第247話 祝杯反省会

 現在私はリビングで正座をしている。

 理由は勿論昨夜の所業しょぎょうのせいだ、しかしおかしい、ネックレスを外して乾杯したところまでは覚えているけど、その後グラスの半分も飲んで無いのに記憶がない。

 どうやら昨夜は来客3人は泊まった様で正座する私を気不味そうに見ている。



「俺は別にいいからそんなに怒らないであげて」



 エンリケが私の前で仁王立ちするホセに声を掛けた、どうやらエンリケに迷惑を掛けてしまったらしい。



「で、昨夜の事はどこまで覚えてんだ?」



「……ネックレス外して乾杯した後にグラス半分飲む辺りまで…」



「だろうな、途中からいきなり喋り方がおかしくなったし」



「あ~、やっぱり」



 リカルドが納得した様に頷くと、ガブリエルが何か思い当たったかの様に呟く。

 私としては何をやらかしたのかまだ聞いて無いから凄く気になる、でも今口を開いたらホセが余計に怒る気がしたので1番気付いてくれそうなエリアスに視線を向けた。



「あはは、自分が何をしたのか気になってる様だね。良いよ、教えてあげる」



 そう言ってエリアスは楽しそうに説明を始めてくれた。





[昨夜の出来事]



「ネックレスがあれば何杯でものめるけど、それだとほろよいきぶんがあじわえにゃいもんれ…ありぇ?」



「ねぇ、アイルいきなり酔ってないかしら?」



「しょんにゃ…、まらいっぱいめらよ~(そんな…、まだ1杯目だよ~)」



「明らかに酔ってんじゃねぇか!」



「もしかして正常化の魔法が切れた状態だからかも? お酒は毒じゃないから解毒は作用しないはずだし…まぁ、二日酔いだと毒素に反応して作用するらしいけど。で、正常化で抑えられてた体内に残ってる酒精が一気に解放された状態なのかもしれないね。状態を正常にしてるだけで体内の酒精を抜いてる訳じゃ無いから」



「チッ、しょうがねぇな。おいアイル、さっきのネックレス寄越せ、着けたらまた素面に戻んだろ」



「やらよ~」



 アイルは四つん這いのままサカサカと移動してホセから逃げた。



「この…ッ」



「まぁまぁ、別に暴れてる訳じゃ無いし、誰も迷惑してないからいいんじゃない? ちょっと面白いから俺はもうちょっと観察したいかも、あははっ」



 エンリケがそう言うと、味方を得たとばかりにアイルはエンリケの背後に隠れて抱きついた。



「エンリケはなしがわかるぅ~! だれかしゃんとはおおちがいらよれ。(誰かさんとは大違いだよね)……ヌゥ、ホシェにまけないきんにくしてる…(ホセに負けない筋肉してる)」



 抱きついたままワサワサと筋肉を確かめる様に手を動かし、何故か脇腹を何度も往復させた。



「あはは、アイル、くすぐったいよ」



 身をよじる隙をついて、アイルはエンリケのシャツをペロンとめくり上げた。

 いきなりの行動に皆が驚いて、または呆れて注目した先には人族にはありえない鱗が付いていた。



「ここなんら~? しゅべしゅべしててきもちいいにゃ~、なんれこんにゃのちゅいてるの?(ここなんだ~? スベスベしてて気持ちいいなぁ、何でこんなのついてるの?)」



「「「「「「………………」」」」竜人りゅうびと…」」



 リカルドとガブリエルが同時に呟いた。



「あ、はは…。バレちゃった」



 エンリケが乾いた笑いを漏らし、アイルはニコニコとまだ鱗を撫でている。



「りゅうびと…たりふぁすのとしょかんでほんよんらよ、どらごんとひととのあいだにうまれたんれしょ? ほんもにょら~、どらごんもまらいるにょかにゃ~? みてみた~い(竜人…、タリファスの図書館で読んだよ、ドラゴンと人の間に産まれたんでしょ? 本物だ~、ドラゴンもまだいるのかなぁ? 見てみたい)」



「あっ、ちょっとアイル、そこは獣人の耳や尻尾と同じで敏感だからあまり触らないで…っ」



 感触を楽しむ様に優しく何度も撫でるアイルの手をたまらず掴んで止めるエンリケ。



「エンリケはにゃんしゃい?(エンリケは何歳?)」



「数えるのを途中でやめたから正確にはわからないけど、多分300歳は過ぎてるかな」



「しゅご~い、わらしもわかくみられるけろ、くらべもにょににゃらにゃいくらいわかくみえりゅにぇ~(凄~い、私も若く見られるけど、比べ物にならないくらい若く見えるね)」



「そういう問題じゃねぇだろ…」



 呆然としていたホセがアイルとエンリケの遣り取りに思わずツッコんだ。



「いやぁ、まさか竜人に会えるとは思って無かったよ、エルフでも会った事ある人は少ないんじゃないかな?」



「はは、竜人だと教えずに会ったエルフは居るだろうけど、知った状態で会ったのはガブリエルだけだよ」



「いやいやいやいや、ちょっと待って下さい! 竜人って…あの伝説の!? これは王様に…いや、しかし…」



 長命種同士和やかに話始めたが、正気に戻ったセシリオが動揺し始めた。



「バカね、王様に知らせたらエンリケは何処かへ行っちゃうに決まってるんだから報告するだけ無駄よ」



「う、あ、まぁ…確かに…」



 ビビアナに顎先を指先で撫でられて丸め込まれるセシリオ、実際報告が届く前に姿をくらます事は出来るので正論ではある。



「それにいざとなったら『希望ウチ』に入っちゃえば少なくともパルテナとセゴニアでは自由で居られるしね」



 ニコニコと提案するエリアス、エンリケからすれば正体を知っていて、自分エンリケと同じくらい有名な立場のアイルが居て、しかも国が口出し出来ない許可証を持っているという条件は今までに無い好条件だと言える。



「もしもの時は頼らせて貰っていいかな?」



 エンリケは『希望エスペランサ』の面々を見回し、リカルドに聞いた。



「その前に数回一緒に依頼をこなして仲間達との相性を見てみないとな」



「ははっ、じゃあ次に依頼を受ける時は同行させてもらおうかな。……アイルに感謝しないといけないかも」



 エンリケはポツリと呟き、背中にくっついたまま眠っているアイルを振り返った。

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