第493話 やらかし報告

「で? 今回はいったい何をやらかしてきたの!?」



 メイドの一人がお茶を淹れてサロンから出ていくと、とてもわかりやすくワクワクした顔でエリアスが聞いてきた。

 おとなしくしているように見えるエンリケも、何気に目の奥が楽しそうに笑っている。



「そんなに大した事は無いよ。フェリスを結婚させてきたんだけど、その時にちょっと口を滑らせたというか……けど、ちゃんと誤魔化してきたもん」



「え!? ちょっと待って、情報がおかしい。あのお嬢様結婚したの!? 吐く程泣いて部屋に閉じ籠っているんじゃなかったっけ?」



 ホセには移動中にチラッと言ったから驚いてないけど、エリアスはソファから腰が浮くくらい驚いたらしい。



「皆わかっていると思うが、この情報は秘密厳守だぞ。一応依頼として受けたからには守秘義務が発生するからな。そのためにエドガルドやガブリエル達には聞かせないようにしているんだから」



 興味深そうに聞く三人にリカルドが釘を刺した。



「あれ? そういえば依頼料って受け取ったっけ?」



「ああ、アイルがフェリシア嬢……おっと、もうプエルタ夫人と言うべきか。二人が着替えている間にサインも依頼料も受け取ったぞ」



 そっか、フェリスはもう夫人だっけ。レオカディオが爵位を継ぐまでは伯爵夫人とは言わないからただの夫人か。

 確かにあの時は一時間以上待たせたもんね、時間はたっぷりあったはず。



「もうっ! それより報告! 早く話して欲しいんだけど!?」



 話が脱線したせいでエリアスが急かしてきた。

 ホセとエンリケも頷いている。

 リカルドは一度私をチラリと見てから口を開いた。



「今はプエルタ夫人となったが、エンリケ以外会った事のある公爵令嬢は、自分の体調不良を病気と思い込んでいたんだ。しかしアイルが妊娠してると気付いて報告したら、当然の事ながら騒ぎになってな……」



「タリファスじゃあ特に騒ぎになるだろうね、しかも公爵令嬢が未婚で身ごもっただなんて聞いた事ないよ」



 私達と出会うまでタリファスにいたエンリケは肩をすくめた。

 どうやらタリファスは他の国よりそういう事には厳しいらしい。



「ああ、実際勘当されそうだったが、公爵令嬢を守ろうとする婚約者をアイルが気に入って手を貸す事にしたんだ。それでアイル本人が結婚の承認者として署名する事になって、公爵家で略式の結婚式をしてきたんだが……」



 そこまで話すと、リカルドは額を押さえてうつむいた。



「おいおい、本当に何を言ったんだ? さっき口を滑らせたって言ってただろ。誤魔化したとは言ってたがよ、リカルドを見る限り誤魔化せてねぇな」



 俯いたリカルドを見て、ホセが私をジロリと睨んだ。



「その……、うっかり結婚証明書に署名した後に女神の化身の名において二人を祝福するって……」



「「「はぁ!?」」」



 三人の声がハモった。エンリケが驚きの声を上げるのは珍しい、改めてそれだけヤバい事を言ったんだという自覚をして掌に汗が滲んだ。



「だけどね!? ちゃんと感極まって大げさに言っちゃっただけで、正確には女神さまの使徒だって言い直したから!!」



「「「…………」」」



 やめて、三人揃って無言にならないで。



「そ、その後は何も言われなかったし、大丈夫だよ…………たぶん(ポソ)」



「ん・な・わ・け・ねぇだろうが!」



「痛い痛い!」



 久々にホセのアイアンクローが炸裂した。

 皆呆れた顔をしているだけで助けてくれないなんて酷い!



「で、実際のところどうなの?」



 エンリケがリカルドに話を振った。



「余計な事を言って『女神の化身』に目を付けられたくない、というところだろうな。問題はその場に教会の人間がいたということだ。しかも司教と司祭の二人」



「うわぁ……、一人だったら聞き間違いだって言い張ればなんとかなりそうなのに、二人だったら誤魔化しようがないじゃないか。これは……来るね」



 エリアスが顎に手を当てて真剣な顔をした。



「へ!? 何が!?」



「彼らだよ。きっと教会本部に連絡が行ってるはずだから、カリスト大司教達が確かめに来ちゃうんじゃない? そうなったらもう終わりだよね。だって、今のアイルは一緒に行動した頃と完全に見た目が違うんだもん、以前のアイルを知ってるから誤魔化ようがないし」



「そそそ、そんな。言い間違えたって言った事をわざわざ報告するかなぁ、本部に後で間違いでした~なんて言えないだろうから報告なんてしてないと思うな、うん」



「公爵家に来てたやつらの度胸しだいじゃねぇ? オレだったら間違いかもしれねぇって事も含めて報告すると思うけどな。報告しなかった時の方が大事おおごとになるってのはよくあるしよ」



「だよねぇ、僕ら冒険者は大抵そうするね」



 ホセの言葉にエリアスが頷いた。

 よし、心を落ち着かせるためにもお茶を飲もう。紅茶に口をつけようとするけど上手く飲めない、左手に持ったソーサーにボタボタとお茶がこぼれている。



「あはは、落ち着きなよアイル、動揺し過ぎだって」



 エンリケが濡れたカップとソーサーを引き取り、新しいものと交換してお茶を渡してくれた。



「ありがと」



「どういたしまして。もしも女神の化身って事がバレて騒ぎになったら、騒ぎが収まるまで俺が一緒に旅してあげるよ。俺が『希望エスペランサ』に入ったのは大氾濫スタンピード以降だから姿絵は広まってないし、アイルが幻影魔法で姿を変えれば騒がれる事もないでしょ? 万が一の時はそんな最終手段があると思えば安心できるんじゃない?」



「うん……、だけど……」



「日にちや時間を指定して転移すれば『希望エスペランサ』の皆といつでも会えるし、対策を考えたら戻ればいいんだよ」



 皆と離れるのは寂しい、そう言おうとした私の心を読んだかのようにエンリケはさとした。



「ふふふ、そうだね。その時はお願いしようかな。ありがとうエンリケ」



「俺もある意味アイルのお陰で『希望エスペランサ』に入れたからね、ほんのお礼だよ」



 そう言ってほほ笑んだエンリケは凄く頼もしく見えて、自然と私も笑みがこぼれる。

 竜人りゅうびとなのに普段は影が薄いな〜とか思ってごめんね、と心の中で謝った。




◇◇◇


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