第64話 要塞都市エスポナ

「エスポナに到着したら明日1日のんびり過ごそうか、馬達も疲れが溜まってきたみたいだし、休養日って事で。あ、見えてきたよ」



「うわぁ…! トレラーガより大きくない!?」



 ウルスカを出発して2週間、ガブリエルが指差す方を見ると明らかに今まで見てきた外壁より高さも頑丈さも格段に上に見える街が見えた。

 街というよりむしろ砦と言われた方がしっくりくる。



「ここは隣国セゴニアと隣接しているから要塞都市なんだ。王都まで3日の距離だから援軍もすぐに出せるしな」



 要塞都市エスポナに興奮する私にリカルドが教えてくれた、要塞都市って響きがなんかカッコイイ!



「でも逆にエスポナが陥落したら王都まですぐ攻め込まれるんじゃない?」



「はは、エスポナは別名鉄壁の要塞都市とも言われているくらいだから大丈夫だ、実際3度の侵略を完全勝利で返り討ちにしているしな。それにエスポナを過ぎたら途中に切り立った崖の間を通る道があるんだ、崖の上には王都側からしか登れない…な」



 そう言ってニヤリと笑った、意外とリカルドも悪い笑みが似合う。



「なるほどね、例え突破されてもそこで待ち伏せしてしまえば一網打尽って訳か」



「おお~、よくわかったな、賢い賢い」



 ホセにグリグリと頭を撫でられた。

 くっ、チェスやリバーシで仲間に負け続けていたホセが唯一勝てる私に対して時々アホの子扱いしてくる。

 ペシッと手を払い退けてやった。



「言っとくけど元々私は賢いの! ただちょっと素直過ぎて狡猾さを必要とするゲームが弱いだけなんだからね!」



「んん~? それはゲームで勝てない負け惜しみか~?」



 ニヤニヤしながらホセが顔を覗き込んでくる、馬上でのやりとりだから殆ど頬擦りするくらい顔が近い。

 近付くホセの顔を掌で押し返しながらわちゃわちゃしているとヒンヤリとした声でエリアスが言った。



「アイル、それってゲームに強い僕が1番狡猾な性格してるって事かな?」



「え? 違うの?」



「えぇっ!?」



「「「「ぶはっ」」」」



 何を当たり前な事を言っているのかとキョトンとして答えたらエリアスが驚き、皆が同時に吹き出した。

 ガブリエルも笑ってるって事は付き合いの浅いガブリエルにすらそう思われてるって事だし。



「そういえば3回もセゴニアと戦争してるって言ってたけど、今は大丈夫なの?」



 話題を変えるべく、まだ肩を震わせて笑いを堪えているリカルドに聞いてみた。

 こっちに居る時に開戦なんて事になったら強制招集で戦えとか言われそうだし、ちょっと怖い。



「ああ、戦争があったのは魔導期終わってすぐまでだ。魔法を使った攻撃が出来なくなってからは基本的に戦力は魔物に向けていたら戦争なんてしてる余裕も無いしな」



「実際魔導期が終ってすぐの頃…サブローが来る少し前に戦争しようとしたら大氾濫スタンピードが起きて戦場がパニックになった事があったんだよ。魔法使える人が減って間引きが間に合わなかったんだろうね、それ以来戦争する暇があるなら魔物を間引けって考えが一般的になったんだ、いやぁ懐かしいなぁ」



「だけどたまにきな臭い話が聞こえるでしょ? ガブリエルは王都でそんな話聞いたりしない? 僕達のところまで聞こえるんだからさ」



「多少はね、この国パルテナが海に面している限り常に狙われるのは仕方の無い事かな。セゴニアで岩塩が大量に採掘出来れば心配は無くなるかもしれないけど、殆ど採れないからね。塩と言えばサブローが塩から採れる何とかって言う物が取り出せないからしょっぱい豆腐しか作れないって言ってたなぁ」



「もしかしてにがり?」



「あっ、そう、それ!」



 豆腐が売られてたけど、確かに塩っぱい味が付いてたから変だと思ってたんだ。

 そうだよね、海水から作る塩ににがりが含まれている事を知っていてもどうやってにがりを取り出すか知らないよねぇ、私もテレビで見るまで知らなかったし。



 確か湿度の高めのところに置いておいたら染み出してくる苦い液体がにがりだったはず。

 ウユニ塩湖とか塩水が凝縮されてるから普通に塩を作ると凄く苦い塩なんだとか。



 そんな話をしながら進み、いつもの様にガブリエルの身分証ですんなり門を潜ると都会な街並みが広がっていた。

 そしてやけに兵士や騎士の姿が多い、流石要塞都市である。



 戦闘訓練が盛んに行われるこの都市では、疲れを取る為にもお風呂が凄く充実しているんだとか、宿にも浴場があるのが普通で高級宿だと部屋毎にお風呂があるらしい。



「のんびり過ごす為にもここは中で仕切られている家族部屋をとってゆっくりしようか、そうすれば部屋のお風呂に好きなだけ入れるよ」



 ガブリエルは1人部屋を回避すべくスイートルーム仕様の家族部屋を猛プッシュしてくる様になった。

 高級宿の家族部屋は夫婦の寝室の他にも使用人や子供の為にいくつかに分けられていて、なおかつリビング的な部屋があるので寛ぐ時は皆一緒に過ごせるのだ。



 大抵夫婦用寝室に私とビビアナ、ベッドの数によってはプラス獣化したホセが寝る。

 そしてガブリエルお勧めの宿に向かい、大きめの部屋風呂にテンションの上がった私はビビアナと2人で早速入った。



 そして…うん、知ってたんだけどね。

 今まで入ってたお風呂はよくあるユニットバス程度の深さだったから気にした事無かったけど、ここのお風呂は少し深めになっていた。

 故に普段の形状とほぼ変わらない私と違って明らかにお湯に浮いているビビアナの双丘の浮力を目の当たりにしてちょっぴり心にダメージを受けただけ。

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