第286話 みんないっしょ
【三人称です】
「何なんだ、あいつ…」
ホセは胸に手を当てて数秒考えたものの、何も思い浮かばず魚を取りに行ったアイルの背中をチラリと見た。
「ホセはダメだねぇ」
「これはわかってないな」
「俺でもわかったのに」
「ふぅ、ホセだもの」
仲間達から口々に言われ、残念なモノを見る目を向けられたホセはわかりやすくムッとした。
「しょうがないなぁ、僕がヒントをあげようか。これは貸し1つだからね?」
エリアスに貸しを作ると
「おかえり、アイル、僕も秋刀魚食べたいな」
「わかった、ちょっと待ってね」
アイルが戻って来るとエリアスは秋刀魚を
「う~ん、美味しそうだねぇ。アイル、ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
エリアスとアイルが微笑み合う、そんな遣り取りを見ていたリカルドとビビアナがジッとホセを見た。
そこまでされればさすがのホセも何故アイルが怒ったのか分かったが、改まってお礼を言うにはタイミングを逃している事もあり言い出しにくい。
アイルは秋刀魚の店舗が見える位置…ホセとエンリケの間に座り、真剣な顔で秋刀魚を焼いているお兄さんを眺めていて、特に怒っている様子も無い。
仲間達だけでなくカリスト大司教や聖騎士達まで視線で早く言えと催促している。
ホセが口を開いては閉じる、という行動を3回したところでエリアスが見かねてアイルに声を掛けた。
「アイル、ホセが何か言いたそうにしてるよ?」
「え?」
そう言った後、エリアスの口は声を出さずに「これで貸し2つね」と動いたのをホセは見た。
内心勝手に増やすなと思いつつも、お陰でアイルがこちらを向いた事に間違いは無い。
ホセは気不味くて目を合わせられないまま、後頭部を掻きつつ口を開いた。
「その…、悪かったよ。けど、感謝はしてるんだ…、いつもありがとな」
アイルは「母の日か!」とツッコミたくはなったが、ちゃんと気付いてくれた事が嬉しかったので
目が合わないホセの顔を両手で掴んで自分の方を向かせると、動揺して瞳を揺らすホセとやっと目が合った。
「ふふふ~、お礼を言う時は相手の目を見るのが礼儀ってもんだよ~?」
「わかったよ、いつもありがとう」
ホセは機嫌が直ったアイルにホッとして眉尻を下げて口元を緩め、ユラユラと尻尾を揺らした。
その様子に周りはホッとしたというより、ニヨニヨと生温かい目で見守っている事に2人は気付いていない。
「あっ、次の秋刀魚が焼けたみたい! 6匹ずつだと先に焼いた分がちょっと冷めてたから3匹焼ける
2人がニコニコと微笑み合っていたかと思うと、アイルの視界の端に秋刀魚が焼けた合図をするお兄さんが見えた。
ホセの顔をペイっと放り出して屋台へと向かうアイル、放り出された事によりバランスをくずしてテーブルに突っ込みそうになるホセ。
「………なぁ、コレは礼儀以前の問題じゃねぇ?」
「いやぁ、これはこれ、さっきのはさっきの問題だから普通に怒って良いと思うよ?」
笑顔で言い切るエリアスに周りは呆れた目を向けるが、エリアスは気にしない、何故なら船の上といいこの島といい戯れる女性が居ないので暇なのだ。
正確には女性は居るが、会話以上に楽しもうと思うとすぐに家族が出て来て結婚させられてしまいそうなので
幸いこの島は1つ目の島と違い、潮の流れによっては1日半程で大陸と行き来出来るのでそこまでガツガツ来ない。
それでもチャンスがあればと狙われている視線を広場に来た時から感じていた。
故に普段からも2人を
少ししてホクホク笑顔のアイルが戻って来て元の位置に座る。
ホセは肘をついて不機嫌だとひと目でわかる表情のままアイルをジトリとした目を向けた。
「どうしたのホセ、何かあった?」
アイルはキョトンとして首を傾げた、自分が原因で機嫌が悪いなどとは全く思っていない様子にホセの眉間の皺は更に深くなった。
「お前…、さっきまで礼儀がどーの言ってた割にオレの扱い酷くねぇ? 掴んだ顔を放り出すだなんて初めてされたぜ」
「え? あ、ごめんね…、でも食べる時に熱々の方が美味しいでしょ?」
「そりゃそうだけどよ」
「しょうがないよホセ」
身長差のせいで上目遣いのアイルに言われて丸め込まれそうになっているホセ、そこへさっきまで怒って良いと言っていたエリアスが何故か
しかし次の瞬間、その笑顔の意味を知る。
「だってアイルは食いしん坊なんだから」
「ッ!?」
「「「「「「「ふぐぅっ」」」」」」」
アイル以外が吹き出しそうになった、しかも教会関係者達まで。
アイルが自分だけ食いしん坊から除外していたのをエリアスは何気に認めておらず、その事実を突きつける機会を狙っていたのだ。
いっそ普通に笑って欲しいと思う状況にアイルは逃げる様に焼けた秋刀魚を取りに行き、退屈が少しまぎれたエリアスはにっこりと微笑んだ。
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