第42話 野犬注意

 結局昨日は1日皆でまったり過ごし、今日はギルドへ向かう事になっている。

 昨日多めに作った豚カツでお昼用にカツサンドのお弁当も持った。



 ギルドでは暫く居なかったせいか街に到着した時居なかった冒険者の内、結構な人数がおかえりと声を掛けてくれた、むふふ、私も結構冒険者達に馴染んできてるわね。



 依頼掲示板クエストボードの前で依頼を見ていると、端の方に警告が張り出されていた。

 へぇ、神出鬼没の野犬の集団が近隣の街道で人を襲ってるのか、夜だけって事は長距離移動の人達狙い…って、野犬がそんな事考えたりしないか。



「アイルったら、難しい顔してどうしたの?」



 無意識に眉間に皺が寄っていたらしい、ビビアナに人差し指で眉間をスリスリと撫でられてしまった。



「野犬が出てるんだって、ほら、この張り紙。先週から出てるらしくて、トレラーガからの帰りに襲われててもおかしくなかったなぁって思って」



「ふぅん、月の無い夜に現れる…ねぇ。そういえばあたし達が野営した夜は月が綺麗だったわね」



 そうか、そういえばそうだったかも。

 だから野犬に襲われなかったんだろうか、C級の冒険者すら殺されてる上に凄い数の咬み跡が残ってたって事は集団だよねぇ。

 月の無い夜しか出ないなんて、それこそ狂犬病に感染してる野犬集団なんじゃ…!?



 あ、でも狂犬病だとしたら先週からならそろそろ死んじゃうかも、まさか少しずつ野犬集団内で感染を広げながら…なんて事ないよね?



「あ~…、そんな悪いニュースの後で言いづらいんだが…。2日後からの護衛依頼を受けてもいいか? 以前エリアスが脚を怪我した時に馬車に乗せてくれた事のある商人だから受けたいんだ」



 リカルドが申し訳なさそうに手にした依頼札クエストカードを私達に見せた。



「大丈夫よ、野犬の心配なんてしなくていいわ、私がついてるもの! あとホセの鼻」



「オレはオマケかよ! まぁ、確かにアイルが居たら心強いな」



 リカルドを安心させる様に胸を張って親指で自分の胸を指して言うとホセにツッコまれてしまった、ホセの鼻も頼りになると言いたかっただけなんだけど。

 結局今日は素材採取、明日は準備で明後日に出発という事になった。



「何だかいつもより静か…?」



 森に到着して感じた違和感、いつもなら暫く歩けば魔物の1匹くらい遭遇するのに出て来ない。

 探索魔法を使うと魔物の分布が偏ってる様だ、何か強い魔物でも降りてきていたんだろうか、今は近くには居ないみたいだけど。



赤猪レッドボアはあっちの方にいるよ」



「わかった、アイルが居てくれて助るよ」



「ふふふ、そうでしょうそうでしょう」



 胸を張って意気揚々と歩いていたらぬかるみに足を取られた様で転びそうになる。



「ひゃあっ」



「おっと、アイルは調子に乗るとすぐやらかすから気をつけろよ、ククッ」



 咄嗟にホセが支えてくれたお陰で転倒は免れた、ここ数日雨は降って無かったはずなのに何でぬかるみがあるんだろう。

 そう思って足元を見ると、そこには血でぬかるんだ地面が。

 近くには食い散らかされた赤猪レッドボアの、恐らく1体分の死骸がしていた。



「ぎゃあっ、何コレ!? 何でこんな状態に…!」



「道理でさっきから血の匂いがすると思ったぜ、てっきり誰かが討伐でもしたのかとおもったけど…。この惨状じゃあ違うみてぇだな」



 どうやら血の匂いに人族が気付く程新しくもなく、腐った匂いがする程時間が経っていない様だ。

 血塗れになったブーツを洗浄魔法で綺麗にして赤猪を狩りに向かったが、何とも言えない不気味なものを感じながら森を進む。

 その後、拍子抜けするくらい何も起こらず赤猪を見つけて討伐し、森を抜けた。



「あの赤猪何だったんだろうね…」



 帰り道にポツリとエリアスが呟いた。



「確かにアレは普通じゃ無かったな、一応ギルドには報告しておこう」



 何とも言えない気持ちのままギルドに報告して家へと帰った。

 最近市場で里芋や蓮根を見かける様になって来たので明日の為に煮物を仕込む。

 夕食はいくつか半端な量になってるおかずを全部放出する予定なので気にしなくていいし。



 モヤモヤした気持ちを払拭すべく、一心不乱に材料の皮を剥いて切る。

 当たりとして2つだけ人参を花の形に飾り切り、気付いてもらえるかなぁ。

 鍋で鶏肉を始め材料を炒め始めるとホセが現れた。



「今夜は鶏肉か~?」



「ざんねーん! これは明日の分でした~」



 煮物には日本酒を入れたいんだけど売ってないんだよね、王都で透明なお酒を飲んだ事あるって冒険者は居たけど、もしかしたらウォッカやテキーラという可能性もある。

 それはそれで欲しいっちゃ欲しいんだけどね。



 アクを取り、砂糖を入れて暫く煮込んで醤油を入れてまた煮込む、仕上げに塩で味を整えて…こんなもんかな?

 さやえんどうが無いから彩りがイマイチだけど仕方ない。



「なぁアイル、何で調味料まとめて入れねぇんだ?」



 今日の味見は煮汁しか出来ないというのに、味見要員として動こうとしなかったホセが聞いてきた。



「えーと、砂糖と塩だと溶かしても目に見えない小さい粒になると思ってね。その粒を拡大すると砂糖は砂利、塩が砂のサイズくらい違うんだけど、この器を具材だとすると先に砂が入ってしまったら後から砂利は入らないじゃない?」



 思い浮かべているのかホセは天井を見ながら手をフワフワと動かしている。



「でも砂利を入れてからでも砂は隙間に入り込むでしょ? だから先に砂利サイズの砂糖を馴染ませてから砂サイズの塩や塩が使われている醤油を入れてるの、わかった?」



「へぇ…、アイルは物知りなんだな」



 頷いてるけど、なんだろう…、ホセが理解する事を放棄した気がする。

 溶けてるのに砂利や砂って言ったから想像しにくかったんだろうか。



 味を染み込ます為にストレージに入れずキッチンに鍋を置いたままにしておいたら、お風呂から出てからもう1度軽く煮詰めようとしたら何故か中身が減っていた…。


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