第65話 その呼び方はやめて!
「んん~…、よく寝た~」
大きなダブルベッドで目を覚まし、寝転んだまま大きく伸びをしてもスペース的には余裕がある。
夫婦用の寝室なのでホセみたいに大きい人が2人寝ても大丈夫なサイズなのだ。
しかし流石に男同士で
弊害があるとすればビビアナのマシュマロ乳で寝てる間に窒息死しそうになった事があるくらいかな…。
今日は各自で自由行動しようと言う事になっているので起きる時間も皆バラバラになる。
時間は7時を過ぎたところだからもう食堂で朝食を食べられるはず、寝ているビビアナを起こさない様にそっとベッドを抜け出して着替えて寝室を出た。
「おはようアイル、良かったら私と一緒に出掛けないかい?」
一体いつから待っていたのだろう、他の3人は既に居なくなった部屋でガブリエルが出掛ける準備バッチリで立っていた。
「おはよう、朝食はもう食べたの?」
「いいや、他の3人は今頃食堂で食べてると思うけどね」
ニコニコと待ってたアピールするガブリエルに勢い良く振られる尻尾の幻影が見える気がした。
流石にこの状態で断る程私は鬼じゃない。
「そっか、じゃあ一緒に行こう」
「うん!」
階下の食堂に向かうと既に3人は食事を済ませて出掛けたらしく、姿が見えなかった。
「あれ、もう3人共居ないみたい」
「エスポナは要塞都市なだけあって武器屋も防具屋も充実してるからね。全部回ろうと思ったら1日じゃ足りないくらいだよ、ドワーフがやってる店もいくつかあるからそっちに行ったんじゃないかな」
ビビアナの矢はそれなりの数を私のストレージに入れてあるけど、剣や槍は大きい街じゃないと他の店と比較したり出来ないもんね。
朝食を済ませた私とガブリエルは特に目的も無いまま商店街をブラつく事にした。
魔法が使えなかったら欲しいと思う様な魔導具が今まで通った街より充実している、流石王都に近い都市なだけはあるなぁ。
商店街を抜けると大きな広場に出た、そこにも露店が並んでいてとても賑やかだ。
「おや、アイル、このネックレス良いと思わない?」
アクセサリーが並ぶ露店の前で足を止めたガブリエルが指差したのは金の細いチェーンに緑の小さな石が嵌った大人可愛いデザインのものだった。
「へぇ、可愛いね。あれ? この石って魔石じゃない?」
私の呟きに店主が反応した。
「お嬢さんよくわかったね、魔導具に使われる魔石を加工した時に出る欠片を使ってるからそっちのエルフの兄さんなら魔法を付与する事も出来るんじゃないか? 大抵は教会で祈りを込めるんだけどね」
「教会で祈りを?」
「そうさ、まぁただの気休めだが…もしかしたら女神の加護が付くかもしれないだろ? 加護が付かなくても俺の作品はアクセサリーとしても魅力的だしな!」
結構厳つい見た目のおっさんだけどこの大人可愛いアクセサリー達の作者だったのか…。
「ふふ、そうね凄く素敵。普段使い用に買おうかな」
「じゃあ私にプレゼントさせてほしいな、この旅の記念に」
「え、でも恋人でもないのに…」
「ははは、恋人じゃなくてもプレゼントくらいするでしょ? 友人同士とか」
「まぁ、そうだけど…」
「じゃあ決まりだね! コレを貰おう」
「まいど! 銀貨2枚だよ」
思ったより高かった、だけど普段使っても問題無い値段だから問題無いかな。
流石に金貨が必要な値段だと普段使いするのは躊躇しちゃう、討伐の時に落としたら大変だし。
「さ、つけてあげる」
「ん、ありがとうガブリエル」
つけて貰う時に気付いたけど、この色合いってそのまんまガブリエルの髪と目の色だ。
普通自分の色を身につけさせるのは恋人なんじゃないのかな…、人付き合いが無かったせいなのか、エルフの文化が違うのか、それともただデザインが良いから選んだだけなのかは知らないけど教えてあげた方が良いのだろうか。
「うんうん、似合ってるよ」
「それって自分のセンスが良いって言ってるの?」
「はは、そうかもね」
しかし満足そうにしているガブリエルを見たらそんな指摘は野暮かなぁと思ってやめておいた。
だからとりあえず軽口を叩き、お返しは何が良いかなと考えながら歩き出す。
「付与は自分で好きなの付けてもいいし、私が付けてもいいよ。ただ小さい魔石だから強力な魔法は掛けられないけどね」
「とりあえずは普通のアクセサリーとして使うよ、大事にす「あっ、トレラーガに居た
ゾッとする言い方に怒りを込めて声のした方を見ると、何となく見覚えのある青少年が私を指差していた。
トレラーガと
あの顔…、見覚えがあるという事は呼び出された時にも居たって事よね、あの怒った様な顔は…。
「あっ、エドに床へ無様に叩きつけられた人!」
思い出して思わず声が大きくなってしまった。
「その言い方やめろ!」
「そっちこそ気持ちの悪い呼び方しないでよね!」
そういえばあの時の騎士団は王都から来ていたんだっけ、王都に近いエスポナに居ても不思議じゃない。
全然嬉しく無い再会に私達は険悪な雰囲気で睨み合った。
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