第457話 新しい夜の店
「道中気を付けて。帰りに寄ってくれるのを楽しみに待っているからね」
「うん、エドもお仕事頑張って、あんまりアルトゥロを困らせちゃダメだよ?」
「はは、肝に銘じておくよ」
ホセとさっきまでエドと話していたエリアスは御者席に、リカルド達も馬車に乗り込んでいる。
私も乗り込もうとしたけどエドに話しかけられ、更に両腕を広げて構えていたのだ。
そういえばセゴニアから一緒に旅してる間は毎日の様にハグをしていたっけ、もう随分と前の気がする。
軽く抱き締めるとエドがくぐもった声を漏らした、そういえば身体強化掛けてるんだった、他の皆に身体強化掛けてる事バレると面倒なので慌てて力を緩めて離れる。
「ご、ごめんね、強く抱き締め過ぎたよ」
「アイルに抱き締められてだったら、骨が折れても本望さ」
凄く良い笑顔で言われ、これで普通に「大丈夫だよ」とか「気にしないで」という返しだったらこんな微妙な気持ちにはならなかったんだろうな。
「…………じゃあ行くね」
「ああ、いってらっしゃい」
アルトゥロに呆れた目を向けられながらもニコニコと見送っている、時々私を引かせて楽しんでいるのかと疑ってしまう。
私も馬車に乗り込むとホセが馬車を走らせた、どうやら花街での話はトレラーガを出てからにするらしい。
ホセとエリアスは特に話をする事も無くトレラーガの町を出た、しかし車内はウルスカを出てからずっと楽しそうなガブリエルが会話を広げている。
カマエルやタミエルと比較すると、
トレラーガを出て数分、街道には他にも馬車が走っているが適度にバラけて会話が聞こえる距離にはいなくなった。
御者席の二人が、そろそろ話を始めるだろうと、私は会話を続けながらもそっと耳に神経を集中させる。
男脳だと出来ないと言われるラジオを聞きがら会話する状態。
テレビを見ている時に話しかけられて怒る男性は多いが、なぜ女性が話しかけるかというと自分がテレビを見ながら会話する事が出来るからだ。
他に有名なのは女脳だと立体的に考えるのが苦手だから地図だけで目的地に行くのが困難だったり、車のバック駐車が苦手というのがある。
そんな情報はこの世界では無いだろうから、会話しながら御者席の二人の会話を盗み聞きしてるなんて夢にも思わないだろう、クククク。
『なぁ、そろそろ話しても良いと思わねぇ?』
おっと、予想通りホセがエリアスに催促をし出した。
『あはは、そうだねぇ、馬車の中もいつもの様にガブリエルが楽しそうに話してるからアイルに聞かれる事もないでしょ』
ふふふ、狙い通り。
ニヤリと笑いそうになるが、皆に不審がられては困るので会話をしつつ自然に笑みを浮かべる。
『で? 新しい店ってどんな店だったんだ?』
『えっとねぇ、二階が連れ込み宿になってる酒場ではあるんだけど…入り口が奥まってて変わってるなぁって思ったら中にはなんと…』
『なんだよ、
『薄暗い店内で男物のシャツを羽織っただけの下着姿の女の子達が客と同じテーブルに着いてイチャイチャしながらお酒を飲んでたんだ』
『ハァ!?』
「ブゥッ」
「どうしたアイル?」
「え? あ、何でもない、虫が口に入ったと思って驚いたけど、
「何事かと思ったぞ」
「はは、驚かせてごめん…」
彼シャツとランジェリーパブの合わせ技みたいな内容に思わず吹き出してしまった、咄嗟に誤魔化したけどリカルドは信じてくれたみたいだからセーフ。
『なんかね、お店にいるのは娼婦になる程の度胸は無いけどお金が必要だとか、娼婦だけどあんまり固定客がいない子達らしいよ。二階が連れ込み宿になってて連れ込んでも良い娼婦は色付きのシャツで、
『アイツ前にウルスカに来た時に花街でしっかり情報収集して行ったみたいだもんな。じゃあ気に入った生成りシャツの女が居てもお預けって訳か?』
『まぁね、でも身体に触るのは許されてるから生成りのシャツの子もその気にさせれば二階で楽しめるみたいだよ』
『で? お前は生成りのシャツの奴を連れ込んだろ?』
『やだなぁ~、わかっちゃった? 僕だけじゃなくてリカルドもだからね! なんて言うか…ただ娼婦を買うんじゃなくて口説き落とすのが楽しいよね』
あわわわ、これ以上聞きたくないけど、今身体強化を解除したらきっとバレる。
リカルドも何度か呪文聞いてるから車内の全員が魔法解除の呪文を知ってるんだもん、聞かれたら盗み聞きしてた事がバレちゃうよね。
『口説き落とす…ねぇ、オレも頑張らねぇとな…』
『え? やっぱり帰りにはホセも行く?』
『
……………………はい?
『えぇ~!? ホセまだ諦めてなかっムグッ』
『バッカ! 声がでけぇよ!』
エリアスの口をホセが塞いだらしい、ホセ、ちゃんと手綱持ってね。
『ごめんごめん、驚いてつい。そっかぁ、だから花街に行かないって言い出したんだね、リカルドとどうしたんだろうって言ってたんだ』
『だってよ……やっぱりアイツが…アイルが良い…』
聞いちゃいけない事を思いっきり聞いてしまった、ホセが花街に行かなかった理由が私だったなんて…、そんな言い方されたら不覚にもキュンとしちゃったじゃない。
エリアスに冷やかされて怒ってる声が聞こえて来る。
「…ル、アイル、大丈夫? 顔が赤いよ?」
「へぇっ!? あ、うん、ちょっと暑いかな!? 出た時は涼しかったけど段々気温上がって来たし空調魔導具つける!?」
隣に座るガブリエルに声を掛けられたが、ホセの発言に気を取られていて声がひっくり返ってしまった、こんなの聞いちゃったら二人きりで寝るとかもう出来ないよ!
だけどずっとモフれないのは辛い、皆と同室の時なら意識しなくて済むだろうか。
「こんなに涼しいのに暑いだなんて…、もしかして体調崩してるのかい? エドガルドの所で数日休ませてもらえば良かったかな」
「だ、大丈夫だよ、ちょっと疲れてるだけだろうし『
治癒魔法じゃ体力は回復しないとか聞こえなーい!
大丈夫だと押し切り、今日の昼食のリクエストへと話題を変える事に成功した。
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