第94話 秘密厳守
「ええっ!? ラファエルが秘密をバラしちゃったのかい!? もしこの事が世間に知られたらアイルが本当に王太子妃にされてしまうじゃないか!」
今日の夕食はタイチとアデラを招待し、給仕も私の秘密を知ってしまった者だけにしてガブリエルに一連の出来事を話したら思ったより動揺した。
そして王太子からのプロポーズ云々を当然知らなかったタイチとアデラは口をあんぐりと開けて食事を食べこぼす。
「そうなったら最悪国外逃亡するから」
これは本心だ、庶民として産まれ庶民として育ち庶民として生きて来た私が呼吸する様に本音と建前を使い分けたり、正直この屋敷で自室以外常に使用人が張り付いている生活ですら気疲れするというのに、王族なんかになったらきっと自室ですら侍女とか護衛が張り付くんでしょ!?
そんなの私には無理、想像しただけでも気疲れから胃に穴とか空きそうだとわかる。
「たまに帰って来れるなら国外で活動するのもありよね」
「Aランクになってしまえばどこの国に行っても歓迎されるだろうしな、俺の母国に冒険者の街と言われる都市もあるから行ってみるのもいいな」
「そうなったら家は売って新天地で買い直そうか」
「どうせなら数年は放浪しながら過ごしてみてぇな、他の大陸にも行ってみるのも面白いんじゃねぇ?」
『
「やだっ! アイルったら顔が大変な事になってるわよ! バカねぇ、あなたはもうあたし達の大切な仲間なんだから1人でなんか行かせないわよ」
隣に座っていたビビアナがハンカチを取り出して涙と鼻水に塗れていた私の顔を優しく拭いてくれた、汚れたハンカチは自分で洗浄魔法掛けるようにと手渡されたけど。
「ズルいっ、それなら私も爵位返上して冒険者になってついていくよ!? その時は君達のパーティに入れてもらうからね!」
「兄さん!?」
ガブリエルの言葉にラファエルがギョッとして立ち上がる、使用人達も目を見開いている。
「そんな訳だから皆ちゃんと秘密厳守してね! タイチ達も今後の儲けの為にも絶対だよ?」
「ふっ、もちろんよ! むしろ今後を考えたらお金を積まれようが絶対話さないわ! 万が一4人目の賢者の噂が流れたとしても絶対アイルに辿り着かない様に撹乱するから安心して頂戴! 当然アイルもバレない努力をしてね」
アデラにカッと見開いた目を向けられ、その迫力に思わずコクコクと頷く。
「ははは、アデラは情報操作も得意だから安心していいよ。俺と婚約するかどうかって時に他の候補の女の子達が次々と評判を落としていったしね~」
「「「「「「………………」」」」」」
タイチが緩い雰囲気のまま凄い事を言った、この2人とはビジネスだけの関係にして友人としては関わらない方が良い、きっと全員そう思ったと思う。
食事が終わり、アデラ達は後日通信用の魔導具を届けると言って帰って行った。
2人を見送ってリビングに戻ると、皆ぐったりとソファに身体を預ける。
何だかんだで気を張っていたというか、警戒していたせいだろう。
「ガブリエル、ウルスカにはいつ帰れる?」
少し苛立った空気を纏ったリカルドが聞いた、そういえばまだ日にちが掛かるなら先に帰るって話してたもんね。
また身内と離れて1人になるラファエルには申し訳ないけど、もう早く帰りたい。
「あっ、うん、大丈夫大丈夫! 来週には帰れるっていうか帰るから! あの魔導具関連の事は済んでるんだけど、他の研究で行き詰まってる人達が相談に乗って欲しいからって引き留められてるだけだし」
「「「はぁ!?」」」
ホセ、ビビアナ、エリアスが凄い顔でガブリエルを睨んだ。
他の研究を助けるのも仕事の内なら仕方ないと思うけど、3人共基本的に自分の事は自分でするタイプだからなぁ。
「まさかとは思うけどよ、その相談されてる研究の手伝いとやらをやったらガブリエルの功績にちゃんとなるんだろうな? 手伝いだけさせられて手柄は全部そいつらが持って行く、な~んて事はねぇよな?」
「え、さ、さぁ…?」
「さぁ?って…。そんなだから教育係やってる間に王立研究所の所長の座も奪われちゃったんじゃない? ガブリエルにとって何の得にもならない事の為に僕達は足止めくらってるの?」
「う…」
「そうよ、手伝ったんならちゃんと功績として残る様に手を回すか、手柄にならないんなら全部断っちゃいなさいよ!」
「はい…」
3人に口撃されて撃沈したガブリエルはガックリと項垂れた。
良い様に搾取されるのはどうかと思う、出世欲が無いせいで今まで何とも思わなかったんだろなぁ。
「あっ、そういえば! アイルに明日陛下からの褒美が届くはずだよ。本来なら王宮で謁見して賜るところだけど、事件そのものを隠蔽するからって事で内密に渡す事になって済まないって言ってたよ」
おお、これで免罪符を手に入れた様なものだね! 万が一
なにせ王族にも有効だし!
翌日、無事に許可証を受け取り、ガブリエルも研究を連名にしない物は断ったので3日後には仕事が終わるらしい。
出発の日まで私は料理人達と一緒に帰りの食事を大量に作って過ごした。
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