第377話 おあずけ

「リカルド、エンリケ、おやすみなさい」



「「おやすみ」」



 リカルドが一頻ひとしきり興奮して落ち着いたのでベッドに入って横になった。

 寝る気になっていたところにノックの音が響く。



『おい、何を騒いでたんだ?』



 ドア越しにホセの声が聞こえた。



「もう皆ベッドに入って寝るところだから明日教えるよ、おやすみホセ」



『もう寝るってよ、戻るぞ』



『えぇ!? 明日までおあずけなの!? アイル~?』



 どうやらエリアスも一緒に来ていた様だ、不満そうな声で呼ばれたが、すぐに引き摺られる様な音と共に気配が消えた。

 リカルドとエンリケ小さな笑い声を聞きながらそのまま眠りにつく。

 そして翌朝、朝食には少し早い時間にノックの音で起こされた。



「おはよう、早いな」



 リカルドがドアを開けるとエリアスとホセが立っていた。

 私はベッドの布団の中でモソモソと着替え中である、ここの宿屋は空調魔導具に使用している魔石の魔力を節約しているのか少し室内の気温が低い。



「おはよう、エリアスがうるせぇんだよ」



「だってホセが昨夜ゆうべリカルドが凄く興奮して喜んでるって言うからさぁ。凄く興奮してるリカルドなんて見た事無いから何があったのか気になるでしょ。気になって眠れなかったくらいだよ」



「その割にはぐっすり寝てたけどな」



「ははは、その事を話すから中に入ってくれ」



 リカルドも何気に早く言いたくて仕方なかったのかもしれない、何だか嬉しそうに2人を部屋に入れた。

 この部屋は3人部屋なので小さめのテーブルには椅子が3脚ある、そこに座って話し始めた。



「ンンッ、実は…昨夜俺も魔法が使える事がわかったんだ」



「「はぁ!?」」



 リカルドが咳払いして報告すると、2人はガタンと椅子を倒す勢いで立ち上がった。



「落ち着いてくれ、魔法と言っても魔力の通り道が小さいとかで、アイルが補助をしてくれた状態でほんの小さな明かりが出せたくらいなんだ」



 手で2人に座り直す様に促しながら苦笑いを浮かべて説明する。

 着替えの終わった私からも布団から顔を出して補足説明をしておく。



「多分エリアスとホセも同じくらいには出来ると思うよ、だけど昨夜のリカルドを見る限り1人で発動させて使える様になるにはまだまだ先の話だね。少なくとも何年か経たないと無理かなぁ」



「じゃあさ、裏を返せば数年後だったら僕達も魔法が使えるって事!?」



 エリアスが目をキラキラさせて聞いて来た。



「使えたとしても初歩の小さな魔法だけだと思うけどね、所謂いわゆる生活魔法と言われる様なやつ。それこそ適性が必要な攻撃にも使える魔法は使えないからね」



「あれ? 女神様は適性のある人しか魔法は使えないって言ってたんじゃなかった? その初歩の魔法は適性が無くても使えるの?」



「たぶん簡単過ぎるものは魔法として考えてないんだと思う、火を付けるのも、飲み水を用意するのも魔法が無くても出来る事だもん。昨夜リカルドにも説明したけど、初歩の魔法は蝋燭くらいの火を出したり、ひと口分の水を出したり、松明程度の明かりを出したりするだけだから」



「へぇ~、だけど冒険者からしたらかなり便利な魔法だと思うけどなぁ」

「その程度なら確かに魔法が無くても出来るよな」



 エリアスとホセが同時に反応した。



「ホセ、何言ってるんだい、火を付ける道具も松明も持って行かなくて良くて、しかも水もその場で出せるなら荷物がうんと減るじゃないか!」



「けどよ、魔力が無くなりゃ結局必要になるんだから荷物は結局持って行く必要があるんじゃねぇ? それに大した荷物じゃねぇだろ」



「そんなの力も体力もある獣人だから言えるんだよ、僕は武器が槍っていうのもあるけど、極力荷物は減らして身軽でいたいからね」



「2人共落ち着け、俺達にはアイルもエンリケも居るんだから荷物の多さで苦労する事はないだろう? まぁ、一般論で言えば飲み水を持ち歩かないで済むのは凄く助かるはずだ、1回にひと口分しか出せなくても数回水を出せば十分喉を潤せるしな。そうすれば飲み水が無くなったからと川を探す必要も無い分時間の節約にもなるだろう」



「そうだよ、もしかしたらその川の上流で魔物が水浴びしてたり、あまつさえウン「わかったからみなまで言うんじゃねぇよ! 気持ち悪ぃだろうが!」



 ホセが私の言葉を遮ってきた、確かに私がパーティに入るまではその可能性のある川の水とか飲んでいただろうから、わかっていても再確認したくないんだね。



「だけど魔法かぁ、初歩でいいから使ってみたいなぁ。ビビアナの子供が魔法を使うのと、僕達が魔法を使える様になるのはどっちが早いかな?」



 エリアスはテーブルに頬杖をついてうっとりと言った、やはりエリアスも早く魔法を使ってみたい様だ。



「そりゃビビアナの子供でしょ、魔導期の人達と同じ様に使えるはずだもん。魔法式さえ覚えたらすぐに使える様になると思うよ」



「そんなに違うものなの?」



「そうだねぇ、例えるなら産まれてくる子供達は最初から鼻の穴があるとして、エリアス達は髪の毛くらいの穴しか開いてないのを少しずつ呼吸する事で広げていってる…って言えばわかるかな?」



「わかった様なわからない様な…」



 3人共微妙な顔で首を傾げた。



「アイル、どうして鼻の穴で例えたの? もっと他に…ピアスを少しずつ大きい物に変えて広げていくとかさ…」



「あっ、そっちの方がわかりやすいね!」



 エンリケの説明の上手さに思わず拍手する。

 エンリケの説明できちんと理解出来た3人は、残念なモノを見る目を私に向けた。

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