第458話 治癒魔法の検証

 あの後休憩するまでお店の詳しいサービス内容を話すのを強制的に聞く事になってしまった、リカルドが朝食の席で話を遮ったのが理解できたよ。

 ………そっかぁ、リカルドってば彼シャツがツボだったんだね、恋人が出来たらシャツを着せるのがポイントだよって教えてあげよう。



 休憩中お花摘みに行くついでに身体強化を解除した、車内で少々挙動不審になっていたかもしれないけど、トイレを我慢してたって事にすれば問題無いよね!?

 リカルドは貴族出身なせいか女性のデリケートな部分を深く探ろうとしないという点では安心なのだ。



 エンリケは自分にも秘密があるせいか何か気付いていても余計な事言わないタイプだし、エルフの三人は気付いてもいないと思う。



 ついでに本当に用も足して皆の元へと戻る、万が一の為に最中は隠蔽魔法、終わった後に洗浄魔法で綺麗にするので私の痕跡は無い。

 戻った時にホセと目が合い、さっきのセリフを思い出して動揺しそうになった、…が。



「スッキリしたか~?」



 揶揄からかいの色を浮かべてニヤリと笑うホセ、一瞬でもホセにキュンとして損した!!



「そういうとこだよ!? デリカシーが無さ過ぎる! ホセに恋人なんか出来ないんだからね! 出来ても3日で振られちゃうんだから!!」



 恥ずかしさと悔しさで顔が赤くなっているのが自分でもわかるくらい熱い、思った以上に私が怒ったせいか目に見えてホセが戸惑っている。



「お、おいおい、そんなに怒るこたぁねぇだろ? ちょっとふざけただけじゃねぇか」



「知らないっ」



 そんな風にケモ耳をヘタらせてもすぐにはゆるさないんだからね!

 プイッとそっぽ向くと私をなだめようとホセが手を伸ばしてきたのでピシャリと叩き落とした、するとさすがにホセもムッとして文句を言おうと口を開きかける。

 しかしそれより先にエンリケがホセに言った。



「アイルはちょっと身体の調子が悪いんだよ、だから気分も不安定になってるんじゃないかな?」



 あ、そういえば馬車の中でガブリエルが体調悪いのかと心配してたっけ、エンリケも話を聞いていたんだね。

 身体の調子は問題無いけど誤魔化す為に疲れてるとか言っちゃったせいかな。

 


「え? 大丈夫なのか? 熱は…無さそうだな、気持ち悪いのか? お前馬車酔いはしねぇだろ? 昨夜よく眠れなかったとかか?」



 ホセはさっきまで怒ろうとしていたというのに、今は心配そうにおでこや首に触れて熱を確認してくる。

 ぐぬぅ、そんな風に心配されたら揶揄われた事を怒り辛いじゃないか。



 そういえば異世界から来たって皆に話した時に熱出して寝込んだ時も孤児院で熱出して亡くなった子がいるからって凄く心配してくれたっけ、私は頬に触れているホセの大きな手に手を重ねた。



「本当に大丈夫だよ、……ホセのデリカシーの無さにイラっとしただけだから」



「あァ!?」



 心配してくれる優しさは嬉しいが、ソレはソレ、コレはコレ、という事でチクリと言葉で刺したらヘタっていたホセのケモ耳がピンと立って眉間にも皺が寄る。



「も~、僕達何を見せられてるのさ。アイル、ホセ遊んでないでそろそろ出発しようよ、馬達も水を飲み終わったみたいだから水桶片付けてくれる?」



 いいタイミングでエリアスが出発の催促をしてきた。



「はぁい。じゃあ次は私が御者するね、エンリケ、またソロ冒険者だった頃の話を隣に座って聞かせて欲しいな」



「うん、いいよ」



 ホセから逃れる為に先手を打ってエンリケに声を掛けた、馬車を走らせている御者席でなら百年以上前の話をしていても車内には聞こえないもんね、魔法の活用法とか色々と教えて貰えるから話を聞いていて楽しいし。



 舌打ちしながら馬車に乗り込むホセを横目で見ながらニヤリと笑う。

 エンリケはそんな私を苦笑いしながら見ていた。

 困った子達だなぁとでも思っているんだろうけど、積極的に仲裁をしたりしないんだよね、おじいちゃんと同じレベルで見守ってる感じがする。



 馬車を走らせながら魔導期の法律の事も聞いてみた、各国に資料とか残ってるだろうけど、その時代を生きてきた人から聞いた方が確実だよね。

 ちなみにエルフ三人は里に引き篭もっていたから当時の世情にはうといので戦力にはならないのだ、教会の為に旅してたウリエルからなら色々話を聞けるかもしれないけど。



「やっぱり皆が魔法を使えると犯罪も色々あるんだねぇ、それに取り締まる方も魔法を使えなきゃ返り討ちに遭うじゃない」



「まぁ皆が皆使える訳じゃ無いけどね、生活魔法程度なら殆どの人が使えるのが当たり前だったけど、攻撃魔法とか治癒魔法になると魔力の通り道の太さっていうか…適性が無いと難しいかな」



「そういえばガブリエルも治癒魔法の適性が無いって言ってたっけ」



「治癒魔法は特殊なんだよね、魔法式を知っていても擦り傷程度しか治せなかったりするから」



「私の前に来ていた三人の賢者の事を考えてもやっぱり人体の構造とか知らないと無理なのかも」



「だけど子供の頃から治癒魔法使える子も居るからそれだけじゃ無いみたい、アイルは治癒魔法と他の魔法で違いって無い?」



「う~ん…、普段意識してないからなぁ。『治癒ヒール』『氷弾アイスバレット』」



 感覚の違いを確認する為に自分に治癒魔法を掛けてから街道脇の林の手前に氷のつぶてを放った、氷なら溶けて無くなるから迷惑にならないもんね。



 ドドドドドコォッ



『何だ!? 襲撃か!?』



『魔物が出たの!?』



『落ち着け! そんな気配してねぇだろ! アイル、何があった?』



 治癒魔法と同じ魔力量で試したら思ったより氷弾が強力になってしまった様だ、車内で仲間の三人が騒ぎ出した。

 本当の事を言ったら怒られるやつだよね…、チラリとエンリケを見ると笑顔が素直に怒られようねと語っている。



「う…ちょっとした実験しました」



『……お前次の休憩で説教な』



 正直に言ったらしばらくの沈黙の後、ホセから地を這う様な声で宣告が出された。

 いいもん、今のでちゃんと治癒魔法と他の魔法の違いがわかったからエンリケとエルフ達に結果教えるのを条件にかばってもらうもんね。

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