第30話 二度ある事は三度ある
昼食後に萎えた気持ちを立て直す為にも一旦宿に戻る事にした、宿に戻ると受付のお姉さんが手紙を預かっていると言って渡してきた。
一瞬エドガルドかと警戒したが、差し出し人はミゲルだった。
『アイルへ
今日は街を見て回ると言っていたから手紙を書きました。
評判の店の予約が取れたので今日の夕食を一緒に食べましょう、6の鐘が鳴ったら迎えに行きます。
予定があるなら宿屋に伝言を残しておいて下さい。
ミゲルより』
こっちの世界は基本的に朝6時に1の鐘、2時間毎に鐘が鳴って夕方6時にその日最後の7の鐘が鳴る。
つまり4時過ぎに迎えに来るという事か、夕食の時間を考えたら間違っても間食はできないな。
「今日の夕食ミゲルと行ってくるね、皆はどうする?」
手紙を読み終わってワンピースに着替えながら、部屋で各自ベッドに腰掛けたり寝転んだりと寛いでいる4人に聞いた。
「オレらはここの食堂でいいんじゃねぇ?」
「そうね、朝食と夕食は宿代に含まれているわけだし」
「僕達の事は気にせず楽しんでおいで」
「ただあの男…エドガルドだったか? アイツには気を付けるんだぞ」
「うん、わかった。夕食を済ませたら早めに帰るよ」
………って、言っていたのに。
今私の目の前には満面の笑みのエドガルドが居る、ミゲルと楽しく食事していたら現れたのだ、それは30分程前の事になる。
「アイル、また会ったね、約束通り一緒に食事してくれるかい?」
そう言いながら許可も取らずに4人掛けのテーブルの席のひとつに腰掛けた。
ミゲルはエドガルドを知っていたらしく口をパクパクさせている。
「約束? 了承した覚えはないんだけど? それにもう食事は終わったところなの」
「なぁに、明日の朝食も食事だよ。ここは私に奢らせてくれ」
エドガルドがパチンと指を鳴らすと12歳くらいの美少年が現れて支払いを済ませ、強面の男2人がミゲルを挟む様にして店を出て行った。
ジロリとエドガルドを睨むと嬉しそうにニッコリ微笑みを向けられた。
「さぁ、彼は先に馬車に乗っているから一緒に来てくれるだろう?」
つまりはミゲルに危害を加えられたくなければついて来いという事か、昼間脅したつもりだったけど、あれでは足りなかった様だ。
「は~~~~…、わかった…。その代わりミゲルは無傷で帰してやってよ」
肺活量いっぱいの長いため息を吐いてから思いっきり嫌そうな顔で了承した。
それでもニコニコしたまま私をエスコートして馬車に乗り込んだ。
「ごめんねミゲル、私が今朝この変質者に目をつけられたばっかりに…。やろうと思えば変質者の一味を殲滅する事も可能だから心配しないでね」
「アイル…」
青褪めるミゲルを安心させようと笑顔で声を掛けると、今度は支払いをした美少年が私の言葉に青褪めている。
闇雲に探索するより相手の拠点に着いてから行動した方が楽だし、ミゲルが帰ったら二度とこんな事しようと思わない様に躾けないと。
そんな思いを込めてエドガルドを睨むとニコニコして眺めているだけだった。
怪し気な裏通りに入る前に馬車が止まる。
「デスティーノ商会の坊ちゃんはここで降りて貰おうか」
「そんな…っ、それじゃアイルも一緒に…!」
エドガルドに対し震える声で抗議するが、エドガルドに冷ややかな笑みを向けられ黙ってしまった、というより恐怖で声が出ないというのが正しいだろう。
ミゲルの震える手を取って落ち着かせる様にポンポンと優しく叩いた。
「私なら大丈夫だから、結構凄腕なのよ? 帰っても余計な事は言っちゃダメよ? 殲滅しちゃった場合私の仕業ってバレちゃうから。 明日の午前中にお店に顔出すから安心してね。……『
最後に手にキスするフリしてコッソリ反射魔法でミゲルに防御を施す、この後帰るまでに何かあったら大変だもの。
暗くてもわかるくらい薄汚れた路地を進むと存在感のある屋敷に着いた。
そして応接室の様な部屋で今に至る、お茶を出されたけど怪しくて飲む気にはなれない。
実際鑑定したら睡眠薬が入っていた、私には加護のお陰か耐性があって効かないみたいだけど。
「アイル、私は君をとても気に入ってしまってね、私と一緒に暮らさないか? 私があらゆるものから護ってあげるよ、アルトゥロと同じ様にね」
その言葉にドアの横に控えていたアルトゥロが無表情ながらピクリと反応した。
アルトゥロを鑑定したところ12歳でエドガルドの部下兼愛人と…って愛人!?
アルトゥロがエドガルドを見る目には嫌悪や憎悪は無いので両想いなんだろう。
ロリコンって聞いてたけど、どっちもイケるタイプの
ハッ、だったら成人してるって言えば守備範囲から外れるんじゃない!?
「コホン、私もう成人してるので誰かの庇護下にいなくてもいいの。自由な冒険者が性に合ってるから放っておいて、関わらないでくれる?」
ツーンとそっぽ向いて言い放ってやった。
………? 反応が無い、チラリと見ると2人とも凄く驚いた顔で口が開いている。
くっ、そんなに驚かれると虚しくなるがコレで私への興味は無くなっただろう。
「せ、成人…?」
エドガルドが絞り出す様に言った、信じられないというのがヒシヒシと伝わってきたわよコンチクショウ。
「15歳よ、成人でしょ? あっ、でもまだ成長するからね! まだ伸び代はあるんだから!」
これは大事な事だからしっかり言っておかなくては。
エドガルドは呆然としたまま立ち上がると私の前で跪き、そして両手をキュッと握った。
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