第248話 エンリケの正体

「って、こんなとこかな?」



 エリアスから昨夜の出来事を聞いて私は開いた口が塞がらなかった、竜人りゅうびと!?

 あの図書館で読んだ竜人がエンリケなの!?

 エンリケを見たまま口を開けていたら、エンリケが苦笑いを浮かべた。



「アイル、君も十分珍しいってわかってる? 竜人と同じくらいにはね。それにしても昨夜は話を聞いて無かったのかい? 鱗までバッチリ見たのにさ」



「コイツは話し方がおかしくなってたら酔って覚えてねぇんだよ。だから勝手にエンリケの秘密をバラした事も覚えてねぇもんなァ? 自分もガブリエルに勝手に賢者だってバラされて怒ってたクセによ」



「えっ!?」



「うう…、ごめんなさいエンリケ…」



 怒りで引き攣った笑みを浮かべながら見下ろすホセの言葉にガブリエルが驚いて顔を上げた、思わぬところへ流れ弾が…。



「アイルは酔うと記憶を無くすタイプなのか…、気を付けないと悪い狼さんに食べられちゃうぞ?」



「「「ぶふっ」」」



 エンリケの言葉にリカルド、エリアス、ビビアナの3人が吹き出してホセを見た。



「……あっ、そっか、ホセは狼獣人だからある意味狼さんだったね、だけどホセの事言ったんじゃ無いからね!? 男は狼って…、アレ? 悪い男にって意味で…!」



 3人の視線でまずいと思ったのか、慌ててフォローしようとするエンリケ、しかし焦っているせいで上手くいかずにホセにジト目を向けられた。



 エンリケは怒って無いみたいだし、それ以外は特に問題は無かったのならそろそろ赦してくれるかなとホセの様子を窺うと、私の心を読んだかの様に冷めた目を向けていた。



「よし、選ばせてやる。今後酒は飲んでも良い、けど必ずあのネックレスを着けてるか、それとも酔った時点で着けられる様に周りにネックレスを預けるのが条件だ」



「ホセが着ける係になるのが目に見えるけどね、ふふっ」



 エリアスが笑ってホセに睨まれたがニコニコ笑顔は一切崩れて無い、長年の付き合いのせいか全く動じてないのが凄い。

 しかし今後お酒が飲めるのは嬉しい、ただ3杯で止めても酔ってるとジャッジされたら素面しらふに戻されるって事だよね、加減を誤れば楽しい気分が吹っ飛ぶのか…気を付けねば。



「じゃあ…、次からはネックレスを預けて飲む」



「よし、その言葉忘れんなよ!? 昨夜みてぇに逃げたら承知しねぇぞ!」



 どうやら昨夜の私はネックレス装着を拒否して逃げたらしい、覚えて無いけどここは素直にコクコクと頷いておいた。



「さて、説教は終わったな? それじゃあ朝食にしようか」



「「賛成~!」」



 リカルドがパンと1回手を打って説教を終わらせ、エリアスとビビアナが賛同して私を立たせてくれた。

 既に私の脚は麻痺状態だったので、痺れが切れる前にネックレスを着けるとすぐに麻痺が無くなった、このネックレス凄く使える。

 その代わり強制素面コースが出来てしまったけれど。



 とりあえず今日の朝食はあっさりめの和食でしょ、祝杯の翌朝は皆二日酔いだろうと思っておにぎりと味噌汁とお漬物のセットをスタンバイしてあったのだ。

 でもエンリケ竜人発覚事件で誰も二日酔いになるほど飲んで無いんだけどね。

 バレリオが来ると思って余分に作ってあったから良かった、じゃなきゃエンリケの分が足りなくなるところだったよ。



「ところでセシリオは何処に住むの?」



 まだ結婚してないからビビアナをこの家から連れ出すのは待って欲しくて聞いてみた。



「とりあえずは衛兵の詰所に併設されてる寮に入る事になってます。でも…け、結婚…したら…寮を出てビビアナと一緒に…と…」



 言いながらどんどん顔が赤く染まっていくセシリオ、テーブルで隠れてるけど、多分ビビアナが内腿とか触ってると見た。



「ねぇ、皆に相談なんだけど…、今物置きになってる私の2つ隣の部屋って本来主寝室だよね? あそこをビビアナとセシリオの部屋にして結婚後もここに住むっていうのはどう? 今のビビアナの部屋は私が使うから。まぁ…2人で暮らしたいなら仕方ないけど…」



「あら、そうしても良いのならあたしは嬉しいけど…、セシリオはどう?」



「え、あの、俺はパーティメンバーじゃないけど…」



 セシリオはパーティの家という事で気が引けている様だ、もしかしたら2人きりで生活したいだけかもしれないけど。



「悪いこたぁ言わねぇからここに住んどけよ、じゃなきゃ毎食外食かセシリオがメシを作る事になるぜ? ビビアナは料理だけは壊滅的だからな。それにここだと洗濯も掃除もアイルが魔法で片付けてくれるから楽で良いぞ」



「う…、では…結婚したらお願いしたいです」



 料理のくだりでセシリオの頬がちょっと引き攣ったのを私は見逃さなかった、どうやらビビアナが料理出来ないのを知らなかったらしい。



「パーティとしてはその方が活動しやすいからそうして貰おうか、引っ越しは子供が産まれて大きくなってきてからまた考えばいいだろう」



「だね、そうすればビビアナとセシリオも結婚してからもアイルの美味しいご飯が食べられるもんね。時々は泊まるだろうから部屋はもう移動しておいた方が良いんじゃない?」



 どうやらリカルドとエリアスも賛成してくれる様だ。



「うふふ、じゃあ大きいベッドを買った方がいいわね。アイル、その時は運んでくれる?」



「うん!」



「いいなぁ、俺もパーティに入る事になったらここに住んでいいのかな?」



「あ、そうだな。そうなったらビビアナの部屋はエンリケに使って貰おうか、そうすればアイルも部屋を移動しなくて済むだろう」



 試しに何回か一緒に探索してからって言ってたけど、何かもうエンリケが加入する事は決定している気がする。

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