第409話 ウリエル

 ガタゴトと悪路を高級馬車が走る、サスペンションと座席のクッションが無ければ辛い旅となっただろう。

 御者席もスライムシートのお陰で快適である。



 交易路として馬車がよく通る街道と違い、トレラーガとは反対方向に進むと過疎化が進む村や町が多いせいか街道が荒れ気味なのだ。



『ホセ、良い加減に機嫌を直さんか』



 御者をしていたら馬車内からおじいちゃんの声が聞こえた、おじいちゃんもエルフの里に行ってみたいと言うのでガブリエルの客という立場で同行している。

 そしてエリシアに子供呼ばわりされた事を皆に報告してからずっと拗ねているホセをたしなめている様だ。



 当然バラした私に怒っているので気まずくて御者をしていたりする、そういうところも子供だと言われる事に気付かないのかなぁ。

 おじいちゃんは落ち着いた大人の男性って感じなのに、ホセはもう少し見習うべきだよ。



 やっぱりうじより育ちってやつなのかな、子供も赤ちゃんの時から託児所や保育園に預けると競争相手がいっぱい居るからか気が強くなるとか言うし、教会の孤児院だと尚更かもしれない。

 スポーツも人とあらそって得点する様な競技は第2子以降が活躍する事が多いって聞いた事あるもんね。

 


「アイル、あの木を過ぎたら休憩出来る場所があるからそこで休憩しようか、小さな川があるから馬も休ませてあげられるし」



「わかった」



 馬車を走らせていたらガブリエルが教えてくれた、今回は道案内として隣に座っているのだ。

 魔犬騒動の時に行ったヘラルドの村とは方向が違うので景色は殆ど草原だが、所々木が生えている。



 休憩所はキャンプ場みたいにちょっとしたかまどが川の側にポツンとあった。

 一旦馬を放して先に休憩させ、飼い葉を近くに置いてから自分達の昼食を準備。

 ストレージからテーブルセットをだして料理を並べていく。



「食後のデザートに南瓜かぼちゃパイ出そうと思うんだけど、どう?」



 不機嫌そうにしたまま私と目を合わせなかったホセのケモ耳がピクリと動いたのを私は見逃さなかった。



「それとも他の物が良いかな? 他にもプリンとかアイスもあるよ、暑いからアイスの方が食べやすいかなぁ? 南瓜パイにアイスを乗せて食べるのも美味しいけど、どうする?」



 プリンと言い出した時はてろんと下がっていたホセの尻尾が南瓜パイにアイスを乗せる提案をしたらわかりやすく揺れ出した。



「アイス? アイスって何?」



 レミエルがキョトンとして首を傾げた。



「エルフの里にはアイスが伝わって無いからねぇ、お土産に持って帰るものは布とか食材とか実用品が多いから嗜好品は滅多に入って来ないんだ。レミエル、食後に食べさせてもらいなよ、凄く美味しいから」



 ガブリエルの「凄く美味しい」の言葉にレミエルの目が輝いた。

 食後のデザートがアイスに決まりそうな雰囲気になったその時。



「俺は南瓜パイにアイス乗せてくれ」



 王都にあるガブリエルの屋敷で習った角兎ホーンラビットの赤ワイン煮を頬張る合間にポツリとリクエストされた。

 ふふふ、やはり南瓜の誘惑には勝てなかったか、ホセ対策に作っておいて良かった。

 本当は酔っ払って迷惑掛けた時に機嫌直して貰う為に作っておいたものだけど。



「んふふ、わかった」



 南瓜パイのお陰か休憩が終わって馬車に乗り込む頃にはホセの機嫌はすっかり直っていた。

 そんなスタートを切った私達の旅は4日目に立ち寄った小さな町である人に出会う。



「ここは行商人が立ち寄ったりするから宿屋があるし、ベッドでゆっくり休もうか。大部屋で良いよね?」



 雇い主であるガブリエルが決めたのなら私達は従うだけだ、しかし普段相部屋として使われている大部屋は6人部屋だった。

 そしてここで一悶着、『希望エスペランサ』プラスおじいちゃんで大部屋を使うか、男性と女性に分かれて部屋を使うか。



 どうやらガブリエルは皆でワイワイしながら寝るのを楽しみに大部屋と言い出したらしい、ただ、これまで1人で移動していたから大部屋の使用人数を知らなかったとの事。

 結局男女に分かれれば部屋は2つで済むという事で私とレミエルが2人部屋に泊まる事になった。



 そして夕食の時間になり町の人達も利用する1階の食堂に向かうと見覚えのある衣装を着たエルフが居た。

 カリスト大司教と同じく大司教なのだろう、治癒魔法が使えるエルフが所属していると聞いたけどこの人だろうか。



「ウリエル!? 何でこんな所に!?」



 同じ里出身なのか、ガブリエルが大司教のエルフを見た途端声を上げた。

 ウリエルと呼ばれたエルフの男性は食事の手を止めてガブリエルとレミエルを見ると穏やかに微笑んだ。



「ガブリエルとレミエルじゃないですか、久しぶりですね。ガブリエルは王都の屋敷から引っ越して以来だから数十年ぶりですか?」



「そうだね、20年くらいかなぁ? 今はウルスカの魔導具研究所にいるんだよ、レミエルとも久しぶりって事はウリエルは里に向かってるのかい?」



 エルフの時間の感覚って単位が1つ違うんじゃないだろうか、数十年ぶりに会ったというテンションじゃないと思う。

 仲良しみたいだし、一緒に里まで行く事になりそうかな。

 そんな事を考えていたらウリエルが爆弾発言をした。



「ええ、女神様の神託を受け取った賢者様からのお言葉を伝える為に町や村を回っているところなんです。ちょうど私が教会本部に向かっている時に新たな賢者様から連絡があったらしくて、この事を里にも早く伝えないといけないんですよ。そういえばそちらのお嬢さんはカリスト大司教が熱く語っていた新たな賢者様によく似ていますね、まさかご本人だったりしませんよね? なんて…、あはは」



 数秒後、ウリエルの驚きの声が食堂に響く事となる。

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