第44話 夜襲
ヘラルドの村は山をひとつ越えるので、どうしても野営が必要になる。
予定より早く野営地に着いたけど、これ以上進んでも馬を休ませて野営出来る開けた場所が無いので今日の移動はここまで。
貸馬屋が用意してくれた干し草をストレージから出して川縁に積み上げ、まだ夕方だけど4人が焚き火の準備をしつつテントを張る。
私はその間に探索魔法で近くに魔物がいないかチェックしてから夕食をローテーブルに並べていく。
「相変わらず手際がいいねぇ。というか、凄く豪華な食事だね? まだ食事が冷めてないみたいだし随分と良いマジックバッグを買ったのかな?」
「祖母の遺品なの、古いけど質が良いものだから」
準備をしているとヘラルドが並べられた食事を見て話しかけてきた、私がパーティに加入するまでは携帯食や保存食を使ってたみたいだから適当に誤魔化す。
今日の夕食はパンと野菜スープに骨付き鶏モモ肉の照り焼きと蒸したブロッコリーのマヨネーズ掛け、本当はマヨネーズに白だしを混ぜたいけど白だしが見つからないので仕方ない。
「テントは張り終わったぜ~! お、今日は照り焼きか」
準備が終わると同時にホセ達がテーブルを囲んでシートの上に座る。
「「「「いただきまーす」」」」
4人が声を揃えて言うと各々チキンに齧り付いたり、少し気温が下がって来たのでスープを飲んでほっこりしていた。
さりげなくヘラルドも座ろうとしていたが照り焼きチキンのある場所は皆が座っているので私の隣の隅に座ると寂しそうにしながら自分のマジックバッグから携帯食を取り出してモソモソと食べ始めた。
「あ、あの、スープはたくさんあるから良かったら食べる? 夜は冷えるから温かい物を食べた方が良いと思うし」
「いいのかい!?」
パァァ、そんな効果音がつきそうな笑顔でヘラルドは顔を上げた。
むしろ同じテーブルでそんな寂しそうというか悲しそうに食べられたら胸が詰まって美味しく食べられないよ、この状態で平然と食べられるなんて皆メンタルが鋼過ぎるでしょ。
「はい、どうぞ」
「うわぁ、美味しそう! ありがとうアイルちゃん! ふぅ~……っ、んぐんぐ、ごくん、美味しい!」
予備の器によそってヘラルドの前に置くととても美味しそうに食べてくれた、作った者としては嬉しいリアクションだ。
「うふふ、よかった。スープはたくさん作ってあるからおかわりが欲しかったら言ってね」
「え? もしかしてこの食事アイルちゃんが作ったの?」
「そうよ」
「えぇ~!? 凄いね、アイルちゃんは料理上手なんだね」
「やだなぁ、褒めすぎだって~! あ、まだ口つけてないからこの照り焼きも味見してみる?」
「いいの!? それも凄く美味しそうで羨ましかったんだよね」
褒められて気分の良くなった私はお箸で照り焼きチキンを割ってパンで挟んで渡した。
「!! これも凄く美味しいよ! アイルちゃんはいつでも良いお嫁さんになれるね!」
最後の言葉でスンッとテンションが下がってしまった、お嫁さん…、早々に隆臣と結婚してたら加奈子に突き飛ばされてここに来る事も無かったんだろうなぁ。
そしたら今頃子供の1人や2人いてもおかしくなくて…。
「……ちゃん、アイルちゃん大丈夫?」
沈んだ意識が浮上して我にかえると皆に注目されていた、危ない、変に闇落ちしてた気がする。
「あはは、ごめんごめん、疲れて眠くなってたのかも」
「馬での移動は初めてだから疲れたんじゃねぇ? 今日は見張りせずに寝ちまっていいぞ、なぁ?」
ホセが言うと皆は頷いてくれた、優しいなぁ。
「ありがとう、確かに太腿とお尻が凄くヒリヒリしてるし、もう筋肉痛になりかけてるみたい。早く寝て明け方の見張りをするよ」
「そうね、そうしたら起きてすぐ朝ごはん食べられるでしょうし? 夜が明けたら朝食の準備よろしくね」
「うん、任せて!」
私のせいでちょっと変な空気になったけど、ホセとビビアナのお陰でなんとか元の空気に戻った。
夜の見張りは護衛である私達がする契約なのでヘラルドは食後すぐに自分のテントへと引っ込んだ。
リカルドによるとヘラルドは寝たら魔物が出ても目を覚まさないタイプらしい。
私としてはもしもの時に魔法を使ってもバレるリスクが低くなるのでその方がありがたいけど。
ヘラルドが見てないのを良い事に、食器はしっかり洗浄魔法を掛けてストレージに放り込んだ。
結局天気は曇りのままだったので念の為に障壁魔法をテントから馬達が居る場所まで半径100mで展開してからテントで眠る。
疲れていたせいか夢も見ずにぐっすり眠っていたら、突然ゾワッと知らない人に身体を触られたくらいの不快感に襲われた。
張った障壁に攻撃が加えられたのだ、すぐに隣で眠っていたビビアナを起こしてテントを飛び出す。
焚き火の灯りが届かない暗闇から犬の唸り声が複数聞こえる、エリアスが見張りだったのか、起こされて少々眠そうにしているホセとリカルドがテントから出てきた。
もし私が予測した様に狂犬病の犬なら噛まれたら血清も無いしアウトだ、先に確認しておこう。
私がこんなに狂犬病を警戒してしまうのは狂犬病を発病した設定の漫画を複数読んでしまったせいだろう、全部悲しい結末だった。
「明かりを嫌がるなら病気を持ってるから怪我させられるだけでも危険だよ、だからまずは確認するね」
「え? 何を…」
「『
「「「「ギャインッ」」」」
目を閉じて暗闇に向かって光を炸裂させると犬達は明らかにダメージを受けた声を上げた。
「!! ダメージ受けてる、やっぱり狂犬病みた……どうしたの!?」
振り返って皆に話しかけると何故か4人共両手で顔を押さえて天を仰いだり蹲ったりしていた。
「どうしたの、じゃねぇよ! 暗闇にあんな光出したら誰でもダメージ受けるわ!」
…………あっ。
てへぺろ。
まだ目が眩んでいるのか眉間に皺を寄せたまま何度も瞬きを繰り返すホセに叱られてしまった。
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