも使われてるんだよ」
「へぇ…、その文字にそんな意味があったのか…」
「すごーい! ご先祖さまの名前よりなんかカッコイイ! ありがとうお姉ちゃん!」
感心した様に頷くタイチ、そして目をキラキラさせて自分の名前を見るハヤト、可愛くて思わず頭を撫でてしまうが、横からエドの視線が更に鋭く突き刺さった気がした。
「オレ…っ、オレの名前も! アキラって言うんだ!」
移動中にエドの守備範囲ではないかと心配していた10歳くらいの男の子が机の対面から身を乗り出して来た。
「えっと…、あ、コレだね、明は明るいって意味だけど、そうだなぁ…暁…先日の
颯翔の下にサラサラと暁という漢字と読み仮名を書いた。
「大氾濫で戦ったパーティって事はAランク以上なんだろ!? すげぇ! その名前が良い!」
興奮気味に自分の名前を見つめるアキラ、父親らしき人が良かったなと頭を撫でていた。
「何か…改めてアイルは賢者なんだなぁって認識させられたね…」
「ああ、あんな複雑な文字をサラサラ書けるなんて凄いな。模様にしか見えないぞ」
『
やる気を出した私は男女の名前候補を書き出した、とりあえず過去の同級生の名前を思い出しながら書いたが、当然加奈子だけは書いていない。
「こんなもんかな、はい」
とりあえず一覧表と被らない名前を20ずつ書いたから暫くは困らないだろう、とりあえず私が生きている間はいつでも聞いて貰えば良い訳だし……漢字を忘れない様に日記でもつけようかな。
「おお~、ありがとうアイル! これで子供の名前がつけられるよ!」
………ん?
「まだアデラと結婚してないよね? あ、他の夫婦の子供?」
「いいや、俺達の子供…って、そういやアイルに報告するの忘れてたっけ、アデラ今妊娠してるんだ。だから来月挙げるはずだった結婚式をアイルが居る明日に合わせて挙げようって事になってさ」
「……………」
「アイル?」
無反応の私の顔を首を傾げて覗き込むタイチ、私は膝の上のハヤトの両耳をそっと手で塞いで息を吸い込んだ。
「白だしよりも先に報告すべき案件でしょうが~!!」
親族大集合していたのは私のお迎えもあったけど、結婚式に参加する為だったと発覚した。
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