第401話 森からの帰還

「さて、自己紹介も終わった事だし今度こそ帰るか。レミエルも自分の面倒は自分で見るならついて来ていいぞ」



 私達は改めてお互い自己紹介をし、皆荷物を背負って立ち上がった。



「ありがとう、助かるわ」



 リカルドに向かって微笑むレミエルの姿はエルフの名に恥じない美しさだ、さっき見た涎垂らしていた姿が幻だったのかと思う程に。

 レミエルはお腹が満たされると凄くまともな人に見えた。



 そしてどうやら魔力のコントロールが苦手という事もわかった、腕熊アームベアの話を聞いた時からもしやと思っていたけど、魔力量が私程ではないけどかなり多い。

 魔力量が少なくて良い簡単な魔法は意識せず使えるが、ある程度まとまった魔力が必要な攻撃魔法となると暴発に近い発動の仕方をする。



 本当は食材となる魔物を獲って食べようとしていたのだが、風魔法で木までぎ倒して赤猪レッドボア角兎ホーンラビットが潰されたり、回収するのが難しいくらい細切れになっていたり。



 これ以上森を破壊させない為にも私のストレージに入っている食事を売るという提案に全員が賛成した、ちなみに最も強く賛成したのはレミエルである。

 それにしてもエルフと言えば弓の名手だというイメージなんだけど、共に行動して2日目の昼だが使ったところを1度も見ていない。



 ガブリエルや他のエルフも魔法を使ってるところは見ても弓を使ってるところを見た事無いかも。

 もしかしたらエルフが弓の名手というのは物語の中だけなのだろうか。

 昼食の時に聞いてみる事にした。



「ねぇレミエル、私ずっとエルフは弓の名手って思ってたんだけど、本当は違うの?」



「…………よ」



「え?」



「私以外は基本的に名手よ!」



 どうやら私は地雷を踏み抜いてしまった様だ、これまで一心不乱に食事していたレミエルの手が途中で止まっている。

 仲間達の視線が痛い、何とか空気を和らげないと!



「そ、そうなんだ、これまで会ったエルフ全員弓を使ってるとこ見た事無かったから知らなかったよ」



「ガブリエルの弓は百発百中よ、私は…エルフの出来損ないなの、魔法は下手だし弓もろくに扱えないし…。だからガブリエルは私を見限って里を出て行ったんだわ…! ひっく、うぅ…っ、ぐすっ」



「あ~あ、アイルが泣かせた~」



 あわわわわ、和ませるどころか泣かせてしまった、エリアスがすかさず私を責めた。

 リカルドとエンリケは苦笑いを浮かべ、ホセは呆れている。



「レミエル泣かないで、人には得手不得手があるんだから得意なものを伸ばせば良いんだよ…!」



「私に得意なものなんて無いもの~! あぁ~ん!」



 レミエルが子供みたいに号泣し始めてしまった、こんな時は女の子の扱いに慣れてるエリアスの出番でしょ!

 助けを求めてエリアスを見たが、明らかに面白がって目を逸らされた。



「ガブリエルが里を出たのは魔導具の研究がしたかったからだろ? あいつ自分に婚約者が居るなんて知らねぇんじゃねぇの? レミエルがどうとかで里を出た訳じゃねぇだろ」



「だ、だよねぇ! 真相はガブリエルに会って聞けば良いよ、住んでるところも知ってるから必ず会わせてあげる!」



 助け船は意外な事にホセから出された、たとえ向けられているのが物凄く呆れた眼差しだろうとレミエルを泣き止ます事ができたから感謝するよ!

 思い込みだけで悲しむのは損だからと説得し、何とかレミエルの気持ちは持ち直した。



 とりあえずウルスカに到着するまでガブリエルと魔法と弓の話はやめておこうと心に誓った。

 帰りは日程に余裕があるという事で食材系魔物を討伐しながら進む。



 レミエルにはパーティの収入になる物だからと手出し無用をお願いしたが、実際は素材をダメにされない為の方便だ。

 レミエルと出会って3日後、私達は森の浅部まで戻って来た。



「やっと森の切れ目が見えて来たね、レミエル、あそこの明るいところが森の外だよ。そういえば私が受け取ったお金ってどうやって手に入れた物なの? 町で生活出来るくらい持ってるなら良いけど、宿は大体1日銀貨3枚くらいだよ、足りそう?」



「ええ、私達の里では各地に住むエルフからの依頼で里の周りでしか手に入らない素材を取り引きする事で現金収入を得ているもの。つつましく暮らせば10年生活していけるくらいは持ってるから安心して」



「へぇ、なら安心だね。私も1度はエルフの里を見てみたいなぁ、世界樹とかあったりするの?」



 何気無く聞いた瞬間、レミエルのまとう空気が一変した。



「アイル…、なぜ世界樹の存在を知っているの!? まさかそれも女神様に聞いたとでも!?」



「世界樹って何だ?」



「僕も聞いた事ないや」



 リカルドとエリアスは首を傾げている、ホセは…興味無いだけだね。

 エンリケは心当たりがあるのか何か考えている様だった。



「いやぁ…、私の知識ではエルフの里には世界樹があるっていうのがお約束っていうか、当然だと思ってたんだけど、違うの? 人族や獣人には存在が知られてないみたいだけどさ」



 思った事を素直に言うと、レミエルの張り詰めた空気が緩んだ。



「なるほど、賢者と呼ばれるだけはあるって事ね…」



 なんだか微妙に誤解されてる気がしたけど、落ち着いてくれたならいいか。

 とりあえずガブリエルに会わせて丸投げすれば色々説明してくれると信じよう。



 森から出て久々に木に遮られない灼熱の太陽に晒されながら、私達はウルスカの町へと歩き出した。



◇◇◇


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