第12話 鍛冶屋
「ここがこの辺じゃあ評判の良い店だ、特注品なんかは気に入らない客の依頼は受けないって事でも有名だけどな」
「ほぅほぅ、頑固な職人気質ってやつね、テンプレテンプレ」
「なんだそれ」
顎に手を当てて頷く私をセリオは呆れた目で見ている。
暗器使いとしては持っている武器を知られるのは不味いし、ここで帰ってもらおう。
「もういいわ、ありがとう。アイツらに見つからない様に帰るのよ? コレはここまでの案内代ね」
ポケットに手を入れ、ストレージから大銅貨を取り出して指で弾いた。
これで今日はスリをしなくても食べられるだろう、セリオは受け取った後一瞬複雑な表情をしたが素直に大銅貨をポケットに押し込んだ。
「ありがとな、帰りはそこの道を行けば大通りに出られるから…」
「わかったわ、それじゃあね」
ヒラリと手を振ってから槌の音が聞こえてくる店内に入ると、10代後半の青年が帳簿を書きながら店番をしていた。
私の幼い(認めたくないけど)見た目に冷やかしかと思ったのか、一瞥だけして帳簿と再び睨み合った。
店内を見回してみたがやはり欲しい物は無かった、一応薬草採りの時に使うナイフはあった方がいいかと思い選んだけど。
カウンターに鞘付きナイフを置くと、青年はチラリとナイフを見て無愛想に呟いた。
「大銅貨5枚」
ポケットに手を入れ、ストレージから大銅貨を5枚取り出してカウンターにジャラリと置き、青年が手を伸ばした時にその手を上から押さえた。
驚いてやっと私の方を見たのでにっこり笑って話しかける。
「特注で武器を作って欲しいんだけど」
青年は上から下まで私を見た後、ハッと鼻で笑った。
「アンタみたいな弱そうな嬢ちゃんの注文を親方が受けるとは思えないね」
小馬鹿にした物言いに対して余裕気な笑みを浮かべたまま、出来るだけゆっくりした動作でカウンターに肘をついて囁く様に話す。
なんとなくだけど大物はセカセカと動かず、ゆったりした動作をするイメージなので私なりの演出である。
「作って欲しいのは暗器、職人なら興味を持つと思わない? 親方も知らない武器かもしれないわよ?」
心の中で知ってるかもしれないけどね、と付け足した。
青年は暗器と聞いてヒュッと息を飲むと、親方に聞いてくると言って店の奥へと入って行った。
もしかしたらヤバい職種の人と思われたのかもしれない。
「あらら、大銅貨放置したまま行っちゃったよ。もしこのまま私が持ち逃げしたらどうするつもりなんだろう…」
「そうしたらワシがお前さんをふん捕まえに行くさ」
いつの間にか槌の音が止んでおり、私の独り言にずんぐりむっくりした髭面の小さいが太ったオジさんが答えた。
「え~と、親方? もしかしてドワーフ?」
「そうさ、お嬢ちゃんが暗器を作って欲しいっていう変わり者かい?」
「ふふ、そうなるわね」
初めて見るドワーフにテンションが上がりまくりだ、だけどここで浮ついていたら小物だと思われそうだから余裕気な態度は崩さない。
「棒手裏剣って知ってる?」
「あぁ? なんだそりゃ」
親方は眉根を寄せたが、明らかにその目は興味を持った様にギラついていた。
「やっぱり無いか、1人目の人も大正以降の人だもんね、仕方ないねぇ…」
正直私が棒手裏剣なんてマニアックな物を知ってるのは祖母と一緒に時代劇を観ていたからである。
お婆ちゃん子だったせいか黙っていれば童顔のせいで若く見られたけど、話すと年より上だと思われる事が多かった。
「どんな武器か説明してみな、もしかしたら違う名前で存在してるかもしれねぇからな。どうもお嬢ちゃんはこの辺の人間じゃなさそうだしよ」
「そうね、長さは20㎝くらいの三角錐、太さは私の指1本くらいかな」
指を1本立てて突き出すとサイズを目測しているのかジッと見てから頷いた。
「そんな妙な武器なんざ聞いた事ねぇな、素材は何を使うんだ?」
「投擲する武器だから折れない丈夫なのがいいな、あと暗器だから隠す訳だし軽い素材だと尚良しだね。……職人に客の注文に関する守秘義務ってある?」
ちょっと心配になって聞いてみると親方はニヤリと笑った。
「客の情報をペラペラ話す奴は二流以下だ、少なくともウチじゃそんなバカはいねぇよ」
「良かった、それじゃあ本題に入っていいかしら? 靴の仕込み武器が欲しいの、こうやって踵に衝撃を与えたら爪先から刃が出るやつ、横からの衝撃でもいいけど。歩行の妨げにならない様に短い刃渡りで……って感じで出来る?」
「ほほぅ、面白そうじゃねぇか。予算は?」
「今は手持ちが銀貨4枚程度なの、だけどこれから稼ぐ予定だから応相談ってとこね…まずは棒手裏剣だけお願いしたいわ」
「とりあえず合金で試作品を作ってやるよ、明日の午後に一度来てくれ。軽さと硬さの両立ならミスリルだな、完成品はミスリル製にするか…。銀貨4枚なら試作品をおまけして安く見積もっても精々10本程度だな」
「とりあえずそれでお願い、頑張って稼がなきゃね!」
私が拳を握って気合を入れていたら親方と店番の青年が微妙な顔で見てきた、もしかして暗殺とかすると思われてたりする?
「……一応言っておくけど、私は冒険者やってるからね? 裏家業とかじゃないから安心して」
そういうと特に青年はあからさまにホッとしていたのでちょっと笑ってしまった、最後にお互い名乗り合ってから店を出て帰途につく。
ふむふむ、親方がブラスで青年がカミロね、店の場所と一緒に覚えておこう。
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