第31話 躾

昨日書き忘れていたので…。

またお勧めレビュー頂きました、ありがとうございます!(*´∇`*)


◇◇◇


 「アイル、君こそ私の理想の人だ! 成人してなおこの愛らしい幼い容姿! そして腕の中に収まるサイズ! まさか…成人女性でこんな…、アイルならこの先ずっと愛し続けられるじゃないか!」



 どうやら私の目論見は外れてしまったんだと理解した時には遅かった。

 ガバッと抱きしめられてエドガルドの腕の中に閉じ込められた、あ、この人ホセに負けないくらいいい身体してる。



 厚い胸板に頬が潰されているので硬さがわかる、腕もかなり筋肉質だ。

 しかし私には筋肉なんて関係無い、興奮して喋っている隙に呪文を唱えた。



「『雷撃ライトニングストライク』」



 その瞬間バヂィッと痛そうな音がしてエドガルドが膝から崩れ落ちた。



「な…っ! おい! お前エドガルド様に何をした!?」



 アルトゥロが焦って駆け寄って来た、その隙にそっとエドガルドから離れる。



「死んではいないから安心して、私に触ると火傷するって事よ。エドガルドが目を覚ましたら言っておいて、私は良識と常識の無い男に関わる気は無いってね。次は気絶だけじゃ済まさないから。この場所は覚えたし、余計な事したら中の人間諸共瓦礫の山になるわよ?」



 部屋から出て玄関へ向かうと見張りの強面の男達が立っていた。

 私を見つけるとニヤニヤと下品な笑みを浮かべて近付いて来て、値踏みする様に下から上までじっくり見る。



「えらく早いじゃねぇか、ボスは気の強ぇガキを従順になるまで躾けるまでが楽しいらしいが…、もう調教済みなのか?」



 あの変態そんな事して喜んでたわけ!?

 って事はアルトゥロとかいう少年も調きょ…躾をされて部下になってるんだろうか。



「調教ねぇ…、今のところ第1段階ってところかしら? あんまりオイタする様なら大変な事になるのはわかってるでしょう?」



「おいおい、あんまり最初から従順だとすぐに飽きられても知らないぜ?」



「2度と関わらないならそれでもいいのよ、エドガルドはおねんねしてるから帰るわね」



「へ? 珍しいな…」



 いい感じに勘違いしてくれてる様なのでシレッと屋敷から出て月夜の雫亭に帰った。

 そして開かれる報告会、何故ならミゲルがすぐ家に帰らず『希望エスペランサ』の皆に助けを求めたからだ。



 思わず胸倉を掴もうとしたリカルドの手が弾かれて私の魔法だと気付いたらしい、話を聞いた後ミゲルを大丈夫だからと帰して部屋で待機…していられなくて階段から入口、そして宿の前で待ち構えていた時に私が帰って来たというわけだ。



「じゃあオレはミゲルにアイルが無事に帰って来た事教えてくる」



「頼んだ。で、ミゲルに反射魔法を掛けて帰した後はどうなったんだ?」



「えっとぉ…、かくかくしかじか…てな訳で放置して帰ってきたの、食事にも事欠く子供ならあっさり言う事聞いてもおかしくないもんね。エドガルドも馬鹿じゃなきゃもう関わって来ないでしょ」



 興味を無くしてもらおうと成人してる事を話して失敗したとか理想だと言われて雷魔法で気絶させて置いてきた事まで洗いざらい報告したのだが、3人は考え込んでしまった。



「ただいま~、ミゲルのヤツ安心して泣き出しちまって大変だったぜ」



「「「「おかえり」」」」



「で、アイルの話は聞いたのか?」



「ああ、恐らくこれ以上無いくらい目をつけられたか恐れをなして関わってこないかの2択だろうな」



 リカルドの言葉にエリアスとビビアナが頷いた。

 おかしいな、関わりたくなくなる様に対応したつもりなのに皆は違う意見の様だ。

 大丈夫だと思うんだけどなぁ、そんな甘い考えをしていた昨夜の私を殴りたい。



 今日は冒険者ギルドに行こうと朝食後に皆で宿から出たら花束を抱えて笑顔で立っているエドガルドが居た。

 そして私と目が合うと片膝をついて花束を差し出した。



「アイル、君を私のモノにしたいと思ったが、それは間違いだった。私が君のモノになろう!」



「え、いらない…」



 思わず口をついて出た言葉にエドガルドはショックを受けた様で絶望というのがぴったりの顔で俯く。

 何でこうなった!? むしろ1割くらいの確率で報復しにくるかと思ったのに、エドガルドの思考回路が理解できない。



「そんな…、私は物心ついた時から道具として生きてきてそんな生活に嫌気がさして組織を(潰して)飛び出してきたんだ。偶然が重なって商会長となりこの辺りのボスとして祭り上げられたがずっと虚しかった…」



 なんなのこの突然の自分語り…、朝の半端な時間で人通りは少ないとはいえ目立つんだけど。

 リカルド達もポカンとしたまま何も言えなくなってるし。



「昔から薄汚れた大人ばかり見て来たせいか気付いたら子供相手でないと安らげなくなっていて相手をさせていたが、ちょっと躾けただけで壊れるか従順過ぎる程になってしまうし、しかもすぐに大きくなって余計に虚しくなるばかりだった…だが!」



 バッと勢い良く私を見上げたその目はキラキラと輝いていて思わずたじろいでしまう。



というだけでも嬉しかったのに昼間の屋台街での事といい、一瞬で意識を刈り取る程の実力を持っているだなんて…! 目が覚めた時には世界が輝いて見える様になっていたよ、君に仕えたい、むしろ蹂躙されたい…と!」



「まだ(胸は)大きくなるもん!」



 咄嗟に子供の様に反論してしまったが、肩に手を置かれて振り向くと皆が「そうじゃない」と言わんばかりに首を振った。

 これ以上大きくならないと言われてカッとなったけど、なんか後半かなり妙な事を言っていた様な…、聞こえなかったんじゃなく脳が拒否して理解するのを避けたのだろうか。

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