第11話 職人街へ行こう

 4人共部屋で休んでいるという事で、街の娘さんをテーマにビビアナと選んだワンピースを着て1人で職人街に行く事にした。

 鑑定があるから粗悪品を摑まされる事もないだろうし、服を買った残りで買えなかったら予約だけでもしておこう。



 昨日調理器具を買った奥が職人街だって言ってたから多分1人でも行けるはず。

 冒険者らしき人達がギルドの方へ歩いて行くのを横目で見ながら職人街を目指した。



 それなりの人波の中キョロキョロしながら歩いていると、前方から足早に向かってくる少年が1人、鑑定が仕事をしてくれてスリだとわかった。

 このままだとぶつかる0.5秒前にスッと横に一歩避けると、少年はたたらを踏んで驚いた顔で私を見た。



「ふっ、修行が足りんな」



 どうせ今後会う事はないだろうと一生に一度は言ってみたいセリフのひとつを言ってニヤリと笑ってやった。

 すると少年はいきなり片膝をついて跪くとアメジストの様な紫の瞳をキラキラさせ、私を見上げて口を開く。



「師匠! 俺を弟子にしてくれ!」



「…………は? いやいやいや、何言ってんの? 私駆け出しの冒険者よ? 一体何の師匠になれって言うつもり?」



 まさかスリの師匠なんて事はないよね?

 まぁ、なってくれと言われてもスリなんて器用さがモノを言う様な事も犯罪もする気もないし出来ないけどね!



「俺の動きを見切って最小限の動きで避けただろ!? 俺、強くなりたいんだ!」



 少年の勢いにタジタジになっていると開店準備をしていたポーション屋のおじさんが笑いながら話し掛けてきた。



「お嬢ちゃん、そいつは見込みありそうな冒険者に手当たり次第弟子入りをお願いしては断られてるんだ。相手にしたら付き纏われるかもしれないから気をつけろよ、わははは」



「なっ、余計な事言うなよ! 同い年くらいだから煽てりゃ上手く行きそうなの…あっ」



「…………」



 本音を私の前で漏らした事に気付いて慌てて口を手で押さえたがもう遅い、あっそぅ、ふ~ん、同い年くらいねぇ?

 身長は高めだがどう見ても10歳くらいにしか見えない少年に腕を組んでジト目を向けると気まずそうにボサボサの金髪頭を掻いた。



「ついて来ないでね?」



 にっこり微笑んでそれだけ言うと真顔に戻してスタスタと移動した、ああいう態度をとれば気を悪くしたと思ってついて来ないだろう。

 鍛冶屋の場所を道行く人に聞くと、音がうるさいから貧民街スラムに近い奥まった所にあるというので向かっていると、カーンカーンと槌の音が聞こえて来た。



 音を頼りに脇道に入って数分後、……迷子です、ここどこ!?

 どうやら建物に音が反響しているせいで音の発生源が特定できない、しかも痩せて目が死んでる老人手前のおじさんが道の端に座ってたりして治安が悪そうだ。



 焦って忘れていたけど探索魔法を使えばいい事に気付いて早速こっそりと唱えようとした瞬間、いきなり肩に手を置かれた。



「サぁぃっ」



 ビックリして変な声が出てしまった、振り向くとそこにはさっきの少年が。



「あはは、わりぃ、脅かすつもりはなかったんだけどさ。もう一回弟子にしてくれって頼もうとしたらどんどんヤバい区域に向かって歩き出したから心配になって追いかけて来たんだ」



 気不味きまずそうに目を逸らして頬を掻く少年、ポーション屋のおじさんの言う通りになるところだった様だ。



「心配してくれてありがとう、だけど私は昨日冒険者登録したばかりの新人だから師匠になんてなれないわよ?」



「え!? 駆け出しにも程があるじゃないか! はぁ、いつになったら冒険者になる目処がつくんだろ…」



 少年がガクリと肩を落とすと不意に声が掛けられる。



「おいおいセリオ、お前昨日の分のアガリ上納してねぇだろ、こんなところで女と遊んでる場合じゃねぇたろ? ……ん? 結構可愛いツラしてるじゃねぇか、この小娘が上納金代わりってか?」



「ちっ、違うっ! この子は迷い込んだだけなんだ」



 ザ・ゴロツキという感じの厳ついスキンヘッドの大男とその取り巻きその1、その2。

 思い切り顔を顰めて痛いモノを見る目をしてやった、昨日見た腕熊アームベアに比べたら弱そうだし。



「何だぁ? その顔は、ちょいと痛い目に合わないと立場がわからねぇみてぇだな?」



「おいっ!?」



 私の方に手を伸ばして近付くスキンヘッドにセリオと呼ばれた少年が焦った声を上げる。

 私は誰にも聞こえない小声でコッソリ呪文を唱える。



「『身体強化パワーブースト』」



 魔力で人工筋肉を作るイメージをしたせいか、今なら片手でスキンヘッドを持ち上げられそうだ。

 軽く距離を詰めようとしただけで縮地レベルの動き、スピードがあった分かなり手加減して鳩尾に拳を叩き込むと3m程吹っ飛んで嘔吐した。



「あっぶな~い、手加減しなかったら身体突き破ってたかも! やっぱり腕熊よりは全然弱いみたいだね、厳つい見た目の割に一般人と大して変わらない感じ?」



 態と軽い感じで言ってみたものの、内心本気で焦っていた。

 危うく人殺しになるところだったのだ、人を相手にする時はもっと抑えた身体強化じゃないと危険過ぎる。



相手の力量も分からず向かって来るのは無謀って言うのよ? あなた達これでひとつ賢くなったわね?」



 取り巻きはビビって近づいて来ない様なので余裕気な微笑みを浮かべて言ってやると、壊れた玩具みたいにガクガクと首を縦に振った。

 今の内にサッサと移動してしまおう、呆然とするセリオの首根っこを捕まえて歩き出す。



「少年、迷惑かけたんだから案内しなさい」



 一応私が無理矢理連れて行った体であれば後で文句も言われないだろう。

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