第43話 初めての騎乗
「準備はいいか? 門前広場へ向かうぞ」
リカルドの言葉で家を出て歩き出す、昨日は煮物のつまみ食いを叱られたホセが「何でオレだけ」「皆だって」「何で助けてくれねぇんだ」とか聞こえないくらいの小さな声で何やらブツブツ言いながら機嫌を悪くしていたけど、今朝には機嫌も直っていた様で良かった。
ホセはお手伝いを1番してくれているけど、その分匂いに負けて味見ではなくつまみ食いをして叱られる事も多いせいか昨日は誰も助け舟を出して貰えなかったのだ。
それどころか助けを求めて他の3人を見ても視線を逸らされていた、その後3人バラバラのタイミングでカボチャを使った夕食をリクエストされた。
カボチャはホセの好物だというのはこれまで一緒に暮らしていて気付いた、何だかんだ皆に愛されてるんだなぁとほっこりしたり。
ホワイトソースは普通に作れるからカボチャのシチューにしたけど、やっぱりお気に入りメーカーのルゥのレベルには程遠い。
カボチャの時だけ隠し味に蜂蜜を使うので、投入後は最低10分クツクツ言わせてからホワイトソースを入れる。
じゃないと蜂蜜のなんとかって成分のせいでとろみが無いシチュー味のスープになってしまう、というか昔1度やらかした。
夕食の時も3人のリクエストって聞いて不貞腐れた顔してたけど、尻尾は素直に揺れていた。
そのお陰か今朝はいつも通りのホセだった、そうじゃなくても一晩経つと大体の事は気にしてないというか忘れてるみたいだけど。
「やぁ、久しぶり。今回も頼むよ」
「ああ、任せてくれ。あ、新しく入ったアイルだ。アイル、時々護衛依頼を受ける商人のヘラルド、今回の依頼人だ」
藍色の髪に水色の目をしたリカルドと同い年くらい…あ、27歳か。 優しそうなお兄さんという雰囲気の人を紹介されて軽く会釈した。
「へぇ、君がアイルちゃんか。ギルドで噂を聞いたよ、凄腕なんだって? 小さいのに凄いんだねぇ」
ヘラルドの言葉に皆が「あっ」という顔をした、恐らく私の表情が変わったからだろう。
今の小さいは身長じゃなくて年齢の事を言った、しかも1桁の年齢と思ってる様な物言いだし、間違いない。
「はじめまして、商人なら審美眼は大切ですよ? あなたはまだまだの様ですね」
にっこり微笑んで言ってやった、目利きが命の商人なら間違えちゃダメでしょ。
私の態度と物言いに戸惑っているヘラルドにリカルドがそっと耳打ちした、きっと年齢を教えているんだろう。
「え…っ、あ、えぇっ!? そ、それは…申し訳ない…。アイルちゃんの言う通りまだまだの様だ…」
ポリポリと頭を掻きながら謝ってくれた、私もちょっと大人気無い態度しちゃったし許してあげましょう。
「うふふ、自分の非を認める事が出来る人はこの先も伸びますから大丈夫ですよ」
「ははっ、アイルは時々すんげぇ大人みたいな事言うよな。普段はお子様だけどよ」
「ムッ! 普段も大人でしょ!? ホセの方が子供じゃない、つまみ食いするし!」
「あっ、ソレを言うか!? ちゃんと謝ったしあれだけ怒ったクセに!」
「ハイハイそこまで! ヘラルドが困ってるよ、馬を取りに行かないといけないし」
エリアスがパンパンと手を叩いてその場を諌めた。
ヘラルドは商売を始めた元冒険者のひいひいお爺さんが遺してくれたマジックバッグを代々使っているので馬車ではなく馬で行き来しているらしい。
ホセ以外は武器を持っているので乗馬初体験の私は必然的にホセに乗せて貰う事になる。
この世界の馬はサラブレッドより少し大きいので
く…っ、さっき言い合いしたから素直にお願いしづらい、それをわかっててニヤついているのだろう。
人目が無ければ浮遊魔法で簡単に乗れるのに…!
「……せて」
「うぅん? どうした?」
わざとらしい! 獣人の聴力なら余裕で聞こえてるくせに!!
ふと閃いた私は視線を逸らしたまま更に小さい声でポソポソと呟いた。
「あ~あ、帰ってきたら手間が掛かるからあんまり作りたくないカボチャのコロッケ作ろうかと思ったんだけどなぁ。そっかぁ、ホセがそんな意地悪するならやめておこうかなぁ」
普通のジャガイモのコロッケは既に作った事はあるし街の食堂でもメニューにある、そして手間が掛かる事も手伝ったホセは知っているのだ。
そしてまだ食べた事の無い(少なくとも街中では見た事が無い)カボチャのコロッケという言葉にホセの耳がピクリと反応したのを視界の端で確認した。
「ホ「しょうがねぇな~、届かねぇんだろ? オレが乗せてやるよ」
ここで私が折れて普通に頼んだらカボチャのコロッケが食べられなくなると思ったのだろう、ホセの名を呼ぶ間も無くヒョイと馬の上に乗せられた。
やっぱりさっきの「届かないから乗せて」って言ったの確実に聞こえてたじゃない!
斥候役のホセを先頭に門を抜けてトレラーガとは反対方向へと向かう。
後方はエリアス、ヘラルドをビビアナとリカルドが挟む陣形で護衛しつつ、馬がすぐに疲れない程度の速度で進んで行く。
急いで無い分後ろから時折り和やかな会話が聞こえて来る。
「アイルちゃんが入って前より賑やかになった様だね」
「そうだな、パーティも家の中も随分雰囲気が変わったと思う。もうアイルが居ない『
いやぁ、照れますなぁ。
照れてエヘヘと笑っていたらホセが笑いながら頭を撫でてきた。
「おや、何だか曇って来たね。雨は降りそうに無いけど今夜の野営で狼が出たり…なんてね!」
和やかな会話で油断してたらヘラルドが見事なフラグを立ててくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます